転生までのひと間
はじめての投稿です。
器用貧乏がもし転生したら、どうなるのかなと思って、書きだしてみました。
私は小さい劇場のような場所でスクリーンに映し出されるこれまでの記憶を座ってみていた。
いまは、社会人になってからが映されている。
-新卒で入社したIT企業では、主任まで昇進して案件リーダーとして営業に代わってお客さんと交渉していたな。
「きっとそのまま働いていれば、いまごろ課長補佐くらいにはなれていたんだろうな。」
-なのに、会社の将来性に不安を感じて、新卒から9年働いてきた会社を辞めてしまったんだよな。
「・・・ハハ、まるで新卒2-3年目が考える理由だな。」
-まあ、辞めて1年後にはその会社はなくなったのでその予感自体はあながち当たっていた。
でもまさか、親会社に吸収されて待遇も大幅にアップなんて。
「予想できなかった。」
-このあとからはあーでもない・こーでもないと理由をつけては様々な業界へと転職を繰り返し、最後は5社目か。役職にも就けず、40歳目前で平社員で終わったな。
(はぁ、よくもまぁこんなに転職できたね。)
-新卒同期は課長やなんらかのスペシャリストになったり、大学時代のゼミ仲間は起業家や大手企業の本部長クラスになっていたな。
「・・・傍目からみたら、私は落ちこぼれなんだろうな。」
(そうでもないよ。ほら、)
家族と過ごした時間がスクリーンに映し出された。
-愛する家族。
-明るくて人付き合いも良くて笑顔が素敵な妻。
-妻にも負けない笑顔が素敵な小学生になったばっかりの長女。
-まだ4歳なのに妻の兄弟に似てイケメン感がある長男。
「私には勿体ない」
(君には勿体ないね)
-ケンカしたり、笑いあったり、支えあってきた。
「・・・もっと、たくさん遊びたかったな。
家族との時間をもっと作って一緒にいればよかった。」
(ほんとにキミは家族が好きだよね。
その執着心には驚かされるよ。
彼女と付き合っていた時なんて、連絡取れないだけで何度も電話をかけてさ。気持ちわるいよ。
家族との時間を優先しすぎた結果、キミ自身は友達いないしね。)
そして、最後のシーン。
-会社から帰る通勤電車の途中で急に胸が熱くなったんだっけ。
-その後、血の気が引いていき、目の前が暗くなっていって、いまの劇場に座っていたんだった。
-これは死んだんだな。
「心臓麻痺か。もっと痛いもんだと思っていた。
はぁ、帰宅ラッシュの真っただ中だから、たくさんの人に迷惑がかかったんだろうな。」
(これはキミのせいじゃないよ。
キミは変質者に背後から襲われて、うなじ当たりにナイフが刺さったんだ。
不幸中の幸いなのかな、脊髄がやられたおかげで、このあと何度か刺されたけど、痛くなかったでしょ。出血多量で死んじゃったけど。
でも、安心して。家族には保険金も出るし、交通機関からの損害賠償はないよ。)
「そっか、よかった。」
-ん。
「だ、だ、だ、だれ!?」
-うわ、声が裏返っちゃった。
あたりを見回しても誰もいない。
(キミたちの文化でいうところ、神様かな。
まあ、ただしくはこの世界の管理者。
それぞれの世界には管理者と補助がいるんだ。)
正面に視界をもどすと、そこに元々いたかのように少年とも少女とも見える子どもが立っていた。
もとい、微妙に浮いていた。
-この世界の管理者?
-この世界って他にも世界があるのか?
