ギルティな謎(8)
怪しい人物は、電柱の影に隠れながら、二階にある美月の部屋の窓を見ていた。
怪しい人物は、体格がすっぽり隠れるような灰色のコートを着ていた。どうやら大柄な体格のようだが、男から女かは微妙なところだった。頭も帽子をかぶり、サングラスをかけているので、わからない。美月も似たような格好をしていたが、向こうも変装をしているようだった。
少し離れたところで、美月達は怪しい人物の様子を窺った。
「アイツ怪しくね?」
「ちょ、秋人さんは黙って」
美月は背の高い秋人を壁にしながら、こっそりと怪しい人物を見つめる。
「あっ!」
その瞬間だった。怪しい人物は、デジカメで美月の部屋の窓を撮っていた。
現行犯だ。明らかにこの怪しい人物がストーカーではないか。
「待って!」
気づくと怪しい人物を追いかけていた。
「!」
怪しい人物も鈍くはない。美月に追いかけられると走って逃げた。
美月も全速力を出し、怪しい人物の背中を負った。美月は運動神経も良いので、走るのも苦ではない。
一方秋人は、鈍臭かった。普段は運動不足なのだろう。美月よりも何歩も遅れてノロノロと走っていた。
「待て〜!」
そう叫ぶ秋人の声は情けなく、犬の賛否をしている主婦に笑われていたが、本人は無茶で追いかけていた。それは美月も変わらない。
「ドケチの女子高生なめんな。激安卵買いに隣町まで走って買いに行った事もあるんだからね!」
美月は、そう叫ぶながら相手を激安卵だと思って追いかけていた。今は秋人のお陰でタダ飯を食べているが、1円でも安くあちこちで買い物をしていたし、授業料の本をとる為に体育の授業もしゃかりきにやっている。陸上部に入らないかとスカウトされた事もあるが、部品や宿題をする時間を天秤にかけて、それはコスパが悪いと断ったが。
「まてー!」
「待ちなさい!」
情けない声の男と一緒とはいえ、二人がかりで追いかけられた怪しい人物もだんだんと弱ってきた。
市立公園に入ると疲れ果てたようだ。ヘロヘロになりながら、公園のベンチに座り、荒く息を吐いていた。
「ちょっとあんた、何者!」
美月はあまり息も上がらず、涼しい顔をしていた。怪しい人物のサングラスと帽子をぱっと剥いでしまった。秋人はぜーぜー言いながら、そばにある自動販売機で水を買い、水分補給をしていた。普段運動不足の秋人はだいぶ疲れているようだった。
「えぇ。丸山先生……」
怪しい人物は、想像もしていなかった。学園ではおっとりと優しい先生で知られる丸山花織だった。ウサギみたいな可愛らしい雰囲気は全くなく、美月を睨んでいる。まあ、涙で赤い目になっているのは、ちょっとウサギみたいではあったが。
「丸山先生、何で……」
美月はショックで何も言えない。
「そ、それは」
丸山も何も言えないようだったが、赤い目で美月を睨む様子は、何か事情があるのは、確かのようだった。それに走って疲れているのか、か身体もあまり動かせないようだった。
「丸山先生ー。何か知ってる?」
秋人は、水を飲みながらやってきた。以外と驚いている様子はない。むしろ想定内といった感じだった。冷静なものだった。
逆に丸山はニートバージョンに秋人に、目をひん剥いて驚いていた。精神的ショックも強そうだ。
「でも、秋人さん。ここで話しを聞くのはしんどくない?」
周りを見ると、親子連れやカップルで私立公園は賑わっていた。ここで丸山から事情を聞くのは難しそうだ。
「だったらウチで話を聞くか?」
秋人は、背をかがめて丸山の顔を覗き込んだ。これだけでも丸山の顔は真っ赤だ。よっぽど免疫がないのがわかる。
「お姫様抱っこするか?」
「いえ、いいです!」
秋人の提案に丸山は必死に断っていた。確かにニートバージョンの秋人にお姫様抱っこされるのは、微妙だ。美月も二回この秋人にお姫様抱っこをされたわけだが、1ミリもときめかなかった。むしろ恥ずかしくて居た堪れない。
こうして3人で秋人の家に向かって歩き始めた。
「私を追っかけてくる星野さんが、超怖かった。鬼みたいだった」
そう言って丸山はプルプル震えていた。美月の母が描くようなコージーミステリの犯人みたいに逆ギレしてくる可能性は低そうなので、秋人もホッとため息をついていた。




