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料理王子の謎解きレシピ  作者: 地野千塩


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悪魔のレシピと良心の謎(2)

 この街の商店街は、鈴蘭商店街といった。なぜ鈴蘭かは謎だが、昔からそう呼ばれていた。


 美月の家にも駅からも近い。立地が十分だが、高齢化の波が影響しているのか、コロナの影響はわからないが、以前よりは賑わってはいない。すぐ側にチェーン店のスーパーがあるのも痛手になっているかもしれない。


 そうは言っても商店街の本屋、お茶屋、床屋、カフェ、花屋の素朴な外観を見ていると、美月もちょっとほっとしてしまった。


「えーと、ケーキ屋・倉橋は……」


 美月は、抹茶から渡された地図を見ながら、お目当てのケーキ屋を探した。


 ケーキ屋・倉橋は商店街の一番奥にあり、外観もこじんまりとしているという。抹茶は仕事があるので、美月は一人でやってきたのだ。同じ町内といえど、この商店街をいつ利用しているわけでもなく、スーパーのヘビーユーザーの美月は一応抹茶に地図を書いてもらっていた。


「あった!」


 こじんまりとした外観のケーキ屋だった。茶色い壁は、チョコレート色で可愛らしい。ちょっと前にお菓子の国の悪夢を見たが、あの夢の中に登場しても違和感が無さそうだ。


 ちょっとウキウキしながらケーキ屋・倉橋に向かう。ケーキ屋に行く時に憂鬱な一人が滅多にいないだろう。クラスメイトでもケーキ屋でバイトをした事のある人もいるが、あんまりクレームは無いと言っていた。ただ、廃棄も多いそうなので、ドケチな美月にはあまり向いていないバイトだろう。


 そんなウキウキした気分だったが、すぐに萎んでしまった。店は閉まっていた。


 ドアにcloseの看板がかかり、店の明かりも消えていた。


「えぇ……」


 しかもドアには、明らかに嫌がらせと思われるチラシが貼ってあった。


「毒入りケーキ屋! 潰れろ!って……」


 ウキウキとした気分は、完全に消えてしまった。


「おじさん、ここのケーキ屋さん閉まってるけど、何かしらない?」


 そばを歩いていた初老の男性に声をかけた。男性は、明らかにギクってした顔を見せた。


「いや、倉橋くんのところはねぇ……」


 何か知っているようだが、男性の歯切れは悪かった。眉間に皺を寄せ、明らかに関わりたく無い様子が伝わってくる。


「あの男は、口も性格も悪い。仕方がない」

「どういう事ですか?」


 美月が問い詰めても男性が答えず、足早に去って行ってしまった。


 せっかく美味しいケーキを買いにきたのに。貼られたチラシからは、悪意しか感じず、気持ち悪くなってきた。


「もしかして、これは秋人さんに相談すべき?」


 美月は、秋人の家に戻ると、この事を全部話した。


 ちょうど秋人も編集者との打ち合わせが終わったみたいで、リビングで一息ついているところだった。抹茶は自分の部屋で仕事中だった。抹茶は、秋人の秘書だけでなく、企業のコンサルなどの仕事も副業でやっていた。


「えぇ、倉橋さんとこのケーキ屋閉まってたの?」


 事情を話すと、秋人はかなり残念がっていた。テーブルの上は、紅茶と野菜クッキーがまだある。優しい味でうっかり食べ過ぎないように自重しながら、続けて秋人に事情を話す。


「しかも何か嫌がらせみたいの受けてたのよなにこれ?」


 美月はあの嫌がらせのチラシの写真をスマートフォンで撮っていた。それを秋人に見せると、彼は大袈裟に驚いてた。


「これは、美月ちーのママが書いてるコージーミステリーみたいじゃ無いか」

「えー? でも確かに」


 美月の母が書いてるようなコージーミステリは、ケーキ屋やチョコレート屋などの飲食店が舞台になる事が多い。しかも主人公の店の食べ物を食べて被害者が死ぬという殺人事件もよく起こる。その上、店にこんな風に嫌がらせをされるシーンもあった事を思い出した。


「あの商店街で殺人事件でもあったのかね?」

「秋人さん、私はそんな事は聞いた事ないわ」


 一応スマートフォンを使って検索して見たが、鈴蘭商店街で殺人事件が起きたという情報は一つみ出て来なかった。


 代わりにケーキ屋・倉橋の情報が出てきた。


 地域新聞が作っているインタビューページで取り上げれていた。


 店主の倉橋澄人は想像以上に若い。25歳で家業のケーキ屋を継いだとあった。顔写真も載っていたが、かなりのイケメンだった。秋人とは違う方向のイケメンで、ちょっとワイルド系だ。ホリの深い顔は、ハーフっぽいが、インタビューページでは純日本人と話していた。


「何かわかった?美月ちー」

「さっぱりわからない。でもこのケーキ屋さん、イケメンねぇ」


 そう言うと秋人は、ちょっと拗ねたような表情を浮かべた。


「俺の方がイケメンさ」

「いや、ニートバージョンで言われても説得力が無いんですけど」

「美月ちーは、こう言うのがタイプなんだ?」

「いいえ、私は石油王がタイプです!」


 そう言うと秋人は大笑いしていた。


「美月ちーは、ブレないねぇ。でもこのケーキ屋さんが嫌がらせ受けているのは気になるね」

「そうね。インタビューも誠実に答えているし、何かおかしな気がするね」


 あの道であった初老の男性は、倉橋の事を性格が悪いみたいな事を言っていたが、インタビューを見る限りは、そんな印象は見えなかった。


「俺らでちょっと調べてみようぜ」

「調べるってどうやって?」

「それは、コージーミステリ風にやろうぜ」

「もしかしてクッキーでも配ろながら聞き込みでもするの?」

「大正解!美月ちーは、カンがいいねぇ」


 母が書くようなコージーミステリでは、料理上手な主人公が多いが、クッキーやマフィンなどのお菓子を作って配りながら聞き込み調査をするシーンがよくあった。


「という事で、さっそくクッキーを作ろうじゃないか!」

「ちょっと待ってよ、秋人さん!」


 さっそく厨房に駆け込み秋人の背中を美月は慌てて追いかけた。


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