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料理王子の謎解きレシピ  作者: 地野千塩


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ギルティな謎(2)

「美月ちー、今日はすごいものを作ったよ。その名もチョコバナナ マシュマロトーストさ!」


 土曜日の昼間、美月は秋人の家のリビングにいた。普段は土日はあまり秋人の家には行かないのだが、今日はスイーツのレシピ動画を作ったという連絡が来たので、ノコノコやってきた。


 動画をとった後なので、今日の秋人は清潔感のある白シャツにジーンズという格好だった。髪もセットし、なかなか決まっている。


 そんな秋人に勧められたチョコバナナマシュマロトーストは、かなりギルティな食べ物に見えた。


 思わずツバをごくりと飲み込む。


 カリッとしたトーストの上でマシュマロとチョコレートが溶け、バナナと抱き合っている。チョコとトーストの香りだけで、頬が緩む感覚を覚えた。


 秋人と出会ってから体重が増えていた。これは食べるべきではないかと理性は訴えていた。意味もなくリビングにある高そうな壺や絵画を見つめながら理性を保つ。


 しれでもふかふかのソファに座っていると、理性の性能が悪くなって来た気がしてしまう。


「と、ところで抹茶さんは? 今日はどこに行ったの?」


 どうにか甘い匂いに抵抗しながら、抹茶の姿を探す。今日は抹茶の姿は見えなかった。


「抹茶さんは、教会でゴスペルの練習しに行ったよ」

「教会?」


 そういえば抹茶も秋人もクリスチャンだった事を思い出した。食前に祈りにも付き合っていた。すっかり忘れていたが、美月の通う聖・ヒソプ学園は、キリスト教系列の学校だった。美月は一般的な日本人だが、教会に通っている同級生も多いと聞いていた。


「抹茶さんって歌はうまいの?」

「さぁ。でも抹茶さんは聖歌隊のリーダーだよ」

「意外!」


 聖歌隊のリーダーをやっている抹茶は、あまり想像できなかった。イケメンの男女がやってるイメージがあるなどと不敬な事を考えているろ、秋人が目の前のあのギルティなトーストを見せてきた。


「美月ちー、食べないの?」

「いや、今はその」

「じゃあ、捨てよう」

「それはダメ! 食べ物を無駄にしてはダメよ!」


 弱いところをつかれ、結局チョコバナナマシュマロトーストを食べた。


「うっ。大天使ミカエルが迎えにきたわ」


 下の上だけ天国になっていた。チョコ、バナナ、マシュマロ。そして最後にカリカリのトーストの甘みに、美月の理性はゆるゆるにぶっ壊れていた。


「美味しい。趙超美味しい!」


 語彙も壊れていた。美味しいぐらいしか言えなくなっていた。


「ところで藤部先生は元気?」

「元気だよ。毎日お弁当手作りしている」


 秋人は、あの事件以来、藤部の事を心配してよく気にかけていた。


「他になんか謎はない?」

「ないよ〜」

「材料がないと料理が出来ないように、謎が無いと探偵が出来ないじゃん!」


 その上、探偵みたいに謎解きをしたがっていた。何か謎か事件がないかと探しているようだった。今更ながら母のコージーミステリをプレゼントした事を後悔していた。


 まあ、チョコバナナマシュマロトーストのおかげで、そんな事は些細な事だと思ったが。いつの間にか秋人が温かいコーヒーを淹れて持ってきてくれたが、コーヒーの苦味が甘々の舌の中ではかえって心地よい。


 夢中でギルティなトーストを食べ終え、皿はすっかり空になっていた。


「美味しかったけれど、こんなの食べたら確実に太るわー。罪な味だった」


 うっとりとした表情を浮かべながら、美月はからになった皿を名残り惜しそうに眺めた。


「美月ちー、罪というのは、こういう甘いお菓子だけじゃないんだよ。我々クリスチャンは、罪の概念が普通の人とはちょっと違うんだ」

「へぇ。どんな?」


 美月も一応学校の礼拝に出ていたりするが、詳しい事はよく知らなかった。


「一般的に罪は、犯罪みたいなイメージじゃん?」

「そうだね。っていうか怖い。罪とかいうからキリスト教が受けないんじゃない?」

「まあ、そういう面もあるよね。でも、罪というのは、聖書的には神様から離れている状態ばんだ」

「へぇ。初耳」


 それは美月は聞いたことのない話だった。


「神様から離れてる罪があるから、一般的に悪い事もやっちゃう感じだね」

「ちなみにそういった罪の代償はあるの?」

「もちろん。神様は許してくれるけど、それなりの報いはあるよ。神様を忘れるほど、甘いオヤツを食べてたら、太るよね?」


 耳の痛い話だった。


 さっき食べらたチョコバナナマシュマロトーストも、それぐらいはまって食べていた気がする。今はギルティなスイーツといってハイカロリーのものも「罪」と言われていたりもするが、クリスチャンが言うような「罪」にも共通点があるような気がした。


「こもチョコバナナマシュマロトーストも罪だった?」

「いやいや、神様の恵みだと感謝して節度に食べれば全く問題がないよ。そりゃ、カロリー的にはギルティだけど!」


 秋人は、ちょっと悪戯っ子のような笑顔を浮かべた。


「じゃあ、このチョコバナナマシュマロトーストは罪はない?」

「それ自体は全く問題ではないよ。神様を忘れるほどだったら大いに問題だけど」


 一般的な日本人である美月は、神様についてはよくわからないが、秋人にそう言われるととホッとした。


「ま、食べすぎたら運動すればいいんだよ。っていうか俺はぽっちゃり系が好きだし、痩せてれば良いっていう風潮がわからんな」

「へー、秋人さんってぽっちゃり系が好きだったの?」


 意外だった。なんとなく派手で痩せているヤンキー美女が好きそうなイメージだった。


「そうだよ。だから、美月ちーだって、気にせず美味しいものをお食べ」


 そういう秋人の笑みは、ちょっと悪魔的だった。思わず誘惑されそうで、背筋が少し冷えてきた。

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