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料理王子の謎解きレシピ  作者: 地野千塩


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手抜きレシピと消えた弁当の謎(6)

 体育の時間、弁当を盗みをしている犯人がわかった。


 ネットで画像検索し、結局秋人が見つけてくれた。桜や美月も頑張ったが、一番早かったのは秋人だった。


 ちなみにあれ以来弁当は盗まれていない。真澄が学年主任を説得し、教室に新しい鍵がつけられ、体育の授業などの移動する時は必ず鍵を閉める事がルールになった。鍵はクラスの委員長が管理する事になり、美月も安心だった。


 ただ、犯人の全てがわかったわけではない。正確に言えば、犯人のSNSのアカウントがわかっただけだ。


 そのアカウントは「虹子の婚活垢@アラサー」というSNSでTwitterにあった。数年前から婚活の記録を綴ったアカウントで、各種カウンセラーをフォローしていた。婚活相手の愚痴も多い。


 問題はそれではなく、料理の写真だった。数ヶ月前から調理が趣味といい、出来上がった料理の画像を上げていた。


 その中に美月の弁当の写真があった。


 どれも美月本人には身に覚えのない写真だった。それなのに自分で作った料理として写真を上げれている。


 虹子の本名を探ってみたが、それらしき情報は得られなかった。自撮り写真もない。


「おそらく、SNSで料理上手のフリしてたんだろうな」


 秋人が控え室の鏡の前でつぶやいた。


 今日は秋人が文化公演のため、学園に呼ばれていた。桜と美月は、控え室に行き、探し当てた虹子のアカウントについて秋人から話を聞いていた。


「でも何で、美月ちーが美味しい弁当作ってるのがわかったの?」

「それは私も疑問ね」


 桜と美月は、同じ疑問を持っていた。


「美月ちーは、弁当の写真をSNSをあげているアカウント持ってるじゃん? 本名でやってるし、それで利用しようと思ったんだよ」


 秋人はそう言い、鏡の前で髪の毛をチェックしていた。今日は講演会という事もあり、イケメンバージョンに磨きをかけてやってきていた。この姿だけ見れば普段のニートバージョンは別人だった。


 時計を見ると、まだ講演会の時間まで余裕がある。美月は気になる事を聞いてみた。


「この虹子って一体誰なの? この学園の人?」


 虹子のSNSを見ていたが、本名や自撮りもないので、誰かは見当もつかない。


「おそらくこの学園で独身のアラサー女性が犯人だ。心あたりないか?」


 秋人に言われて、美月も桜もしばらく考えた。


「真澄先生は結婚するし、橋爪先生はまだ若いし」

「そうね、桜。その二人はないわ。だとしたら数学の丸山先生と英語の藤部先生?」


 その条件の当てはまるのは、二人だけだった。丸山はぽっちゃりとした優しい先生で、藤部はガリガリで厳しいタイプだ。二人の雰囲気は正反対だが。


「ま、後で二人の時間割りを調べてみようぜ。アリバイが潰せたら、そいつが犯人だよ」


 秋人は余裕だった。


 美月と桜は、思わず顔を見合わせた。秋人があまりにも余裕だったし、弁当を勝手に画像取られている意外は実害は無い。なので、美月の気分は落ち着いていた。


「そうだね。後で調べよーね美月ちー」

「まあ、うちの親が言っているみたいに毒事件とかじゃなくて良かったわー」


 桜と美月は、呑気にそんな事を言い、控え室を後にした。


 一旦教室に戻り、弁当を食べた後、午後から秋人の講演会とサイン会だった。


 犯人の正体も半分ぐらいが見当がついたので、美月もすっかり気が抜けていた。それより秋人の講演会が楽しみだった。


 そうしてあっという間に昼休みは終わり、続々と生徒達は講演会が開かれる礼拝堂に集まった。


 一応カトリック系列の学校で礼拝堂と言われていたが、卒業式や始業式も行われる講堂と言ってよかった。もちろん、学園の聖歌隊が讃美歌を歌ったり、クリスマスには礼拝もここで行われる。


 天井は高く、派手なステンドグラスで彩られていた。礼拝堂というかほとんどホールと言っても良い場所だった。


「桜、直恵、楽しみだね」


 席は大まかにクラスごとで分かれていたが、概ね自由だった。美月は桜や直恵のそばに座った。


 ちょうど中央の席で、前方のステージも見やすかった。


 ステージのそばでは、犯人候補である丸山や藤部の姿もあり、美月はソワソワ してきた。丸山はニコニコしていたが、藤部は相変わらずツンツンと騒ぐ生徒達に注意していた。生徒に注意を終えると、なぜか真澄にも何か文句をつけていた。二人は同期と聞いた事があるが、あんまり気が合わなそうだった。真澄は困ったような表情を浮かべているのが、遠目のもわかった。


 そうこうしている内に生徒達で席もいっぱいになり、講演が始まる時間になった。


「みなさん、今日は会えて嬉しいです!」


 ステージの上に現れた秋人は、いつものニート状態が嘘のように堂々としていた。女子高生はファン層ではないはずだが、あちこちでキャーキャー悲鳴のような声が上がっていた。


「みなさん、お母さんにお弁当を作ってもらっている人はどれぐらいいますか?」


 秋人が質問を投げかけると、会場の半分ぐらいが手を上げていた。美月は当然手はあげられない。


 秋人は、母親の弁当の話を語り始めた。昔は多忙な母の冷凍食品の弁当に文句を言っていたが、こうして料理研究家になった今は、それでも有り難かったという話で、時折感動的なスピーチになっていた。


「確かに手作りで凝った弁当も素晴らしいです。でもそれで愛情は測れません。行いだけでは、腹の底で思っている事を120%表現できないんですよ」


 美月もその秋人の発言には、心あたりがある。自分の母も手抜きで、今も放置されている状態だが、それでも電話もメールも毎日している。事情を知らない近所の人とかにネグレクトなどを疑われるとムッとしてしまう。


「それに今は女性も働く事が前提の社会になっています。お母さんだけに完璧さを求めないでください。キャラ弁とかって超人じゃないと絶対無理だから! 男性の家事進出もしましょう。その為に僕も簡単で美味しいレシピを提供しています。やっぱり食事が美味しいと家族の笑顔は増えると思うですよねぇ」


 秋人の言葉の会場の女子高生達は、あんまりピンときていないようだったが、母親と離れて暮らしている美月は、何となく言いたい事がわかってしまった。


 隣で聞いている桜もうんうん頷いて聞いていた。


「うちのママも手抜きだったけど、義務感で料理作ってた感はないかもー」

「うちは逆ね。うちは義務感で美味しい料理作ってればいいんでしょみたいなタイプ」


 直恵はボソッと文句を言っていた。そういえば直恵の家庭は複雑だと聞いた事がある。やっぱり家庭それぞれで問題はあるようだったが、他所に家についてはあれこれ口出しできないと思った。


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