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料理王子の謎解きレシピ  作者: 地野千塩


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ギルティな謎(4)

 あのギルティなスイーツ・バナナチョコマシュマロトーストを食べたおかげで、夕方になってもまだまだお腹は空かなかった。


 美月はキッチンのそばにある食卓で母の書いたコージーミステリを読んでいた。アメリカの小さな町で起きるドタバタコメディ風のコージーミステリだ。


 バツイチで職を失ったヒロインが、親戚のおばさんが経営するベーカリーで一緒に働くところから物語が始まった。序盤でヒロインは町の嫌われ者の町長の死体を発見し、事件を調査し始める。その途中で町一番のイケメン医師といい感じになり、ヒロインが嫌がらせを受けている描写があった。


 英語なので、辞書を引きながら読んでので骨が折れたが、嫌がらせを受けたヒロインは、イケメン医師にベタベタに甘やかされている描写が多く、思わず赤面してしまう。アメリカではロマンス小説も人気らしく、母は甘々な表現もわざと入れているといると言っていた事を思い出した。


 あんまりも砂糖漬けの描写に美月は、ページを進めるのが困難になってしまった。英語も読み続けて脳も疲れたという面もあるが、壁ドンや甘いセリフ、お姫様抱っこのシーンもあり、全身がハチミツ塗れになったような気分だ。


「そういえば」


 妙な事を思い出した。秋人に出会ったすぐ、お姫様抱っこをされた事があった。今思いと結構な甘いシチュエーションだった。もっとも秋人の格好はニートバージョンだったので、別にトキメキはしなかったが。


「秋人さんって一応男性だったんだ」


 改めてそう思った。普段はニートバージョンの格好のせいか、すっかり忘れていたが、性別は男である事は事実だった。美月としては秋人は近所の(ニートの)お兄さんといった立ち位置の人物だが、そのダサい格好を知らない人からしたらキラキライケメン料理王子だ。そんあ王子の家に入り浸る自分は、ファンから見たら嫌な存在だと気づいてしまった。


 このチラシの嫌がらせは怖いが、自分にも落ち度はありそうな気もしてきた。もっとも別に秋人と何か特別な感情を持っていたわけでは無いが、やっぱり秋人のファンに誤解されても仕方ない状況だった。


 やっぱりタダより高いものはない。タダ飯食べられると喜んでいたが、こういった誤解は避けられないようだった。


 そう思うと美月は、だんだんと憂鬱になってきた。基本的に脳天気な美月だが損する状況はとことん弱かった。


「いや、もう寝よ」


 こういう時は寝て忘れるのが一番だ。うっかりしていポイントカードの換金を忘れた時も、とっても落ち込んだが、一晩寝たら全部忘れてしまった。


 こうして美月は、ベッドの潜り込んで目を閉じた。秋人も別に悪意があったり、ナルシストなタイプでもない。むしろ温厚で正義感が強いタイプだ。そんな秋人のファンも根っからの悪人のわけが無い。きっと何か誤解しているだけだ。事情を話せばわかってくれるかもしれない。


 そう思うと気が抜けて、眠気が襲ってきた。今日はウォーキングもしたし、ちょっと疲れていた。ふわふわとした眠気に逆らえず、美月はすんなりと意識を手放していた。


 気づくと夢を見ていた。


 お菓子の国みたいな場所にいた。童話の世界にあるようなお菓子の家々が立ちならぶ街を歩いていた。


 家だけでなく道もクッキーやチョコレートでできていた。雲はマシュマロや綿飴だったし、街灯はアイスクリームでできていた。


「何この世界、幸せ〜」


 甘い香りに包まれ、それだけでも美月の口の中が唾でいっぱいになってくる。


「た、食べたい!」


 お菓子の家も雲も街灯も食べたくなってしまった。不思議とこの世界には他に人がいなかったので、食べ放題状態だった。


 お菓子の家にハマっていたマーブルチョコレートを、摘んで食べてみた。


 口いっぱいにチョコレートの甘さが広がり、美月の目尻はとろとろの下がっていた。


「あぁ、美味しい。本当に夢みたい」


 しかし、そんな幸せ気分も一瞬だった。お菓子だらけの街並みに、変な看板が現れた。黒い看板で、字だけ黄色かった。フォントもおどろおどろしく、ホラー風の看板だった。


「何この看板。え?死後さばきに合うて何?」


 ホラー風の看板のは、「死後さばきに合う」とか「神と和解せよ」とか「私生活も神が見ている」と書いてあった。


 そういえば秋人は、神様と離れる事が罪だとか言っていた。こんな風のお菓子に夢中になっていた自分は罪人?


