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料理王子の謎解きレシピ  作者: 地野千塩


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手抜きレシピと消えた弁当の謎(7)

 想像以上に秋人の講演会は盛り上がり、最後に質疑応答の時間になった。会場の生徒や教師から質問を募り、秋人が応えていくという形だった。


「私、料理に自信がないんですけど、結婚できますかー?」


 質問者の生徒の明るい声が響く。


「それは相手にもよるね。というか女性が料理しなきゃってどこから出てきたの? 今は女性も働けって言ってるのに料理もしろっていうのは不公平じゃない?」


 秋人の砕けた雰囲気の解答に会場は笑いに包まれた。言葉自体はちょっとキツいが、秋人のキラキライケメン王子の雰囲気にみんな騙されている感じだった。


「俺のレシピは、どんな自信のない人でも簡単にできるように書いてあるから。もし結婚して相手が一切料理やらなかったら、俺のレシピを読ませる事をおススメするよ」


 ここで秋人はカメラ目線で、会場にキラキラな視線を送った。完全に宣伝であるが、会場の生徒達はキャーキャー騒いでいた。


 他に秋人は、冷凍ご飯の作り方とか、食パンの上手な解凍方法とか、ピーマンのヘタの取り方の裏技を話し、会場は大いに盛り上がっていた。


「あと、洗い物減らしたい時はクッキングシートや牛乳パックのせて材料切ったり、キッチン鋏も活用しよう。菜箸も割り箸で代用できます。コンビニで多く割り箸もらったら、取っておくといいよ」


 うん?


 秋人はドヤ顔で語っていたが、こんなセコい事は美月が教えたドケチネタではないか。あっさりと自分のものにしている秋人に美月は、イラッとしたが、逆によくそんな事も覚えていたかと感心した。


「やだぁ、イケメンなのにケチ〜」


 会場の生徒の誰かが笑っている声が聞こえたが、美月は居た堪れなくなって下を向いてしまった。


「おっと、そろそろ時間だな。最後の質問」


 そこで容疑者の一人・藤部が手を挙げた。意外だった。厳しそうな雰囲気な藤部が、一体秋人何の質問があるぼだろう。


 秋人もそれを疑問に思ったのか、すぐに藤部に指名した。


「ではそこの真面目そうな先生に質問聞いてみよう。何か聞いてみたい事ありますか?」


 秋人はいつも以上にキラキラな笑顔を見せていた。この笑顔に騙されない人はいないレベルだ。普段の秋人を知っている美月や桜は、ため息をこぼすが、前方の席に座っている藤部はニコリともしていないのが確認できた。


「あなた、さっきから女性は料理しなくていいみたいな事言ってるけど、それでいいの?」


 藤部はいきなり喧嘩越しだった。会場はざわつくが、秋人はキラキラな笑顔は全く崩していなかった。そういえば秋人にもアンチをいた事を美月は思い出した。スーパーで出会った自然派ママ風の女性で、確か調味料の「美味しさの素」をレシピに使う事を怒っていた。意外と秋人も完全な人気者というわけでは無いようだ。


「俺はそんな事は言っていませんよ。男性も料理したらいいんじゃない?っていうスタンスです」

「でも現実問題、料理上手の女性はモテるわ。その点はどう思うの?」


 意外と藤部は突っかかってきた。逆によくこの会場でそんな態度がとれるものか疑問だ。盛り上がっていた会場も、藤部のキツい声が響いたおかげで水をさされた雰囲気になってしまった。


「それはしょうがないよ。元々神様は、女性と男性の役割を決めて作られたんだから。むしろ今の女性の社会進出とか、不自然な事なんだよ。今の女性は大変だよね。仕事も料理もしなきゃいけない」


 秋人の回答は答えになっていない気もしたが、会場は拍手で溢れた。


「そうなんです! 私も婚約者は牧師なんですけど、超貧乏ですから、結局自分で仕事も料理もしなくちゃいけなくて!」


 なぜか教師の真澄も秋人の答えに感動し、叫ぶように同意していた。おかげで藤部も黙っていた。


 こうして秋人の文化講演会が終わった。その後開かれた秋人のサイン会も大盛況のうちに終わった。


 美月と桜は、控え室にいる秋人にちょっと挨拶をして帰るつもりだった。


「お兄ちゃん、意外と講演会面白かったよ」


 控え室では、髪をボサボサにし、ネクタイを外した秋人がいた。講演会が終わり、若干ニートモードにスイッチが入っていた。


「ありがとうよ、妹!」


 桜に褒められて秋人もまんざらでは無い様子だった。


「っていうか私のドケチネタをパクるのは辞めてもらえます〜?」

「えー、あの割り箸とかの話題は元ネタが美月ちーだったの?」


 桜は納得したように頷いていた。確かに金持ちで食材もバンバン捨てていた秋人は、そんな貧乏ネタは知らないだろう。


「いや、美月ちーの貧乏ネタは、超面白いから印象に残っていたのだよ」


 秋人は髪をぐしゃぐしゃにかきながら、大笑い。その子供のような笑顔を見ていると、美月は文句を言う気分にもなれなくなってきた。


「ところで、俺は犯人がわかった」


 ふと笑いをおさめた秋人が宣言した。


「あの藤部っていう厳しそうな先生だよ」

「えー?」

「嘘」


 美月も桜も驚いた声をあげてしまう。


 藤部が婚活中ちというのも、イメージが合わないし、厳しそうな彼女が弁当を盗んで写真を撮るというのも違和感を覚えた。


「証拠はあるんですか?」


 美月は藤部を擁護するわけじゃないが、口を尖らせて聞いた。


「あぁ。俺にあんな風にツンケンと質問してくるなんて、絶対変な奴だ。あいつが犯人だよ」

「いやいやお兄ちゃん。それは暴論だし、何の証拠もないよ」


 普段おっとりと優しい雰囲気の桜も、つっこんでいた。


 ただ、美月もあんな質問をする藤部には違和感があった。何か問題を抱えていてもおかしくない。別に犯人ではなくても、悩みはありそうだった。


「私、藤部先生をのここに連れてくる!」


 気づくとそう宣言し、控え室から走って出ていた。


 背中に止める桜の声が響いたが、今はこうする事が一番良い気がした。


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