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料理王子の謎解きレシピ  作者: 地野千塩


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料理王子vs自然派ママ(2)

 期末テストのあるおかげで、普段暇な美月も忙しかった。


 学校の図書館で勉強したり、成績の良い直恵に教えてもらったりしていたので、秋人の家にもなかなか行けなかった。


 秋人も秋人で、新しいレシピ作りの開発やレシピ本の作成、子供食堂の支援などで多忙そうだった。


 ただ、抹茶がときどき美月の家に食糧を運んでくれていたので、食事が困る事はなかった。


 今日も学校の帰り、抹茶が家に来てくれる事になっていた。


「美月さーん。こんにちは。お食事持ってきましたよー」


 抹茶は、鼻を真っ赤にしてやってきた。外は少し雪がちらついているようだ。このまま抹茶をかえすのは、可哀想だと思い、家に上げる事にした。ちょうど母からチョコレートやパンケーキミックス、インスタントコーヒーなどを仕送りでもらっていた。抹茶にコーヒーをご馳走しても良いと思った。


「じゃあ、お邪魔しますー」


 最初は遠慮していた抹茶だったが、温かいコーヒーを淹れるというと事で入ってきた。


 美月は部屋に案内した。といってもワンルームのアパートなので、別に客間などはなく、台所のすぐそばにある食卓に案内する。


 食卓には、母からのチョコレートやインスタントコーヒーを淹れて並べた。食卓には、甘ったるい香りで満ちる。このコーヒーはフレーバーコーヒーで、チョコレートの香りがする。


「どうぞ、抹茶さん」


 食卓につき、二人でコーヒーを啜った。


「このアパート、実は事故物件なんですよねぇ」

「ぎゃっ! 怖い事言わないでくださいよ」


 さっきまで顔が寒さで赤かった抹茶だったが、この話題で顔を白くしていた。意外と怖がりのようだ。


「でも近所の教会の牧師さんのエクソシストして貰ったので、全然大丈夫ですよ!」

「いやいや、怖いですって!」


 この話題で抹茶は早く帰りたくなったらしい。保冷バックから、鍋に入ったスープ、ラップに包まれたおにぎりを出した。あと生卵や食パンも差し入れで持ってきてくれたようだ。


「抹茶さん、ありがとう! 本当、助かりますぉ」


 これで期末試験の勉強も頑張れる。美月が目を潤ませながら感動していた。


「このスープは、秋人さんも開発中のメニューですね。一見普通の玉子スープですが、オートミールが入っていて糖質オフです」

「おいしそう!」


 鍋の蓋をチラリと外して見ると、暖かくホッとするいい匂いがした。


「ところで最近、秋人さんに会えてないけど、元気?」


 数日会っていないだけだが、以前は毎日の様に顔を合わせていたので、少し距離を感じているところだった。


 すると、抹茶は微妙な表情を浮かべてコーヒーを啜った。


「え? 秋人さん、元気じゃないの?」


 ニートバージョンの抜けた顔の秋人の姿を頭に思い浮かべる。元気じゃないところを想像できないのだが。


「実はまたSNSで秋人さんが叩かれてしまって」

「えー? 本当?」

「美味しさの素の件で、アンチ添加物の自然派ママ達から猛攻撃受けてしまってね」


 抹茶は苦々しいため息をついた。


 秋人はいわゆる陰謀論好きやアンチ添加物の自然派ママから嫌われていた。


 秋人の作るレシピは、簡単で時短でできるものが多い。はっきり言って初心者向けだ。味付けもめんつゆや白だし、調味料・美味しさの素を利用したものが多い。


 この美味しさの素は、添加物が多く配合されており、陰謀論者や自然派ママから一方的に嫌われていた。


 美味しさの素は、パッケージも魔法のランプのようなケースに入っていて、ちょっと怪しい雰囲気もある。元々は「魔法の白い粉」という商品名だったが、誤解を呼ぶと炎上し、美味しさの素という商品名になった。


 陰謀論者や自然派ママからは嫌われている美味しさの素ではあるが、手軽で安く、味も決まりやすい。多忙のママや料理初心者からは、救世主のような調味料でもあり、秋人もよくレシピで使っていた。蒸し芋や白いご飯にかけるだけでも、味わいがよくなり、貧乏人の味方でもある。美月も時間がない時は、よく美味しさの素に世話になっていた。確かに裏に成分表示を見ると、添加物がどっさり入っているので、健康食品とはいえないが。


「ところで、美味しさの素って本当に自然派ママが言うように悪いんですか?」


 それは美月も疑問だった。なるべく商品の裏をみて、添加物が少ないものを選ぶ時もあったが。


「別に大量の食べなければ大丈夫でしよ。添加物が危険という論文も大量に摂取した結果のデータ見たいです」

「なんだー、よかった!」


 美月はホッとして甘い香りのコーヒーを啜った。


「それにオーガニックと言われているものも返ってお腹を壊すものもあるらしいです。この世界は、神様が創った時は完璧でしたが、今は罪が入って堕落しちゃってますからねぇ。自然のものも案外危険なんです」

「うーん、なんか宗教的ですね」

「難しかったかな? でも添加物も人々の暮らしを良くする為に時間とお金を投資して作られたものです。全部が全部悪いというのは、陰謀論ですねぇ」


 そう言って抹茶はクスクス笑っていた。普段、温厚そうな抹茶だが、意外と策士っぽい。


「また。特定のオーガニック食品だけ食べるのもかえって栄養失調になるデータもあるらしいですよ」

「そうなんですか? 意識高ければいいってもんじゃないんですね」


 それは初耳だった。


「ええ。肝心なのは、食べ過ぎない事とバランスです」

「そかっか。だったら、秋人さんのレシピだって悪くないね。陰謀論者や自然派ママ達にも伝わればいいね」

「そうですねぇ。でも伝わりますかねぇ」


 抹茶は、苦笑していた。自然派ママでも山本白子という主婦がかなりしつこく攻撃してくるらしい。この近所にも住んでいるらしく、セミナー的なものを開いてファンを作っているそうだが。


「秋人さん、心配ですね」

「まあ、いざとなったら訴えますよ。ふふ」


 そう言って意地悪そうみ笑う抹茶を見ていたら、美月の表情も引き攣っていた。とりあえず、この件は抹茶に任せておけば大丈夫そうだ。

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