 だんだん怖くなってきて、美月はダッシュで逃げた。甘いお菓子も罪だらけけのギルティなものに見えてしまって怖い。


 しかもチョコレートが津波のように襲ってきた。


「きゃー、助けて!」


 チョコレートの波に飲み込まれそうになった時、美月は目を覚ました。


「なんて、夢。怖いよー」


 汗はびっちょりで、パジャマもちょっと重くなっていた。時計を見ると夜の2時だった。あれからこの時間まで眠ってしまったらしい。


「おー、怖かった」


 目が覚めても夢の中の甘い香りが襲ってきそうだ。やっぱり甘いものは、ギルティ???


 ホッとしたのも束の間だった。


 なぜか玄関の戸を叩く音が響いた。チャイムもなっている。


 美月の顔は、真っ青になっていた。


 やっぱり誰か見ている?こんな夜中に誰?


 もちろん出るつもりはないが、そっと玄関の方に近づく。まなりイライラした様子で戸を叩いているのは伝わってきて、美月はその場所で腰を抜かしてしまった。


「クソ女、謝れ!」


 そんな声まで聴こえてきた。女の声だったが、ドスが効いていて男の可能性もありそうだったが。


「こんな夜中に何〜。怖いよ」


 美月は涙目になりながら、立ちあがろうとしたが、恐怖で腰が全く上がらなかった。


 五分ぐらい経過しただろうか。ドアを叩く音や女の声はおさまったが、美月は怖くて仕方ない。


 まだ外に女がいるかもしれないと思うと、怖くて全く腰が上がらない。


 幸い、パジャマのポケットの中にスマートフォンが入っていた。


 アドレス帳をあさる。この時間に来てくれそうな人はいるだろうか。


 警察を呼ぶのを考えたが、もし秋人のファンがそんな事をやっていたら、大事にしたくなかった。


 もしかしたら秋人の仕事に影響が出てしまったら、取り返しがつかない。そう考えると秋人にイライラしてきた。秋人が悪いわけでは無いが、元凶ではないか。あのニートバージョンの脳天気な笑顔を思う出すと余計にイライラとしてしまった。


「ちょっと秋人さん!」


 気づくと秋人に電話をかけていた。逆ギレしながら、声を出す。


「どうしたんだよ、美月ちー。俺はレシピ本の執筆で徹夜してたんだけど、どうしたわけ?」

「どうしたもこうしたもないですよ!」


 冷静に考えれば秋人は何も悪くないのだが、この状況の美月はまともな判断が出来なかった。


 逆ギレしながらも事情を話すと、抹茶と二人で美月の家に来てくれる事のなった。


 五分ぐらいたった頃だろうか。秋人と抹茶のがやってきた。


 腰が抜けていた美月は、這いながら玄関の鍵を開けた。


「おぉ、美月ちー。大丈夫かい?」

「大丈夫じゃないですよ!」


 涙目で文句をいう、美月だったが、意外と秋人は優しかった。


「ごめんよ、美月ちー。とりあえず、この家にいない方が安全かも? なあ、抹茶さん」

「そうですね。とりあえずうちに来ましょうね」


 抹茶がそう言うと秋人も深く頷いた。


「じゃ、運ぶか」


 秋人はそう言った同時に、腰が抜けている美月をお姫様抱っこした。


「ちょ、やめてー」


 怒りと恥ずかしさで、暴れる美月だが、体格が自分より大きな秋人には抵抗できなかった。相変わらずニートバージョンの秋人であるが、この時だけはちょっとだけ王子に見えてしまった。そばで見る喉仏は、どう考えても異性のものでドキマギしてしまった。


「うわーん、全部あんたのせいよ」


 それでも口は秋人への文句は止まらなかった。


「おー?、よしよし。美月ちー、悪かったよ」


 素直に謝っている秋人は、やっぱり大人に見えた。逆ギレして泣いて怒る自分は、とても情けなく思えた。

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