お茶会とマリッジブルーの謎(8)
秋人は、風邪をひいて倒れた勇人の為に、お粥など食事を作りに行ってしまった。
美月はリビングに行き、まず桜に連絡をした。まず桜に事情を説明し、明日香にこの家に来るよう頼んだ。
「それにしてもコロナ脳が風邪ひくって皮肉ー」
桜も兄と全く同じ反応だったので、思わず美月も苦笑してしまった。
美月はクッキーを齧りながら、浩に電話をかけた。今日は顔を見ていないので心配という事もあったが、勇人の状況についてアドバイスをもらいたかった。別に陰謀論を信じるわけでは無いが、医者に行って検査をするのは、余計に事は面になりそうだった。
事情を話すと浩は、大爆笑していた。
「そんな笑わないでよ。勇人さん、可哀想じゃん」
「コロナ脳が、風邪ひくって面白いよ」
どうも陰謀論界隈では、勇人みたいな人の事をコロナ脳と言われているみたいだった。
「勇人さんは、病院や検査しなくて大丈夫かしら?」
「大丈夫だと思うよー。あの検査って実は、杜撰で……」
浩はペラペラと検査や医療業界の闇を語り始めた。
「まあ、それは私にはよくわからないけれど、病院連れて行かない方がいいね?」
「そうだね、美月姉ちゃん。あと、そのおじさんはワクチン5回も打ってるんでしょ? 免疫が逆に下がってる可能性もあるね」
「ワクチンで免疫下がるの?」
「少なくとも僕は打たないね」
浩は、しばらく子供ながらにしっかりと自分の意見を語っていた。陰謀論とはいえ、子供の割には話し上手だった。
「まあ、ワクチンの解毒には生姜とか、ニンニクがいいんだって」
「そんな民間療法みたいのでいいの?」
「わかんないけど、風邪には効くでしょ。それは別にエビデンスはいらないよね?」
本当に生意気な子供だが、これ以上美月は反論できなかった。
そうこうしているうちに秋人もお粥を作り終えたようで、勇人のいる部屋に持っていったようだ。
「どうだった?秋人さん」
お粥を届けて、リビングに戻ってきた秋人に聞いてみた。
「いや、人の手料理なんてコロナになるの一点張りで、全く食事も手をつけない。それはいいが水も飲まないのはヤバいな」
秋人は呆れて、お手上げ状態というポーズをしていた。
「それはひどいね……。ところで熱は?」
「熱は7度で別に高くは無いんだけどなぁ。でも、あれはちょっと」
かなり呆れているようだった。大人に関しては、もう期待しなくなっていたが、がっかりだ。そもそもこんな拗らせていて、結婚生活ができるのだろうか。明日香が体調悪くなったときも隔離生活でもするんだろうか。
「ちょっと、私も見てくるよ」
「いやー、やめとけ。あれは、相当拗らせているぞ」
秋人は止めたが、美月はお粥と白湯のお盆をもって勇人の部屋に向かった。お粥は生姜の匂いがし、おいしいそうだった。風邪の時じゃなくても食べてみたい感じだが、勇人が食べてくれるかどうかはわからない。
勇人は、ベッドの上で苦しそうにしていたが、ガッツリ二重マスクをしていた。
一応気を遣いながら、距離感を保ち、美月は声をかけた。
「勇人さん、大丈夫ですか? マスク苦しく無いですか?」
「いや、いいんだよ。あぁ、どうしよう。コロナかもしれない」
「ワクチン何回も打ったんでしょ。重症化しないって安心しません?」
「しない!」
何の為にワクチンを打ったんだろうか。美月は、勇人の行動が一つも理解できなかった。しかし、これだけ言い返せるのなら風邪といっても軽症の部類だろう。
とりあえずお粥と白湯が乗ったお盆をベッドサイドの小さな机の上に置いたが、勇人は無視していた。
「とりあえずお粥は食べた方がいいですよ。って言うか、秋人さんにお礼ぐらいは言いましょうよ。このお粥だって彼が作ってくれたんですよ」
布団に潜っている勇人の表情はよく見えないが、気まずそうな声をあげていた。
「って言うか、明日香さんのお弁当も何で食べないんですかー? 一旦は喜んだフリしていただけですか?」
聞きたかった事をはっきりと聞いていた。




