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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死出山怪奇譚集序編 〜Introduction for Starlight Paradise〜『別れの旅路と二つの想い』

作者: 無名人


 …この世界(せかい)とは(こと)なる何処(どこ)かにある世界(せかい)冥界(めいかい)彼岸(ひがん)ともあの()とも()ばれるこの世界(せかい)は、現世(げんせ)とは(こと)なる時間(じかん)(なが)れているようだった。その世界(せかい)生物(せいぶつ)は、現世(げんせ)では(かんが)えられない(ほど)長寿(ちょうじゅ)で、異形(いぎょう)()ばれる存在(そんざい)(おお)かった。

 そんな冥界(めいかい)には、死神達(しにがみたち)()らしていた。(かれ)らは現世(げんせ)(おもむ)一方(いっぽう)で、現世(げんせ)人間達(にんげんたち)とよく()()らしをしていた。



 死神達(しにがみたち)(たば)ねているのが、風見(かざみ)(すばる)(かれ)冥府(めいふ)神皇(しんのう)冥界(めいかい)(おう)だった。(かれ)冥府(めいふ)仕事(しごと)一方(いっぽう)で、現世(げんせ)()らしている(つま)(あん)()にかけていた。

 ()いる(こと)()(こと)もない(すばる)一方(いっぽう)で、人間(にんげん)(あん)(すばる)感覚(かんかく)ではあっという()()いてしまう。そんな(あん)(すばる)はどうしようともしなかった。不死不滅(ふしふめつ)(たましい)()(すばる)にとって、どのような存在(そんざい)もいつから姿(すがた)()し、自分(じぶん)孤独(こどく)になると()かっていたからだ。

 そのように(かんが)えていた(すばる)は、(あん)無理(むり)延命(えんめい)しようとはせず、人間(にんげん)のまま(おく)ろうとした。




 臨終間際(りんじゅうまぎわ)(すばる)冥府(めいふ)業務(ぎょうむ)()いて、現世(げんせ)()かった。そして、事情(じじょう)()らない者達(ものたち)(まご)(いつわ)って(あん)(もと)(あらわ)れた。それが可能(かのう)(ほど)夫婦(ふうふ)()()年齢(ねんれい)はかけ(はな)れていたのだ。


 (いえ)でずっと大人(おとな)しくしていた(あん)は、(すばる)姿(すがた)()微笑(ほほえ)んだ。

(すばる)がここに()たって(こと)は、(わたし)はもう()ぬのかな…。」

(すばる)は、(くび)(たて)にも(よこ)にも()らなかった。ただ、(あん)をじっと()つめている。

(あん)…、()んだらもう(おれ)(まえ)(あら)われるなよ。」

「どうして?」

(あん)なら、(とお)(むかし)にお(まえ)がそうしたように()まれ()わってまた(おれ)()いたいと(ねが)うだろう?」

(あん)(うなず)くと、(すばる)(かお)をしかめた。

()まれ()わり(つづ)けるのはな、(とき)(くる)しみの連鎖(れんさ)になるんだ。(あん)にその(ごう)背負(せお)わせたくはない。それに、(おれ)不死不滅(ふしふめつ)存在(ぞんざい)だ。どんなに()まれ()わったとしても、ずっと(おれ)(そば)()られる(わけ)じゃない。」

「そっか…」

(あん)(あたま)にずっと()けていた花飾(はなかざ)りを(すばる)手渡(てわた)した。もう何十年(なんじゅうねん)()けていたものだ。すっかり(ふる)びてしまった。

本当(ほんとう)(とし)()らないんだね。」

(あん)(すばる)(ほお)()れた。

一瞬(いっしゅん)だけでも(すばる)一緒(いっしょ)()れて(しあわ)せだったよ。」

「ああ…、そうだな。」

(すばる)がもう一度(いちど)(あん)(こえ)()けようとした(とき)(あん)(すで)(いき)()()っていた。(すばる)は、(あん)()(がら)(かか)え、そっと布団(ふとん)()かせた。




 葬式(そうしき)()ませた(あと)何事(なにごと)もなかったように(すばる)冥界(めいかい)宮殿(きゅうでん)(もど)って業務(ぎょうむ)をしている。

杏様(あんさま)(こと)(おく)らなかったのですか?」

冥府(めいふ)神霊(しんりょう)(おさ)(すばる)部下(ぶか)のグルーチョが、(すばる)にそう(たず)ねた。だが、(すばる)(なに)(こた)えない。

智様(さとしさま)真莉奈(まりな)(さま)(みずか)らの()(おく)(とど)けたといいますのに…。」

部下(ぶか)小言(こごと)(いま)(すばる)には(とど)いていないようだ。

「この宮殿(きゅうでん)(あん)()()ってたな…。」

(すばる)()(まえ)書類(しょるい)(やま)とグルーチョを()いて何処(どこ)かへ()ってしまった。




 (すばる)()かったのは、宮殿(きゅうでん)庭園(ていえん)だった。そこには、現世(げんせ)から()()した()や、冥界(めいかい)植物(しょくぶつ)()えられている。(なか)には、ある(ひと)(たましい)()えつけられた特別(とくべつ)()があった。それは、(すばる)父親(ちちおや)桜弥(さくや)祖母(そぼ)梨乃(りの)で、(かれ)らは(さくら)(なし)()(ねむ)っている。

(とう)さん…、それからばあさん、()るんだろ?」

(ふた)つの()(なに)()わなかった。二人(ふたり)はずっと(すばる)見守(みまも)り、(こえ)()けるのだが、今回(こんかい)(なに)()わなかった。



 (すばる)二人(ふたり)(あきら)め、庭園(ていえん)()ようとした。その(とき)()えてあった(あん)()(ひか)っているのに気付(きづ)いた。近付(ちかづ)くと、()から(こえ)()こえる。それは、現世(げんせ)(わか)れたはずの(あん)(こえ)だった。

(すばる)()たよ。」

(すばる)(おどろ)きの(あま)りしばらく(こえ)()なかった。それに(あん)心細(こころぼそ)くなる。

「やっぱりだめかな?」

(すばる)はお(かえ)りと()()わりにこう(こた)えた。

()()むまでここに()ていいから、()わったらもう()けよ。」

「うん…、ありがとう」 

(あん)(まぼろし)姿(すがた)(あらわ)れ、(すばる)()()めた。

 (すばる)は、(みずか)らの意思(いし)()(なか)(はい)った(あん)戸惑(とまど)っていたのだ。()宿(やど)った二人(ふたり)(はなし)はしたが、まさか(あん)(はい)(こと)(かんが)えもしなかった。もうしばらく一緒(いっしょ)()られるのを(うれ)いと(おも)一方(いっぽう)で、()んでも(はな)れられないのかと(もう)(わけ)なく(おも)自分(じぶん)()る。(すばる)(あん)(はな)れた(あと)もずっとそれを(かんが)えていた。

 


 それを()ていた二人(ふたり)(すばる)(あん)には()こえない(こえ)(はな)した。

(よめ)には(やさ)しいんだな、俺達(おれたち)はこんな(あつか)いなのによ。」

「まぁ…、それだけ(あん)さんが(すばる)にとって大切(たいせつ)だったって(こと)じゃない?」

桜弥(さくや)梨乃(りの)(うご)けない(なか)(すばる)をじっと見守(みまも)っていた。



 …冥界(めいかい)隕石(いんせき)()ちる(まえ)の、平穏(へいおん)日々(ひび)一幕(ひとまく)だった。



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