料理王子vs自然派ママ(3)
いよいよ期末試験が始まった。
学費の為に成績上位者になるための負けられない戦いだ。
美月はしゃかりきに暗記し、バリバリと解答欄に答えを埋めていった。
午前中で学校の時間は終わる。いつもは職員室に入り浸っている美月だが、この期間だけはそこに入れない。学校の図書館も12時で終わってしまうので、試験が終わるとさっそと学校から帰るようにしていた。
午前中で学校が終わるとはいえ、今は試験中だ。遊びに行くわけにはいかない。
ただ、近所のスーパーでじゃがいもとニンジンが安いとチラシに書いてあったので、学校帰るに寄ってみた。
すでに主婦達にじゃがいもとニンジンは、買われていた。在庫もほとんどなかったが、ジャガイモだけ最後の一個をゲットした。この時間はなかなかスーパーに行くことはないが、開店直後に争奪戦があったのだろう。
あとは激安の緑茶とパン粉だけカゴに入れてレジに持って行こうとしたが、惣菜コーナーに秋人がいた。
値引きされた弁当やパックに入った唐揚げをカゴに入れていた。
今日もニートバージョンだが、目の下のクマが出来、いつも以上に神がパサパサだった。疲れているのが伝えわってくる。スーパーの店内は、クリスマスムードで華やかだが、秋人に周りの空気がどよーんとしていた。
「秋人さーん!」
思わず秋人に声をかけていた。
「なんだ、美月ちーか」
「なんだじゃないですよ。なんか元気なくないですか?」
「実はさー」
秋人に話を聞くと、鈴蘭商店街のクリスマスケーキコンテストで頭を悩ませているらしい。
予選にあの自然派ママ・山本白子も応募して来たらしい。自然派ママらしく、グルテンフリーの健康的なレシピらしかったが、商店街の会長から、白子を落ちさないよう圧力をかけられたらしい。
なんでも白子は、トラブルメーカーとして有名で、落としたらめんどくさい事になると言われたらしい。
「いや、本当面倒くさい。白子さん、俺のSNSにもしょっちゅう文句送ってくるし」
かなり秋人を悩ませているようだった。結局このコンテストは、白子を予選を通してしまったらしい。浩も応募してきたが、白子を通す為に落としたという話だった。
「いや、何それ。浩、可哀想」
「はぁー。しょうがないよ。大人の世界は、醜いのさ」
そう言って秋人は、さらに惣菜のコロッケをカゴに入れた。
あまりにも秋人がヘタレに見えてしまい、美月は深くため息をついた。
一緒にレジにいき、イートインコーナーでしばらく秋人と話したが、どんどん秋人が情けなく見えてしまって困る。
「全くコンテストには、期待していなかったけれど、本当に興味なくなった〜」
「そんな事言うなよ、美月ちー。一応23日にコンテスト見にきてくれよ。あんまり人が集まらないと、来年からイベントも中止になるから」
そういう秋人は、大人のかっこよさは微塵もなかった。可哀想になるぐらいだった。
ふと明日香の顔が頭に浮かんだ。
「もしかして、明日香さんが結婚しちゃっうから、やさぐれてる?」
「え!? 戸田ちゃん? いやいや、関係ないよ。あんな怖い人だとは思わなかったし。なんで、俺、戸田ちゃんに告白したんだろう? 若気の至りか?」
なぜかその言葉を聞いて、美月はホッとしてしまった。
「なんだか、可哀想になってきたわ。仕方がない。23日、コンテストに遊びに行きよ」
「よかったよー。美月ちーが来てくれるなら」
そう言って笑う秋人を見ながら、美月の気持ちはなぜかホッとしていた。
お気に入りのおもちゃが戻ってきたような感覚?
なぜか秋人は誰かのものには、なって欲しくないようなモヤモヤした気分になっていた。
それだけ、秋人の存在が自分の中で大きくなってしまったという事だろうか。
それを自覚すると、美月はちょっと恥ずかしくなってきた。
一円も得しない事は嫌いだった美月だが、自分の中で秋人は大事な存在だという事は否定できないようだった。
「秋人さんは、クリスマスはどうするの?」
「教会で礼拝して、教会でパーティーかな。あとは桜にケーキつくるかな。でも、桜も直恵ちゃんとこの教会行くとかなんとか言ってたし」
「もしかして一人?」
「そうかもー。寂しいな。でも一人で神様の誕生日を祝えるならいいや」
少し強がったように秋人は胸を張っていた。




