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料理王子の謎解きレシピ  作者: 地野千塩


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料理王子vs自然派ママ(4)

 期末テストは無事に終わった。


 どの教科も90点以上だったので、このまま特待生として学費もタダになった。


 クリスマス近くの学園内は、謎の停電騒ぎがあったり騒がしかったが、美月はテストが終わると風邪をひいてしまい、そのトラブルには巻き込まれなかった。


 風邪が治って復帰した日と終業式は同じ日だった。こうして今年の二学期はバタバタと終わった。


 鈴蘭商店街の福引の補助券も全部集まった。今年は一回しか引けないが、二等か一等をゲットしたいと意気込んでいた。23日の午後から開かれる料理コンテストはすっかり忘れていた。


 というのも秋人も多忙で、あまり会えなかったのだ。やっぱり年末の大人は忙しいらしい。母も締め切りに追われているようで、ほとんど電話もテレビ通話も出来ない日々だった。


 桜や直恵も何かと忙しいようで、遊ぶ約束もできなかった。もう冬だし、桜の家の庭でお茶会などをするのも難しいだろう。


 そんな何となく寂しさを抱えていた頃、23日になった。


 美月は、分厚いコートを着込み、鈴蘭商店街の特設会場も向かっていた。今日はここで料理コンテストが行われる。


 もうすでに人が集まっていた。会場には呑気なクリスマスソングが流れて騒がしい。いつもは何もない商店街の空き地といえど、人が集まっていて密状態だった。手作り感は溢れているが、審査員のいるステージや予選通過者のブースもあり、なかなか賑やかだった。


 人だかりで予選通過者のブースの方はよく見えないが、どうやら3人ほどが予選に通過したらしい。


 一人は、主婦の原口菜々。レインボー柄の写真映えしそうなクリスマスケーキで予選通過したようだ。


 もう一人は、例の自然派ママの山本白子だった。イメージ通り、グルテンフリーのオーガニック素材のクリスマスケーキで予選通過したようだった。秋人から白子の予選通過の裏側を聞いてしまった為、美月は素直に応援できない。


 そして3人目は、明日香だった。モクリスマスツリーに見立てたカップケーキで参加していた。デコレーションされていて、この中だと一番可愛らしい雰囲気だった。


 明日香も白子みたいな理由で選ばれたの???


 そんな事も考えてしまって、心の中がザワザワとしてきた。なぜか明日香に事を考えると心が落ち着かない。


 しかし、この中では一番可愛らしいケーキだし、調理中の明日香はきびきびと動いて無駄がない。一方原口はのんびりとマイペースに調理していた。白子は手際が悪く、よく調理器具を落としていた。その度に動揺していて、メンタルの弱さが伝わってくる。


「おーい、美月ねぇちゃん!」


 美月は人混みに紛れながら、それぞれの参加者達の調理の様子を見ている時、浩に声をかけられた。


 相変わらずマスクはしていないが、モコモコ素材のジャンパーを着ていた。どことなくクマっぽくて可愛らしい。もっともマスクがしていないし、相変わらず真意不明の陰謀論も語っていたが。


「浩は、どうなの? 応募したんでしょ、落ちちった?」


 その事情については、秋人から聞かされていたが、一応本人に聞いてみた。


「予選落ちだよ。まあ、僕があの自然派ママとメニューがかぶっていたからしょうがないね」


 浩は大人ぶって肩をすくめて見せた。浩に聞くと、オーガニック素材だけで作ったシフォンケーキを応募したそうが、意外と今はあっさりとした表情を見せている。


「残念だったね」

「しょうがないよ、美月ねぇちゃん。あの自然派ママは手強いよ」

「あの人、噂なんか聞いていない?」


 秋人によると自然派ママの白子は、トラブルメーカーらしい。近所の噂はどうか気になる。調理している白子の姿は、何処にでもいるアラフォー女性といった雰囲気だが。もっとも着ている服は、天然資材っぽいシャツやスカートでどうも垢抜けないが。メイクのままりしていないようで、髪も白髪まじりだった。天然すぎるというか、自然派すぎる見た目だった。


「まあ、あの人は評判悪いよ。商店街の定食屋の添加物使ってるだろ!って文句つけたりさ。僕もスーパーのお惣菜買ってたら、文句言われた事があるよ」

「えぇ。何それ、余計なお世話じゃん」


 それを聞いて美月も顔を顰める。


「僕が貧乏人だから、オーガニックや良い野菜が食べられないんだろうって言われた。本当に余計なお世話だよ」

「浩みたいな陰謀論好きにも嫌われてる白子さんって相当だね……」


 遠目で調理をしている白子を見てみたが、確かに少し吊り目で、優しそうな性格には見えない。一方、同じくこのコンテストに出ている原口は、いかにもおっとりとした主婦という雰囲気だ。明日香は、まあ、最近妖怪系女子だと知ったわけだが、調理している姿が楽しそうだ。


 この人混みの中に勇人がいるのも見つけた。ちょっと声を上げながら明日香を応援していた。一時はマリッジブルーに陥っていた明日香だったが、この様子では問題無さそうに見えた。勇人の料理スキルは一方に上達していないようだが。


 そうこうしているうちにコンテスト参加者のケーキが出来上が審査の時間に入った。


 ここでようやく秋人が商店街の会長と一緒に出てきた。


 今日はきちんとしたキラキライケメン王子バージョンで出てきた。ジャケット姿で、髭もちゃんと剃り、髪もセットしていた。こうしてみると、本当に別人だ。会場であちこちから黄色い声が上がっている。コンテスト参加者の原口はキラキラした目で秋人を見ていた。どうやら原口は、秋人のファンらしい。


 一方、白子は秋人を鬼のように睨んでいて怖い。明日香は、キラキライケメン王子バージョンの秋人に、ため息をこぼしていた。確かに普段のニートバージョンに様子を知っていると、裏表の激しい人にしか見えず、ため息が出てくる気持ちもわかる。


 商店街の会長が挨拶し、さっそく秋人と二人で審査の為の試食が始まった。

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