悪魔のレシピと良心の謎(9)
美月はタダに目がない。タダでもらったエコバッグやタンブラーなども大事に使っていた。やっぱり人はタダに弱い事は美月はよく知っていた。そしてタダでくれた人には、何かお返しをしたくなる。詳しくは知らないが、心理学的にそういう人間の心もあるらしい。
3日間、ケーキは全品タダのセールをやってみればいいと提案した。
最初は倉橋も秋人もこの提案に否定的だった。利益はゼロの上、赤字だ。店を開く事によって商店街の意地悪な連中から嫌がらせを再び受ける可能性もなくはない。このセールをするのは、賭けだった。
「でも突然タダのセールするのは、怪しまれませんか?」
倉橋の懸念はもっともだった。
「コロナ渦物価上昇応援セールでよく無いですか? あとタダに心苦しい人のために募金箱置くのもいいと思う」
「だったらいいじゃん。いいアイデアだよ」
反対的だった秋人もだんだんと美月に同意しはじめた。
「どうせ閉店するならタダで地域に還元してください!」
「それは美月ちーが、ケーキ食べたいだけじゃん」
秋人は呆れて吐いたが、だんだん乗り気になり、自分のSNSや動画で宣伝もするという。秋人のフォロワーはかなりいるので、いい宣伝になるだろう。これで悪い噂も払拭できるかもそれない。というか今は、ネットの拡散の方が強い。商店街の連中がやってる嫌がらせを拡散したら、炎上ではすまないかもしれない。
「僕もおじさんのケーキ食べたいよ。このまま辞めないでよ」
こんな子供である浩の訴えも効いたのだろう。結局、タダのセールをやる事になった。
「でもタダだったらお客さんいっぱいくるよ。一人で大丈夫?」
秋人の心配はもっともだった。それにどのくらい作ったらいいか等も細かい事も考えなければならない。
しばらくみんなで話し合い、色々と計画を練った。店の売り子の助っ人には美月や秋人も協力する事になり、計画も練られていった。チラシなどは作らず、秋人のSNSだけでも宣伝効果も十分だろう。ケチな美月がアドバイスし、余計な事にはコストをかけないようにする事に決まっていく。またメニューも人気のショートケーキ、チョコケーキ、モンブランの3種類に絞る事に決まった。
だんだん倉橋もやる気を見せ、最後には笑顔まで見せるほどだった。噂だけでなく、材料費の高騰に頭を悩ませていた倉橋だったが、希望を取り戻してきたようだった。やっぱりこういう職人気質の人には、影でアドバイスをする人が必要かもしれない。美月は、あとで抹茶を紹介して見るのも良いかと思った。
という事で次の週の土日、倉橋の店でセールをする事に決定した。
上手くいくかはわからない。自分のアイデアも余計なお世話になったかもしれない。
ただ、何もしないよりは良いと思った。このまま店が潰れてしまうよりは、失敗した方がマシだと思った。




