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料理王子の謎解きレシピ  作者: 地野千塩


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悪魔のレシピと良心の謎(6)

 秋人が次に向かった店は、高原文具店だった。さっきに女性があげた犯人にもその名前があった事を思い出す。


 うらぶれた雰囲気の文房具屋で、明かりも薄暗い。可愛い文房具もあまりおいてなく、事務用本が機械的に並んでいる印象の文房具屋だった。客も美月と秋人以外にいない。


「らっしゃいませー」


 店員は、一応カウンターにいたがやる気がなさそうにタバコをふかしていた。ニキビ肌で太った若い女性だった。全く愛想もないが、美月がクッキーを渡すと食いついてきた。


「ふーん。あんた、料理研究家なんだね」


 さっきの女性と違い、店員はあまり秋人の興味が無さそうだ。あたりはタバコ臭く、美月は鼻をつまみたくなった。


「ところで、あのケーキ屋さんの噂知らない? 嫌がらせをされているそうだね?」


 こんな店員にも秋人は愛想良く接していた。


「あー、あれねぇ…」


 ケーキ屋が話題に出ると店員は、明らかに嫌な顔をしていた。


「たぶん犯人はうちの親よ。一応町内会長だから、偉そうにしてんのよねー」


 他人事のように言っていたが、店員の顔は少し赤くなっていた。親のしている事は、恥ずべき事である事は自覚があるようだ。ここまで証言が揃えば、嫌がらせの犯人は高原で間違いばいだろう。


 問題はどうやって嫌がらせが止まるのかという事だが。


「なんか私があそこのケーキを爆食いしたら、太ったわけ。それで愚痴言ってたら、親が勘違いして噂が広がったっぽい」

「いや、太ったのは自業自得ですし、噂をとめなかったんですか?」


 美月は冷静に店員に突っ込んだが、彼女は反省する素振りは見せない。


「デマを呼んだだけでしょ。噂なんてそんなもんだよ」

「じゃあ、そのお父さんにあわせてくれないかな?」


 秋人も呆れながら提案するが、店員は開き直っていた。


「たぶん無理だと思うよー。バチが当たったんか、さっき階段で転けて病院行ってる。おかげで私が店番やらなきゃいけないから、嫌になっちゃう」


 店員はそう言ってタバコに煙を吐いた。


「美月ちー、ここにいても仕方ない。次の店番行こうじゃないか」

「そうねぇ。っていうか噂の出元を見つけるとかって、かなり難しい。まあ、この様子だと毒入りケーキという張り紙や噂は、全くデマでしょう」


 こうして二人は、高原文房具屋を出て酒井書店に向かった。この名前もさっきの女性があげていた。何か事情を知っているだろう。


 酒井書店は、高原文房具屋のすぐ隣にあった。個人経営の書店らしく、こじんまりとした店だった。ベストセラーや学習書や参考書が多い感じの棚で、美月と秋人以外に客はいなかった。


「こんにちは!」


 秋人は、カウンターにいる店員に声をかけた。初老の女性が座っている。グレイヘアは上品だったが、吊り目で少し厳しそうな雰囲気だった。ただ、美月がクッキーをあげると、ニコニコしてきた。タダには弱いらしい。ドケチな美月はシンパシーを感じてしまった。


「あら、あなた料理研究家じゃない。ちょっとサインしてちょうだいよ」


 初老の女性はなかなか図々しく、サイン本をねだってきた。売り場から秋人の本を持ってきて、名前入りのサインを書いて欲しいという。


「いいですよ」


 秋人は嫌な顔一つ見せずサインを書いてあげていた。この女性の名前は、希代というらしい。


「やだぁ、嬉しいわ」


 希代は、サイン本に大喜びだった。しかし、どうも一言多いタイプのようで、「他の人気料理研究家みたいに『悪魔のレシピ』でも出せばいいじゃない」などと言ってきた。今の秋人は聞きたくない話題だろうが、本人は全く表情に出していなかった。それどころかグイグイ倉橋の事を質問していた。


「ところで倉橋さんのところのケーキ屋について何か知っていません?」

「ふん!あんなロリコン男!」


 希代は、吊り目をさらに吊り上げて怒っていた。詳しく聞くと倉橋は子供にイタズラしているという噂があるらしい。あの張り紙の一部も希代が書いたと白状していたが、全く悪びれていない。むしろ孫がいて心配だと語っていた。


 犯人があっさりわかったわけだが、こう悪びれずにいるとどうしようもない。思わず美月は秋人と顔を見合わせてしまう。


「倉橋さんがロリコンという噂の証拠はあるんですか? 場合によっては警察に……」

「いいえ! あいつは絶対ロリコンよ!」


 美月は冷静に突っ込んだが、希代は頭が硬くなっているらしい。噂だけが一人歩きしている状況と希代の持つ感情的な正義感が悪い結果を産んでいる事がわかる。とりあえず、今は噂の真意と倉橋の名誉回復が一番重要そうだった。


 美月は希代に多めにクッキーを渡し、秋人と一緒に酒井書店を出て、倉橋のケーキ屋に戻った時だった。


 10歳ぐらいの男の子が、倉橋のケーキ屋を覗いているのが見えた。


「ちょっと、君」


 美月が声をかけると男の子は、全力で逃げるじゃないか。反射的に男の子を追いかけていた。逃げれば追いたくなるのが人間の本能かもそれない。もっとも運動不足の秋人は、ノロノロとついて遅れをとったが、とにかく追いかけた。

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