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料理王子の謎解きレシピ  作者: 地野千塩


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ギルティな謎(6)

「秋人さん、おかえりなさい」

「おぉ、美月ちー。元気かい?」


 今日の秋人は、ガッツリニートバージョンで、頭に寝癖もつけていたが、そんな秋人を見ているとちょっとホッとしてしまった。


「という事で、どういう事か事情を聞こうじゃないか」

「そ、そうですね」


 美月はあまり話したい気分ではなかったが、こうしてリビングで二人で話す事になった。ちなみに抹茶は教会で聖歌隊の打ち合わせ、桜は直恵に用があり、夕方まで帰って来れないそうだった。


 秋人が温かい紅茶を淹れてれた。紅茶だけでなく、チョコチップクッキーも皿に盛り付けて持ってきた。ふんわりと甘い香りが広がった。


「わー、チョコチップスクッキー美味しそう」


 思わず明るい声が出てしまった。少ししっとり系のクッキーだったが、チョコチップがゴロゴロしていて、美味しそうだった。


「どうぞ、美月ちー。クッキー食べながら話そうではないか」

「う、うん」


 話しにくい状況ではあったが、チョコチップクッキーを齧ったら、少し気分も落ち着いてきた。やっぱり甘いものは、偉大だ。今は秋人のファンにストーキングのような目にも遭っている状況で、気づかずに緊張していた部分もあったらしい。甘いクッキーを齧っていると、そんな緊張も和らいだ。おまけに温かい紅茶も飲んでいたら、身体もゆるっとしてきた感覚を覚えた。


 そんなクッキーと紅茶のおかげか、昨日の事情をするすると話す事ができた。聞いている秋人の表情は、どんどん険しくなっていたが、口を挟まず聞いてくれた。


「それに夜中に呼び出してごめんなさい! 悪口も言っちゃったと思う。私、自分の事しか考えていなかったと思う」


 素直に謝罪し、頭を下げた。


「これからはタダ飯もちょっと控えるし、ファンに誤解させないように気をつける!」


 しばらく秋人は、目を点にして黙っていた。美月がこうして素直に謝罪したのが、驚いているのだろう。


「え? 何か不味かった?」

「いやいや、何か謝ってる美月ちーって、クリスチャンが言う悔い改めみたいだね」

「悔い新ためって何? よく映画でクリスチャンがやってる懺悔みたいなもの?」


 懺悔というと大袈裟で、自分はそんな大層な事をしたつもりではなかったのだが。とりあえずチョコチップクッキーを再び齧り、すこ気分を落ち着かせた。


「うん。クリスチャンがいう悔い改めって別に懺悔ではなく、方向転換って意味なんだ」

「方向転換?」

「うん。今まで神様無視してごめんなさい、これからは神様を向いていきますって言うのが悔い新ため。だから、謝って今までの生き方を変えたら、オッケー。もう罪悪感感じない。懺悔はずーっと罪悪感もつ感じだね」


 そう聞くと、美月はクリスチャンは、以外とフランクに自由に生きているように感じた。


「例えばこのクッキーだって食べすぎたら、罪悪感感じるじゃん」

「うん」

「でも、これからは食べすぎないように気をつけまーすっていうのが悔い改めかね?」


 秋人はそう言ってチョコチップクッキーを齧った。シャクシャクと美味しそうに食べていた。


「クッキー自体が悪いわけではないのね」

「そうだよ、美月ちー。悟ってるね。悪いのは、食べ過ぎてしまう人間の心だ。いつだって弱いのは人間の心だねぇ」


 よくハイカロリー料理は、ギルティな食べ物と言われていたが、確かに食べ物自体には何の罪も無い事に気づいた。


「でも、秋人さん。誰かファンらしき人が、私に嫌がらせをしているのは事実っぽい。何か心当たりはないの?」

「そうだねぇ」


 秋人の表情が曇る。


「こちらこそ悪かったよ。これは俺の責任だ」


 そう言って頭を下げる秋人は、何だかとても大人に見えてしまった。女子高生の自分には、偉そうにする教師や大人も多い。こうして何のプライドも見せず、素直に謝っている秋人は実はとても大人?なぜかわからないが、心臓がドキドキして頬が熱くなってきた。まあ、ニートバージョンの秋人をよく見ていると、ゆるキャラでも見ているような抜けた気分になってきたが。


「いや、秋人さん!頭あげて! 私も色々と悪かったと思うわ」

「俺のファンはいい人ばっかりなハズなんだけどなぁ」


 ここでようやく秋人は、頭を上げた。


「犯人の心当たりは無い?」

「そうだなぁ〜。わからん!」


 秋人は、腕を組んで頭を左右に振っていた。最近気づいたが、秋人は悩むとこんな素振りをするクセがあるようだ。


「だったら、尾行でもしてみるか?」

「尾行?」

「美月ちーのママが書いたコージーミステリでも、ホロインは尾行をやってたぜ?」


 秋人はそう言ってニヤリと笑った。


 窓の外でカラスの鳴き声が聞こえた。間抜けな鳴き声を聞いていると、美月の気は完全に抜けてしまった。

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