手抜きレシピと消えた弁当の謎(5)
「なるほど。弁当箱が消えたのね」
事情を聞いた真澄は、納得してくれたようだった。
「でも、星野さん。ダメよ、こういう事は先生に言わないと」
逆に怒られてしまった美月だが、真澄の言う事は正論で言葉がない。
「昔、この学校にも変出者が出てね。体操着や水着なんかが盗まれた事件があったの」
「え?」
真澄の発言に美月も桜も顔色が悪くなった。
「あー、新聞で聞いた事がありますよ。この学校の周りにストーカーが出たんですよね。犯人は捕まりましたけど……」
秋人はこの後、言葉を濁らせてしまった。
「ええ。でも被害者の生徒の心の傷が深くて。ちょっと登校拒否になったり、大変だったの。たぶん、これは変質者の仕業ね」
真澄はホワイトボードに「犯人は変質者!」と大きな文字で書いた。
「でも何の為に? 帰ってきた弁当は無事だったんですよぉ〜」
変質者だったら弁当に髪の毛とか唾液とか入れて返しそうなものだが、そう言った異変は何もなかった。
「わからん!」
秋人は珍しく悔しそうにホワイトボードに犯人の黒いシルエットを描いた。
「まあ、一応これから会議だから、この事は職員に報告しておくわね。あんまり気にしない方がいいけど」
真澄はそう言い残し、聖書研究会の部室から出て行った。
「でも、変質者?」
美月は、そんな気はあまりしない。今のところ弁当にイタズラされた形跡もなく、体育の授業の後に戻ってきている。どうも犯人は品行方正というか、マナーの良さは感じてしまう。弁当の入った保冷バッグや箸、お手拭きも荒らされたような形跡はない。
「もしかして、弁当そのものではなく、画像が欲しいんじゃないか?」
秋人はそう言ってホワイトボードに「目的は画像!」と書く。
「画像?」
美月と桜は、同時に声を上げた。
「うん。最近SNS映えのケーキやタピオカなんか画像取ったら捨ててるってネットニュースで出てた」
「何それ、秋人さん。そんな勿体無い事する不届き物がいるの?」
ドケチな美月が睨むと、秋人はわざとらしくプルプル震えた。秋人も食材を大量に捨てていた前科がある為、人の事は言えないと気づいたそうだ。
「じゃあ、つまり、美月ちーの弁当の画像だけ撮っている事?」
「そうだ、桜。そう思うと辻褄が合うだろう。しかも美月ちーの今の弁当は、俺が作った彩の良いものだ。写真映えするよな」
そう思うと、秋人の推理は筋が通っている。
「動機は画像目当てだ。たぶん、これで間違いない」
秋人はホワイトボードに大きくこう書いた。
・動機は画像目当て
変質者の仕業では無さそうで、ホッとするが、だったら犯人は誰?
「画像目当てだったら、ネットに上げてるんじゃない? みんなで手分けしてSNS探せば、犯人のアカウントわかるんじゃない?」
桜の提案はもっともだった。
という事で各自でSNSの画像を探す事に決まった。
「みんな、協力して貰って悪いね」
美月は恐縮していた。
「いや、探偵ごっこみたいで楽しいよ!」
「私もお兄ちゃんに同意だよ。こういうのも楽しいよね。困った時はお互い様だって」
そう言われてしまうと、美月も有難くて仕方なかった。
「みんな、ありがとう!」
少し涙目になりながら、美月はみんなに御礼を言った。




