ギルティな謎(10)
「秋人さーん。参りましたよ、体育祭でリレーのアンカーに選ばれちゃいましたよ」
次の日、学校で体育祭の準備があり、リレーのアンカーに選ばれてしまった。極力、こんな風に目立ちたくなかったが、選ばれてしまった以上、仕方がない。
今日の秋人は、仕事はお休みのようでニートバージョンで現れたが、クリームチーズと蜂蜜がふんだんにかかったトーストを持ってきた。
どうも最近の秋人は、甘いトーストにハマっているようだった。
ハチミツの甘さがこのリビングにいっぱい広がり、美月の口の中はツバでいっぱいになってしまった。黄金に輝くトーストのハチミツは、「食べて、食べて」と誘惑をしかけてくる。
「丸山先生はどうだった?」
「全然大丈夫そうだったよ。ただ、慢性的にストレス溜まってるっぽいから、今度病院行くっていってた」
「なら、よかったよ。ファンが悪い事するのは心が痛むからね」
秋人はソファの上で足を組み直し、あのギルティなハチミツトーストを美月の目の前に突きつけてきた。おまけに甘々な笑顔も見せてくる。
「美月ちー、このトースト食べよう? ハチミツは、オーガニックのものでとってもいいやつだから、太らないよ!」
「そんなの嘘だ!」
と言ってもこの甘い香りに勝てない。
「まあ、太ってもいいじゃないか。神様は体重で人を見たりしないよ」
「うっ。そうまで言われると逆らえない!」
誘惑にすっかり負けた美月は、ハチミツトーストを齧った。予想以上に口いっぱいに甘味が広がり、リレーのアンカーに選ばれた憂鬱感が大幅に減った感覚を覚えた。
「美味しい! まあ、本当に悪いのは食べ物じゃなくて人間ね。しばらく走り込みの練習でもしようかな」
「美月ちーは、ゴールに激安卵があると思って走るといいと思う……」
あの走っている美月を思い出したのか、秋人がわざとらしく震えた。
何はともあれ、こうして丸山の一件も解決した。
「やっぱり美味しい!」
ハチミツトーストは美味しいし、事件も解決した安堵で、美月の頬は緩みっぱなしだった。問題はリレーのアンカーという大役だが、なんとかなるような気がした。




