手抜きレシピと消えた弁当の謎(9)
次の日、いつものようにタダ飯の為に秋人の家にいた。
ただ、あんな謎を解決してもらい、その上タダ飯ももらっている現状は、さすがの美月も罪悪感を持ち始めていた。
「秋人さん、洗い物はこれでオッケー?」
「おぉ、美月ちー。手際が良いじゃか。完璧だ」
という事で、秋人の家で掃除や雑用などをする事になり、今日は秋人の家の厨房で汚れた調理器具や食器を洗い、片付けてた。
厨房は、学校の家庭科室ぐらいあった。大きなオーブや冷蔵室や世界各種の調味料を集めたラックもあり、厨房というよりは実験室という感じだ。
今日は秋人はここで手抜き鯖カレーのレシピ動画を撮影していたらしい。
厨房にはカレーの良い匂いが漂う。作業台の上には出来上がった鯖カレーの皿が、何枚か置いてあった。
「じゃあ、片付けも終わったし。リビング持っていって抹茶さんと一緒に夕飯食べよう!」
「オッケー!」
美月はそう言い、ご飯を器に盛り付け、鯖カレーと共にリビングに持っていった。
あとは秋人が味噌汁やサラダもリビングのテーブルに並べて、準備は完了だ。
「美味しそうです」
タイミングよく、抹茶もリビングにやってきて夕飯を食べる事になった。
抹茶は、あの弁当の謎については何も知らない。美月は事情を全部抹茶に話した。
「そんな事があったんですかぁ。婚活女性の闇は深いわ」
抹茶は藤部に同情的で、例の婚活カウンセラーの悪い噂なども話した。ここまで噂が広がっているところを見ると、藤部もしばらく変なカウンセラーに頼るのは良くないかもしれない。
「まあ、しかし。このカレー美味しいです。レンジで十分ぐらいで作った感じはしないよね」
美月が、鯖カレーを見つながら呟いた。鯖缶、カレールウ、レンジ、調味料を上手く使うとこのカレーは10分程度でできた。しかし見た目は、じっくりコトコト煮込んだカレーと大差ない。秋人が開発したメニューだが、これは忙しい人は大助かりのレシピに思えた。
「オレはもう女性だけが料理するべきとは思わんね。婚活男性もそんな事言ってたら絶対結婚できないだろうな」
しみじみと秋人はカレーを口に運んだ。
「そもそも結婚は現実的ですからね。相手に要求が多い人は絶対上手くいかないでしょう」
おじさんというか、大人の抹茶が言うと説得力があった。
「藤部先生の婚活上手くいくといいね」
美月は素直にそう思う。結局実害はなかったし、同情できる事も多い。返って騒ぎすぎた自分達が悪い気もしていた。
「まあ、上手くいかなくても料理はやってほしいね。自分一人の飯の準備もできないヤツが結婚するなと言いたい」
「意外と厳しいねぇー」
意外と毒舌キャラの秋人に美月は苦笑する他ない。秋人も元にはパートナーの料理は不味いという愚痴や悩み相談もよくくるらしいが、「だったら自分で全部作れ」と返しているらしい。
「それは料理王子のイメージが崩れるわ」
「美月さんの言う通りですよ。もう少し賢くいきましょうよ」
美月と抹茶の呆れ声が響くが、いつのまにか手抜きレシピの鯖カレーは空になっていた。
後日、秋人はポテトサラダをアレンジした手抜きコロッケのレシピを開発し、動画を作った。それを見た藤部から、「もう一度料理を頑張ってもいいかも」と言っていた。
一方秋人は、この一件で探偵の真似事のような事をしたくなり、「何か謎ない?」と美月に聞くようになった。




