悪魔のレシピと良心の謎(8)
倉橋の家は、ケーキ屋のすぐ裏手にあった。こじんまりとした一軒家だった。
初対面の秋人や美月にぎょっとしていたが、浩がいた為か、事情を話すと納得してくれた。
倉橋の家の和式の部屋に通される。客間として使っているのか、綺麗な部屋だった。ただ、出されたお菓子はケーキなどではなく、緑茶とどら焼きだったが。
倉橋はかなりこの状況に参っているようだった。頬がこけ、髭も剃っていないようだった。浩を見ると笑顔をむけていたが、寡黙で大人しい人だった。こちらは話しかけないと絶対話さない。よく言えば職人肌っぽい、悪く言えばコミュ障という感じだった。せっかくのイケメンだったが、色々と残念な感じが伝わってくる。
「噂は事実無根ですよ。そんな毒とかロリコンとかしてません」
キッパリと噂を否定する倉橋は、確かに嘘はついていないようだ。浩の態度からしても、ロリコンには見えない。
「でもどうするんですか? ずっとこのまま商店街の人たちに嫌がらせ受けるんですか?」
美月は、ため息混じりにツッコミを入れるが、倉橋は石のように黙りこくる。これではイジメの良いターゲットになりそうだった。確かに噂は事実無根だが、倉橋の性格が火に油を注いでいそうだった。美月はあんまり倉橋に同情できない。そんな自分も嫌な奴で、思わず下を向いてしまう。
「美味しいケーキ作っていればいいもんじゃないですね。周りと上手くやらないと、こんな風になるなんて」
「そんな自分を責めないでくださいよ、倉橋さん」
美月と違って秋人は、倉橋に同情的だった。
「そうだよ、おじさん。僕にタダでケーキくれて嬉しかったよー」
浩は泣きながら語っている。
「でももうダメです。こんな嫌がらせされて心が折れました。ケーキ屋、やめたいです」
「いやいや、そこまで思いめるのは行き過ぎですよ」
美月も思わず、しゃしゃり出てしまった。何となく不器用そうで職人肌の倉橋に手伝ってくれる人がいればいいと思ってしまった。
「とにかく噂が事実無根だって払拭されたらいいと思うんです。場合によっては警察に……」
「それはやめましょう、美月さん。あまり大事にはしたく無いんです」
とことん倉橋はお人好しのようだった。気持ちはわかるが、ちょっと不器用すぎる。
「何か、いい方法があるといいんだけどなー。まあ、人の噂も75日? 時が経つのを待つって方法もあるけど」
秋人はそう言い、何か考えを巡らすように目を上げていた。
「もう持っけ泥棒って気分ですよ。タダでケーキ配って閉店セールするかな」
後ろ向きの倉橋の発言だったが、美月の頭に何かが閃いた。
「そうだ、タダで配ったらいいんじゃない?」
美月の提案に一同顔を見合わせた。
「名誉回復セール大作戦だよ!」
自信満々に提案した。




