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料理王子の謎解きレシピ  作者: 地野千塩


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ギルティな謎(9)

 秋人の家に着いたが、まだ抹茶は帰ってきていないようだった。まあ、この状況では事情を詳しく知らない抹茶はいない方は良いかもしれない。


 まず、美月と丸山はリビングに向かった。丸山はリビングにある高そうな壺や絵画に恐縮しきっていた。ふかふかなソファや大きなテーブルにも明らかに戸惑っている。少し可愛そうになるぐらい身体を小さくしていた。ウサギのような印象の丸山だが、本当に弱い小動物に見えてしまった。ストーキングの犯人だとしたら相当裏表がある。


 秋人はお茶とお菓子を持ってきた。お菓子は、なんとあのバナナチョコマシュマロトーストだった。あたりにチョコレートとマシュマロの甘い匂いが広がり、美月はゴクリと唾をのんだ。一方、丸山はそこからは意図的に視線さけ、ぼんやりと高そうな壺を見ていた


「まあまあ、ギルティなお菓子でも食べながら、事情を聞こうじゃ無いか」


 秋人は、丸山の目の前に座った。やっぱり丸山は免疫がないのか、秋人の近くにいるだけでもドギマギとしていた。ニートバージョンでもこれだ。キラキライケメン料理王子の秋人を目の前にしたら、卒倒しそうだ。


「秋人さん、これ食べてもいい?」

「どうぞ、美月ちー。丸山先生もどうぞ」


 秋人は天使のような笑顔を向けたが、丸山はチョコバナナキャラメルトーストには見向きもしなかった。


「あまーい! おいしい」


 美月はそんな丸山は無視しれ、ギルティなお菓子を食べた。口いっぱいに甘味が広がり、幸福感が爆上がりした。丸山の犯行などどうでも良くなってくる。


「甘いものは幸福物質のセロトニンが出るそうだよ。もちろん、食べすぎは糖尿病になるけど、たまに食べるのはいいよね。女性は不安になりやすいから、甘いものをとるといいよ。あと、秋や冬は鬱になりやすいから、適度に甘いものを食べよう。秋はお菓子が一番売れる時期だそう」


 秋人は豆知識をドヤ顔で披露すると、紅茶を啜った。


「という事で、丸山先生。どういう事か事情を説明してくれるね?」


 チョコバナナマシュマロトーストにも負けないぐらいの甘い笑顔を秋人が見せた。そのお陰か、丸山はポツポツと事情を話し始めた。


 丸山は、あの秋人の文化講演会でファンになってしまったらしい。レシピ本を全部買って、近所に住む事も知って浮かれていたらしい。ただ、自分のぽっちゃり体型も気になりはじめ、ダイエットもし始めた。思うように体重が減らないストレスでマイにイライラしてたと語った。


 確かに丸山は栄養素の乏しそうな弁当を持ってきたのを思い出す。丸山の体型は、決してスレンダーでは無いので、ダイエットしたくなる気持ちはわかるが。


「それで、星野さんが秋人さんちに入り浸っている事も知り、イライラしちゃって」

「それで嫌がらせの手紙や夜中に訪ねてきたりしたんですか?」


 美月が問うと、丸山は素直に頷いた。


「いつもは夜中にココアを飲むんです。でも体重を思うと飲めなくて、イライラしちゃって」

「先生ー。それにしてもすごい行動力ですね。裏表もありすぎですよっ! なんか、ガッカリです」


 美月は大人だと思っていた教師の犯行に、ため息しか出ない。


 さらに詳しく聞くと、案外学園の仕事もブラックらしい。残業代も出ない事などもあり、慢性的にストレスを溜めていたそうだ。おまけに同僚の真澄の婚約も知り、「何であの子が!」と嫉妬で苦しんでいたと告白。


「いや、でもさぁ。美月ちーも真澄先生も悪い事やって無いよね? 嫉妬の感情も大人として上手く処理しなきゃダメじゃん?」


 秋人の正論に丸山は、口を閉ざした。


「それに、ハイカロリーの食べものだって悪くないよ。人間が勝手に悪いものにしちゃっているだけだね?」


 秋人は、チラりとチョコバナナマシュマロトーストを見る。


「そうだよ。丸山先生。甘いものは罪はないよ。それにポッチャリ体型が悪いって誰が決めたんですか?」


 美月の言葉に、丸山ははっとしたような表情を浮かべていた。


「俺はポッチャリ体型好きだぞ」


 気を遣ったのか、秋人もそんな事を言っていた。そういえば前にポッチャリが良いとか言っていた。


 神様はそれぞれ個性的に人間を創ったと学園の礼拝の時に聞いた事がある。みんなスレンダー美女の世界を想像するとちょっと怖い。そんな事がふと頭に浮かんだ。


「ご、ごめんなさい……」


 ここでようやく丸山は謝った。こうして謝る姿は、臆病な小動物にしか見えず、美月もこれ以上責める気がしない。


「丸山先生、あとで勉強教えてくださいよ。それでチャラでいいよ」


 美月がそんな条件を出すと、丸山はコクコクと腹話術の人形のように頷いた。よっぽど追いかけていた時の美月が怖かったようだ。


「じゃあ、一件落着だね。さ、丸山先生も俺の特製のチョコバナナマシュマロトースト食べて?」


 その秋人の笑顔は、水飴のように甘かった。今の秋人はニートバージョンとはいえ、丸山の顔は真っ赤だ。


「俺は自分のファンは信頼してるよ。もう、こんな事はしないよね?」

「ご、ごめんなさい!」


 こうして丸山は、泣きながらチョコバナナマシュマロトーストを食べていた。


「美味しい。頭の機能が元に戻ったみたい」


 本当に美味しそうに食べる丸山に、美月は苦笑しながら紅茶をすすった。


 藤部、丸山と学園の教師達のはガッカリさせられたが、逆に大人になるハードルはだいぶ下がった気がした。美月も気が抜け、チョコバナナマシュマロトーストを頬張った。


 この食べ物には、全く罪は無いとはいえ、食べていると幸せだけは感じない。頭の隅に体重計の数字が浮かぶ。


 まあ、でも今日は全力で走ったからチャラでいいよね? 


 美月は、そう思いながら甘いお菓子を頬張った。

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