悪魔のレシピと良心の謎(5)
秋人と美月はクッキーを綺麗にラッピングし、紙袋の中にまとめて入れた。
「よし、完成した! これで調査に行こうじゃないか」
秋人は浮ついた足で玄関に向かった時だった。ちょうど仕事がひと段落した抹茶が部屋から出てきた。美月は、事情を抹茶に話すと、なぜか止められた。
「秋人さん、そんな調査をするんだったら、そに格好はNGです! ニートバージョンに秋人さんは不審者に見えます。警察に通報されたらどうするんですか!」
抹茶が言う事は全く筋が通っていた。
「まず、着替えて。キラキライケメン料理王子バージョンでいきましょう!」
そんな抹茶のアドバイスにより、秋人はジャケットに着替え、髭をそり、髪もセットしてきた。
その間、美月は抹茶に釘をさされた。
「こういう聞き込みみたいな事は、別にやっても良いですが、美月さんは秋人さんの『妹』設定でいてくださいね」
「えー? なんで?」
「また、ファンに嫉妬されたらどうするんです?」
それをつっつかれると痛かった。秋人はイケメンバージョンで行くが、美月はダサい黒縁メガネをかけさせられた。度は入っていないが、これだけでも芋臭さが倍増した。この美月を見て、何か変な想像する人はいないだろう。まさに『妹』という感じだった。
という事で、抹茶の釘を刺されつつ、身だしなみを完了し、聞き込みに向かった。
二人ですずらん商店街の中に入り、倉橋のケーキ屋に直行するが、相変わらず閉まっていた。嫌がらせの張り紙も前来た時と別のものが貼ってあった。
「ロリコンケーキ屋って書いてある。何これれ、ひどい」
思わず美月は、顔を顰めた。
「結構ひどいな」
秋人も憤っていた。
「もしかしたら、ここで見張っていた方が犯人わかる?」
「いや、この張り紙見てみ路よ。こっちはパソコンで作ったものと思われるが、こっちは手書きだぜ。手書きの方はかなり達筆。おそらく犯人は複数いる!」
推理といえるのかはわからないが、よく細かいところまで見ていると美月は思った。やっぱりイケメンバージョンは、頭が良さそうに見える。抹茶のアドバイスは、本当に筋が通っていると思わされた。たぶん、秋人は抹茶がいなかったったらイケメン料理王子として成功するのは、難しかったんじゃないだろうか。実力があっても、それを上手く売るのは全く別の才能だ。
「でも、同一人物が撹乱する為にわざわざ変えてやってる可能性もあるんじゃない?」
「いや、犯人からそこまでの知能は感じないな。一言で言えばバカが感情に流されてやってる犯行に見えるな」
なかなか酷い言いようだが、美月も知能が高い人物が犯人だとは思わなかった。
ちょうどそこへ主婦らしき女性が通りかかった。秋人は尽かさず、彼女に接触した。
「えぇ、なんですか?」
女性は、最初はビックリしていたが、 イケメンバージョンの秋人にすぐ心を開いたようだった。しかもクッキーをあげると、ニコニコ顔だった。
「もしかして料理研究家の朝霧秋人さんでしょ。動画見てますよぉ」
女性は秋人のファンだった。女性の手帳にサインを書いてあげると、かなり喜んでいた。やっぱりニートバージョンで行かなかくて正解だった。
「ところでこのケーキ屋さん、どうしたの?何か知ってない?」
「あぁ、これね。商店街の高原さんか、酒井さんの仕業でしょ」
女性はあっさりと犯人を言い当てた。
「あそこのジジイやババアは、若い人いじめるのに命かけているところがあるから。なんていうか、嫉妬よねぇ」
女性はなかなか口が悪かったが、どうも犯人たちはトラブルメーカーのようで、噂も大好きらしい。ある事ない事を言われ、過去には商店街から追い出されたものもいるらしい。
「まあ、こにケーキ屋さんに変な噂があるのは事実よ」
「へぇ、どんな噂?」
秋人はわざとかがみ、女性の視線に合わせた。どうも彼は、天然で女性に優しい態度が出来るみたいだ。もっともニートバージョンでそんな態度をされても全く意味がないが、今はイケメンバージョンだ。この女性にも十分効果があったらしい。
「あそこのケーキ食べるとお腹痛くなるとか、ロリコン犯罪者だとか」
女性は言いにくそうだったが、話してくれらた。
「それは事実なの?」
今まで黙っていた美月も酷い噂で、ついつい声を出してしまった。
「そうねぇ。証拠はないけどみんな言ってるのよね」
女性は苦笑して、去っていった。
「噂の出元ってわかる?」
「それは無理だよ、美月ちー。噂というのは、デマほど広がってしまうからね」
「じゃあ、デマの可能性があるのね」
「その噂が本当だったら、警察がとっくに捕まえてるだろ。行くぞ、美月ちー」
「ちょっと、待ってよ」
秋人は、早歩きで商店街の別の店の方に進んでいく。美月は、そんな秋人について行くだけで必死だった。




