表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂い悪夢に一人と一匹  作者: 灰猫 無色
7/13

7.安心安全の実家

※実家は大体において最高の環境である。

「おかえりー! どうしたの、急に帰ってくるだなんて。あら獏ちゃん可愛いわね」

「ただいま母さん。うん、ちょっとね」


 相変わらず悪夢は見てるけど、珍しくナースがいない日が続いているからということで、久しぶりに実家に帰ることにしてみた。

 一応念の為、獏には着いてきてもらっているけど、ナースじゃない限りは早々に悪夢は終わると踏んでいる。


「そういや響ちゃん、ちー子は……いるわよね、当然」

「当たり前だろ」


 ちー子も当然連れてきている。

 わかった途端に早く早く、と急かす母に、獏がこいつもか……という目を向けている。

 知っているか獏。猫の可愛さは正義だ。

 しょうがなしにキャリーバッグを開けた途端、母の手をするりと抜けて僕の足元へ避難するちー子。

 解せぬ、という顔で僕を見るが諦めるんだ母よ。

 実家にいた時に文字通り猫可愛がりのし過ぎで警戒されているのだから。


「相変わらずツレナイわねぇ……響ちゃんと言いお父さんと言い、ちー子は男が好きなのかしら」

「獏はメスだけど、こいつにも懐いてるぞ」

「同じ動物だものねー。人間とは違うもんねー」


 若干イジケているけど、我が母ながら母さんは若作りだからか良く似合っているというべきか。

 なんていうか、未だに学生です、と言われて通じそうな見た目だ。


「ん、帰ったか」

「ただいま父さん」

「元気そうでなによりだ。早く上がりなさい」

「もー、お父さんたら聞いてくださいよー、ってあ」


 奥の部屋から父さんがやってきて無愛想に声をかけてくれた。

 獏は『え、怒ってる!? モルなんかした!?』等と脳内に直接語りかけてきているけど、実際のところはかなり上機嫌だ。

 ちー子が僕の足元から飛び出して母さんの股下を潜り、父さんに飛びついてそのまま抱っこされたし、獏もなんだかんだ可愛いしモフみがあるからね。

 ちなみに母さんは父さんに向かって頬を膨らませていたけど、父さんはちー子を撫でつつ獏を無言で見続けているので無視されていた。


「もう! お父さんったら酷いわねー。ところで響ちゃん、この獏ちゃんのお名前は?」

「モルペウスって言うんだ。拾った時にダンボールに書いてあった」

「モルペウスってことはモルちゃんって呼ぶわね! ダンボールってことは……無責任な飼い主も居たものねぇ」


 獏はちょっとだけ納得行かない顔をしていたけど、今日連れてくると決めた時点でそういう事にするというのは決めていた話だ。


「響介、モルくんは撫でたりしても良いのか?」

「いいよいいよ、好きにしちゃってー」

「ふむ、では」

『!?』


 父さんがちー子を下ろして獏を撫で始めた途端、獏が硬直した。

 傍から見れば自然に動作してるのに、何故か相手の意識が外れた瞬間に動いて、()()()()接近を許していた、というのは父さんにはあるあるだ。

 更に父さんの対ペットスキルは家族で頂点、どころかたまにペットショップにお呼ばれするレベルで神がかっている。

 つまり何が言いたいかというと。


「ちゃんと世話はできているようだな。若干ストレスが溜まりがちのようだが……まぁ飼育ペットには良くある程度だ」

「助かるよ」

『キュッ!? ……!?』


 獏、モノの数秒で陥落。

 マッサージが気持ち良いのかピクピクしており、時折きゅーんきゅーんと鳴いている。

 あざと可愛い。

 あ、母さん、ティッシュどうぞ。


「こんなところだろう。運動不足も見られないし、健康体だ。ちー子はどうだ」

「ちー子は完璧だと思う」

「……そのようだ」


 それでも父さんはちー子にマッサージをしてあげるようだ。

 ちー子は目を細めて耳をぺたんと倒していて、ゴロゴロと喉を鳴らしながらみゃう、と仔猫の時のように甘えている。

 可愛い(迫真)。

 あ、母さんはティッシュと獏をどうぞ。


「運動不足はなし、ストレスもなさそうだ。ご飯量だけ気をつけた方が良いぞ」

「あー、もしかしたらネズミでも獲ってるのかも」

「なら大丈夫だろう。運動もそれ相応にできるだろうし」


 そう言ってちー子を開放して奥の部屋に戻る父さんと、それについていくちー子。

 家だと割と懐いているようだけど、やっぱり父さんには敵わないな。


 ところで母さん、獏が苦しそうなのでちょっと手加減してあげてね。

 うん、ほら、ちー子と同じように警戒されるよ?

