お茶会とマリッジブルーの謎(7)
リビングに案内した勇人だが、なかなかソファには座らず、立っていた。
「どうぞ、座ってくださいよ」
秋人が気をつかって座るように言ったが、少し怖がった表情がフェイスシールド越しにもわかる。おそらくバイ菌でもつくのでは無いかと怖がっているのだろう。
秋人は呆れて、そのまま会話する事にしたようだ。美月も秋人の隣に座るが、客人を立たせる状況は何ともシュールだった。しかも勇人は絶妙な距離をとって立っている為、話しにくい。
「そんなコロナが怖い中、わざわざ呼び出して、悪かったです」
さすがの秋人も頭を下げて謝っていた。
「いや、私はワクチンを7回も打っていますので」
「え? 7回も!?」
美月は初耳だった。確か5回までではなかっただろうか?
「何か知らないけれど、間違えて多く注射されたみたいです」
「それって医療ミスじゃないですかね」
美月は声を張り上げて突っ込むが、本人はヘラヘラしていた。コロナは怖いらしいが、人より多くワクチン打たれた事はかえって自慢気だ。やっぱり勇人は、癖の強い人物に見えた。ワクチンの害の噂も多いが、とりあえず7回も打った勇人は元気そうで安心した。陰謀論ではワクチンで人口削減と言われてるらしいが、そんな効果があるかは謎だった。もっともこの件に関してはよく調べた方がいいとも思う。
「ところであなたは誰ですか? 何で聖ヒソプ学園の生徒ですよね?」
勇人のツッコミはもっともなので、美月は自己紹介した。明日香や桜とも友達と知り、納得していたが、疑いの眼差しはやめない。
なんとなく居た堪れなくなり、テーブルの上のチョコクッキーを齧った。
「クッキー、おいしい」
「だろう、美月ちー。俺が作ったんだから。勇人さんもどうです? クッキー食べます?」
秋人はニコニコしながら、クッキーをすすめたが、勇人は眉を顰めた。
「それ、手作り? それは、ちょっとなぁ。手で捏ねたんでしょ? 衛生面が気になるよ」
勇人は、クッキーにもお茶にも一切手をつけなかった。
この態度で謎が全部解けてしまった。思わず美月と秋人は顔を見合わせる。おそらく婚約者のお弁当を食べないのもコロナが怖いからだろう。こんなんで結婚生活ができるか不安になるが、伊今の時代は仕方ないだろう。
ただ、逆に謎が生まれた。だったらなぜ一旦は、明日香の弁当を喜んだのだろう。コロナが怖いと言って拒否すればいい話ではないだろうか。
「勇人さん、コロナが怖いのは理解できるけどさ。戸田ちゃんがせっかく作ってくれた弁当は食べようよ」
秋人はさっそく本題を切り出したが、勇人は何も言わない。
美月のところからは勇人のフェイスシールドが反射してしまって、上手く表情が読み取れなかった。
「料理作るのは、大変なんですよ、勇人さん」
「そうですよぉ。お弁当なんてすっごい面倒ですよ。上手く料理作れても、詰める作業も面倒なんですからね!」
秋人と美月が力説すると、なぜか勇人は泣き声を上げていた。
「そ、そんなのわかってますよ! でも、でももし俺がコロナになって、明日香にもうつしてしまったら……」
去年、勇人の会社に上司が、コロナせ亡くなったらしい。ワクチンを打ってわずか3時間後の事だった。その事が彼の中でトラウマになっているようだった。まさかワクチンを打っているのに、こんな事になるなんてと衝撃だった。それに当時、自分は風邪気味だった。コロナ出なかったが、なもしかしたら風邪菌をうつしてしまったかもしれない。そう思うと、勇人は怖くて仕方ないと震えていた。
「俺はいいよ。でも、もし明日香が……」
勇人はそういい終える前に、その場にしゃがみ込んでしまった。
「ちょっと、勇人さん!」
美月は思わず、その場の向かった。
息が荒く、顔も真っ赤だった。しゃがむのもしんどそうで、その場に倒れてしまった。
「これは、風邪か?」
秋人も勇人のそばに駆けつけて、フェイスシールドとマスクを取ってやった。脈を確認し、おでこも触る。
「うん、風邪だろうな」
「どうするんですか?秋人さん。コロナですか、これは」
「まあ、どっちでもいいよ。とりあえず、勇人さんを客間に連れてくか。美月ちー、ちょっと手伝ってくれ」
そう言うと、秋人は勇人を抱えてようとするので、美月も手伝った。
こうして二階の客間に運び、勇人を寝かせた。いつか、美月も泊まった事のある部屋だった。
「やれやれ、こんなコロナ対策している人が、風邪ひくなんて皮肉なものだね」
勇人をベッドに寝かせると、秋人はため息をついた。




