ギルティな謎(1)
職員室の窓から見える木々は、黄色やオレンジ色に染まっていた。そろそろ、そんな色づいた葉も散っている。今週は校庭の掃除当番になっている美月はため息が出そうだった。
「真澄先生、教材ありがとうございますー!」
美月は昼休み職員室へ行き、真澄からおススメの英語教材を受けとった。
「いいのよ。全く星野さんは勉強熱心ねぇ」
「学費がタダですから、骨の髄までしゃぶり尽くします!」
鼻息荒く言う美月に、真澄は呆れていた。
「じゃあね。私はこれからお昼買いに売店行ってくるから」
「真澄先生ありがとう!」
真澄がお昼を買いに行ってしまうと、藤部の席の方に向かった。もう昼ごはんを食べていた藤部だが、授業でわからなかったところを聞いた。
教師達は生徒に黙食を徹底しているが、自分たちはそんなルールを守っていない。大人って二枚舌だとイライラしてくるが、そんなものだろう。昼休みに職員室に居座っている美月だが、普段は成績が良いので文句をつけられる事はなかった。それどころか藤部と一緒に弁当も食べていた。
あんな事件(というほどでも無いが)あったが、実害はなかったし、藤部の事情もわかったので許していた。ドケチな美月にとっては、1円も損していなかったのも大きいだろう。かえって仲良くなっている面もあった。
「あ、藤部先生。今日はコロッケですか?」
藤部の弁当箱をのぞくとコロッケが入っていた。
「うん、秋人さんのレシピ動画見て作ってみたんだ。意外と簡単だったよ」
そう言ってコロッケを食べる藤部の表情は柔らかかった。以前のように表情に棘がない。
「星野さんの弁当何? 今日は塩むすびと唐揚げ?」
「そうなんですー。秋人さんは最近、スイーツレシピを開発していて、弁当の材料はなかなかゲットできず、今日のは自作です」
最近、秋人は画像映えするスイーツのレシピを作っていた。
マシュマロやクリームをたっぷり使ったトーストや、チョコレートたっぷりのケーキ、餡子とクリームたっぷりのたい焼きなど、高カロリーなギルティなスイーツを作っていた。特に甘いスイーツ系のトーストに力を入れているようだった。
おかげで美月の頬もほんのりふっくらとしていた。そろそろダイエットでもしようかと思うところだった。
「あれ? 丸山先生のお弁当はそれだけですか?」
ふと、藤部の真向かいの席に座っている丸山花織先生の弁当箱を見てみると、ちくわ数本とカットキャベツしか入っていなかった。
丸山は、藤部の件の時は勝手に疑ってしまった人物の一人だった。藤部と雰囲気は全く逆で、ぽっちゃりと優しい感じだ。色も白く、目も大きく、顔立ちも整っていた。美月は丸山の事は、ふわふわな白ウサギのような印象を持っていた。ただ、少し生徒に舐められている事は否めない。
「いえ、ちょっと最近は食欲ないの」
ちょっと自信がなさそうに丸山が答えた。
「えぇ、大丈夫ですか?」
藤部が口を挟むが、丸山は笑顔を作っていた。ちょっと苦い感じの笑顔だったが。
「ところで星野さんって、あの料理王子と親しいの?」
ちょっとモジモジとした口調で、丸山が聞いてきた。素直に事情を話すと、なぜか引いていた。
「それは、どうなの? お母さんもそれでいいの?」
そのツッコミは、一般的な大人としては最ものものだろう。美月は思わず口籠もってしまった。こういう時、やっぱり大人はしっかりしていると思う。自分はきちんとした大人になれるかハードルが上がった感じもする。
「まあ、星野さんが一人で暮らしている事は学校側も把握していますし、何かあったら、ちゃんと言うのよ」
藤部にピシャリと釘を刺された。
確かに今の状況は、かなり非常識だった。母が非難されるのも仕方ない。
なるべく秋人の事も母の事も他人に話さない方が良いのかも知れない。




