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料理王子の謎解きレシピ  作者: 地野千塩


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悪魔のレシピと良心の謎(3)

 調理室で秋人は黙々とクッキーを作り続けていた。最近、作っている安心素材の野菜クッキーではなく、チョコチップがゴロゴロ入ったギルティなものだったが。


 美月はその間にスーパーに行かされた。正確には、スーパーの二階にある100円ショップだった。そこでクッキーを包むラッピング素材や乾燥剤などを買った。


 一応美月は止めた。そんなコージーミステリみたいな調査方法なんて現実的ではない、と。しかし秋人はノリノリでクッキーを作り始めてしまった。


「倉橋さんのところのケーキをまた食べたい!」


 そんな事も言っていた。


 普段、秋人は楽しそうに料理をしているが、今回ばかりは少々怒っていた。確かに好物だったケーキ屋が閉まってる状況は、イライラするだろうが。秋人は意外と子供っぽい一面を持っていた。意外と秋人は多面性があるようで、単なるキラキライケメン料理王子では無いらしい。


 100均ではかわいいラッピングの材料が買えた。ジッパーバッグやリボン、シール、紙製の箱など種類も豊富だ。


 秋人には三千円渡されていたので、ついついいっぱい買ってしまいそうになるが、ドケチな美月は必要な分だけ書い、お釣りもレシートも全部綺麗に紙の封筒に入れて分けておいた。こういう所をだらしないのは、いくらドケチな美月でもできない。


 帰りに少しだけスーパーのイートインコーナーで一休みして行こうと思った。秋人に好きにドリンクを買っていいと言われていた。いわばこれがお駄賃みたいなものだ。


 いくら好きに買っていいとは言われたが、お高いダイエット飲料などは買えない。悩んだすえ、ペットボトルもビタミンC豊富なレモンジュースを購入して、イートインスペースで飲んでいた。季節限定で、量や栄養素を比較してもコスパがいい。スーパーの店頭にも出ていないちょっとマイナーなメーカーのものという事で、添加物も少なめで味も良かった。なのよりお駄賃で飲みドリンクはとても美味しく、美月の頬は緩みっぱなしだった。


「あらぁ、あんたぜいぶんと幸せそうだねぇ」


 こうしてイートインスペースでドリンクを飲んでいたら、一人のお婆さんに声をかけられた。なかなか人懐こっそうなお婆さんで、間抜けな顔でドリンクを飲んでいる美月に話かけたくなったらしい。


「いやぁ、お駄賃で飲むドリンクは最高ですよ。自分の財布は全く痛みませんからね!」

「ちょ、あなた面白いわねぇ」


 鼻息荒くドケチトークをする美月に完全にお婆さんは引いていた。それでもイートインで二人で座って世間話で盛り上がる。スーパーの試食の時間帯や値引きシールの貼られる時間帯について有益な情報交換ができ、井戸端会議に花が咲く。こんな美月は、一応女子高生のはずだが、完全に主婦その物だった。心なしか話し方や仕草もおばさんっぽいが、本人は全く気づいていない。


「ところで何のお手伝いだったの?買い物?」

「実は100均でラッピング素材買ってたんです〜。秋人さんが……」


 思わず美月は口を滑らせ、倉橋のケーキ屋の問題なども話してしまった。


「あらぁ。あそこのケーキ屋さん、嫌がらせ受けてるの?」

「お婆さんは、何か知っていません? さっさと解決してケーキ食べたいです」


 思わず本音が漏れる。聞き込み調査なんて実際が身を結ぶかわからない。早く勝手に解決してくれたらいいのにと怠惰な事も考えてしまった。


「でも鈴蘭商店街でしょ。あそこの商店街はねぇ……」

「え? 何か知っています?」


 美月がぐいぐい聞くと、お婆さんは「噂だけど」と前置きしつつ知っている事を教えてくれた。


 鈴蘭商店街に店主たちは、老人も多く、それゆえに頭が硬い連中も多いらしい。いじめというほどでは無いが、排他的な雰囲気もあるという。そんな中で若い倉橋は居心地が悪いんじゃないか?とお婆さんは語っていた。


「いじめ? そんな事あるんですかねぇ」


 美月はすぐには飲み込めなかったが、藤部や丸山の行動を思い出した。大人も意外と幼いようだし、排他的な商店街の大人達が、若い人をいじめていても違和感はなさそうだ。


「ま、そんないじめみたいな事してるから、商店街が老人ばっかりで衰退していくんでしょうねぇ」


 呆れたようにお婆さんは呟き、イートインコーナーから去っていった。これからスーパーでは砂糖とお茶のタイムセールがあると言い、浮足だっていた。


「いじめかぁ」


 商店街の人達が集団でいじめをしてたとしたら、倉橋もなかなか可哀想だ。


「やっぱりこれは、早めに解決してあげた方がいいのかも」


 勝手に謎が解決してくれればいいと考えた美月だが、そんな事はなさそうだ。


 美月は、残りのドリンクを飲み干すと足早に秋人の家に戻った。

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