-いろんな異世界転生モノを読んだけど、異世界って本当にあるんだ。
(そうそう。最近流行っている異世界転生モノね。
あれは、補助の子らが円滑な転生処理を進めるために書いたものなんだ。)
といいながら、一冊の本を持っていた。
異世界転生モノの代名詞である魔物に転生する話だ。
「・・・テンプレだけど、心が読めるんですね。
どうしてそれが必要なんですか?」
(信じたくないだろうけど、キミたちの世界はシステムでさ。
管理者であるボクたちが生きるためのエネルギーを生成しているんだ。
キミたちの文化でいう、魂。
そう、魂が各世界を廻ることで生じるエネルギーが必要なんだよ。)
いくつかの器があらわれ、何かが器と器の間を行ったり来たりしている。
-これが魂なのだろうか。
「つまり、巷で流行っていた物語は他の世界に転生して生きていくためのガイドブックということでしょうか。」
(そうそう。理解が早くて助かるよ。)
「そもそも、ガイドブックは必要なんでしょうか。
記憶を消して、新しい世界で転生させれば良いと思いますが?」
(そう簡単にはいかないんだ。魂が納得してから転生しないと。
じゃないと、転生した世界で自ら命を絶ってしまうことがあるんだよ。
自殺者数が軒並み増えているでしょ。キミたちは心が弱いとかいっているけど、それは違う。
一部の管理者がサボって納得させずに転生させるもんだから、住んでいる世界に対して魂が拒否反応を出しているんだ。)
管理者は一瞬ムッとした表情をしたかのように見えた。
「でも、魂は廻るんじゃ?」
(それが自ら命を絶った魂は廻らないんだ。世界に縛られてしまい、魂は世界を廻ることができない。
結果、ボクらはエネルギーを回収できなくなるんだ。)
「だから、異世界転生モノで事前知識を与えておいて、死んだあとに新しい世界への転生することをを納得してもらう、ですか。
もしかして、走馬灯もそのために?」
(そうだよ。走馬灯を使って、これまでの人生を振り返ることで自分が死んだことに納得してもらうんだ。)
-システムというわりにアナログだなぁ。
(仕方ないよ。キミたちの機械だって正しい手順を踏まないと不具合が起きるでしょ。
いまのところ、この方法が一番なんだ。
さて、そろそろキミには新しい世界へ行ってもらうよ。)
「え、もう終わりですか。」
(そうだね。走馬灯で死を受け入れ、異世界に転生することをキミの魂は納得しているでしょ。
さすが、"器用貧乏"の特性を持っているだけあるね。
納得した魂に時間を割くのは、ねぇ。)
管理者はどこかの裁判ゲームのようにビシっと私を指さして、屈託のない笑顔で言った。
-特性?器用貧乏って、いろいろできるけど大成しないって意味じゃ。
-え、仕事で大成しなかったのはこの特性のせい?
-いや、納得はしたけど、理解はしてないよ!
(魂にはそれぞれ特性があって、キミは"器用貧乏"なんだ。
どんな会社でもそれなりに仕事ができていたでしょ?
特性のお・か・げ。
次の世界ではスキルと言って意図的に使うことができるから、試してごらん。
それに今回の世界で他にも知識や経験を手に入れているみたいだから、新しい世界でも生きていけるさ。)
-新しい世界の説明は?
-他に何を手に入れたって?
-というかさっきから声が出ない!
よく見ると身体?が消えかかっている。
(キミ、言葉に出すときに気を使いすぎだから、心の声をそのまま出した方が良いよ。)
にっこりと管理者は笑った。
-ちょっ、ちゃんと教えて?
だめだ。意識が薄らいできた。
(キミの魂は楽しみになっているようだよ。さあ、行っておいで。
・・・・キミ・ボクが選・・魂な・だ。)
意識が途絶えた。
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光のほうに身体が進んでいく。
やわらかい壁が身体に密着して、光のほうへ押し出そうとしている。
-息苦しい。。。
少しずつ光へ押し出されていく。
少しずつ。
光に近づくにつれて、声が聞こえる。
「頭が見えてきましたよ。もうひと頑張り!」
「ふ、ふ、ふー」
肩まで押し出された瞬間、グッと引っ張られ、光の中に出た。
光の中、開放感があった。
そして私は産声を上げた。
「オ、オギャア、ギャアーーーー!(あの管理者、最後にとんでもないこと言いやがった!)」
まだ生まれたばっかりです。
彼はこれからどんな成長をして、異世界を満喫していくのか。
話の方針が決まったら、続きを書いていきます。