 あー、遅かったか。

 警戒されてしまった母さんは残念そうにしていたけど、動物を可愛がり過ぎて警戒されるのはいつものことなので、僕も父さんも気にせず部屋に戻る。

 さて、二階建ての実家は部屋数が多い。

 何なら屋根裏部屋もあるくらいだけど、そこは物置としてしか使われていない。

 まぁ、なにが言いたいかというと。


「変わってないなぁ」

『そうなの?』

「うん」


 ついてきた獏をひょいと持ち上げてベッドの上に乗せる。

 たまに友人たちが、「家に帰ったら部屋が物置にされてた」なんて話をするのだけど、ありがたいことに我が家ではそんなことはない。

 なので家に帰ったら軽く掃除を……おや、これは母さんがすでにしてくれているようだ。

 うーん、どうしようか。


『それにしても響介の家は凄いな』

「そうかな」

『だって、ここまで力が満ちている場所なんて早々ないよ。モルパワーが(みなぎ)る!!』


 うおー! と何か気合を入れているけど、普段とそう変わりない気がする。

 一人テンションを上げている獏は放置して、僕は漫画でも……いや、たまには料理の勉強をするか。


「母さん、料理手伝うよ」








「それにしても、いつもお正月以外は帰ってこないのに珍しいわね。何かあったの?」

「いや、たまには帰った方がいいかな、とか」

「響ちゃん……」


 感動しているところ申し訳ないのだけど、実際のところは精神的な疲れを癒したいからだ。

 なんだかんだ一人暮らしよりは、家族で暮らした方が僕は落ち着く。


「ところで響介。大学は大丈夫か」

「ん? 大丈夫だと思うけど……どうかした?」

「いや、少し疲れているように見えるからな」

「そうかな」


 流石父さん、鋭い。

 悪夢を毎日見るようになった、なんて言っても信じてもらえないというか、信じてもらっても困るというか。

 普通の悪夢程度ならともかく、現実にも影響を与えるような悪夢を見ています! なんて言った日には恐らくしばらく自宅謹慎は間違いない。

 下手をすれば精神科医の元に連れていかれるな。


「ふむ……何かあったら言うんだぞ」

「わかってる」

「ならいい」

「はーい、今日はすき焼きよー」


 そんなことを言っている間に、母さんと一緒に鍋を持っていく。

 流石に料理の腕はまだまだ母さんには及ばないなぁ。

 ちなみにちー子と獏はそれぞれペットフードだ。

 獏が恨めしそうに僕を見ていたけれど諦めるんだね。

 本物のバクと違ってこの獏は人間と同じものを食べられるけど……それを説明するのは難しいからね。


 それからしばらくして、僕はゆっくりとお風呂に入って(獏とちー子を洗うのは父さんに任せた)、そのまま就寝することにした。


「獏、ナースが来なければ問題ない、よね?」

『問題ないよ!! 流石に場所も離れたと思うし、あの執着まみれな女だって早々追っかけてくることはないよ。それにしても響介のお父さんはその、凄いな! あまりに気持ちよくて、途中で寝ちゃったよ』


 獏よ、照れながら言うものなのか。

 まぁ、ナースが来なければ問題ないのは間違いないだろうから、いつものように夢を見て終わるだろう。

 悪夢なのは、変わらないと思うけどね。


























「織姫と彦星でさえ光を気にせず出会えるというのに。レールはなくともパン屑はあるのよ」


 ズルリ、ズルリと何かが近寄ってくる。

 けれど何故だろう。

 頭がふわふわして、何も考えられない。

 ああ、これは、夢か。


「天照の岩戸を開けるは誰ぞ?」

「!?」


 そういえば獏は〇▽◇×で僕は◇◇◇◇……。


「なるほど、夕闇の影のように伸びてしまえば定規がメジャーとなると。しかしそれが我が親愛なる水飴舐める小坊主たちへの鎮魂歌になりうるのならば容赦せぬ」

「ただの通りすがりが金属結晶の薔薇に手を出せると?」

「ふむ、式神が如く傲慢か。デウス・エクス・マキナですら分をわきまえておるであろう。どれ、怠惰たる我がそのピノキオをのっぺらぼうとしてやろう」


 〇〇▽は△□でそうなんだよねぇ。

 そういえばちー子は××××あ、母さん今日の晩御飯は〇〇?


























 その日の朝、久しぶりにゆっくりと寝られた気がする。

 夢も見なかったような気がするし、獏も不思議そうに『あれ、昨日は悪夢がなかった? うーん……』なんて呟いている。

 何にせよ数週間ぶりの快眠に僕は上機嫌だった。


「おはよう響介。良く眠れたか?」

「おはよう父さん。うん、ばっちり」


 実際、すこぶる調子は良かった。

 今なら獏の言うことを比較的聞いてやっても良いくらい。


『くぁ~……』

「おはようモルくん」

『きゅ~ん……』


 獏は起き抜けから父さんの撫でテクの餌食になっているようだ。

 僕はちー子を撫でてその様子を見やる。

 うん、これは獏も堕ちたかもしれない。


「響ちゃんモルちゃんおはよう!!」

「おはよう母さん」

『きゅ~ん……』

「はい母さんティッシュ」


 朝から尊死しそうになっているようなので、ちー子を預けて僕が朝ごはんを作ることにしよう。

 ちー子は若干不満げに鳴いたけど、今の状態の母さんなら大丈夫のはずだ。




「もうちょっとゆっくりしていったらいいのに……」

「明日からまた大学だからね。ゆっくりしすぎたら明日に響くし」

「むぅ……」

「母さん、響介をあまり困らせるんじゃないぞ」

「わかってるわよーだ」


 そう言いながら母さんはちー子のつむじ辺りで"の"の字を描いている。

 とりあえずちー子を解放してもらって、父さんにちょっとだけマッサージをしてもらってから猫用のキャリーバッグに入れる。


「気を付けてな」

「了解」

「もうちょっと頻繁に連絡ちょうだいね? 彼女さんとかできたらすぐにでも!」

「あー、今は様子見かなぁ」

「逃がさないようにね!!」


 なんて話をして、ちー子と獏を連れて僕の城に帰還した。

 それから数日間、悪夢を見ることなく過ごせたのはとても良かった。

 おかげでとてもリフレッシュできたと思う。

 これなら、定期的に実家に帰るのも良いかもね。

拙作を読んでいただきありがとうございます!


良ければ評価やレビュー、ブクマ等頂けると、続きを書く気力が上がります!


次回投稿は11月14日20時予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