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12『置き配はいやだしなあ……』


月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・12『置き配はいやだしなあ……』


大橋むつお


※ 本作は自由に上演していただいて構いません、詳細は本作の最後に記しておきます



時   ある日ある時

所   あるところ

人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫




赤ずきん: わっ!……いてて……

マッチ: 大丈夫、赤ちゃん?

赤ずきん: おう、大丈夫……ここ……?

マッチ: さっききたとこみたい……

赤ずきん: また鳥取砂丘?

かぐや: ……

マッチ: うさぎさん……?

赤ずきん: とっくに、花火見物にいっちゃったんだろ。

マッチ: ……波の音がしない。

赤ずきん: 営業時間終わったんじゃないか?

マッチ: そっか……

赤ずきん: んなわけないだろ。

かぐや: ……(じっと「月」を見つめている)

赤ずきん: 月……少し大きくなってない?

マッチ: ……ほんと、さっきは一円玉くらいだったけど。

赤ずきん: ……五百円玉くらいの大きさだよ。

かぐや: ……あれ、月じゃありません。

二人: え?

かぐや: あれは……地球。

赤ずきん: え……あれが!?

マッチ: でも……地球って、青いんじゃなかった?

かぐや: そのはずなんだけど……今の地球は、なつかし色の月にそっくり。

赤ずきん: じゃ、ここは?

かぐや: 月よ。月にもどってきてしまったみたい……月から見たら、地球はあんなふうに見えるのね……

マッチ: じゃ……ここ、本物の……

赤ずきん: しゃれじゃなくって、月の砂漠? でも、この家には月までもどる力はないんだろ?

かぐや: はい、鳥取砂丘へ行くのが関の山……

赤ずきん: ……それじゃ……

かぐや: 神様のおぼしめし……それとも……

赤ずきん: それとも……

かぐや: わたし……月にもどりたかったのかしら……

赤ずきん: そんな……帰ろう、地球に帰ろうぜ! こんなところでひきこもっていちゃだめだ! たとえずっこけても、前むいて歩かなくちゃ!

かぐや: ほほほ、金八郎先生みたいよ、

マッチ: あ、金八郎先生のカードだ。

赤ずきん: あ、またなくしたんだ。

マッチ: ほんとだ。

かぐや: わたし、にがて。で、これは、なににつかいますの?

赤ずきん: IDカードっていってね。首からぶら下げて、学校入るときと出るときに機械をとおすんだよ。で、校長とかがいつもこれで監視してんだ。

マッチ: 金八郎先生よくなくすんだよ。いつも校長先生にしかられてる。

赤ずきん: 犬の首輪みたいなもんだ。

マッチ: でも、これが先生の証明になるんだよ。

かぐや: こんなものがね。おいたわしい……あ……いま、オオカミ男さんがお吠えになったわ。

マッチ: ほんと?

かぐや: ええ、わたしには聞こえましてよ……お手紙間にあわなかったけど、よろしくお伝えくださいな。

マッチ: よろしくって……

赤ずきん: かぐやは元気にひきこもってますってか!? こんなの、どうやってよろしく伝えられんだ。

マッチ: かぐやさん……

かぐや: また千年ほど眠ります。千年たったら、またお会いしましょう。

赤ずきん: かぐや……

かぐや: 大丈夫。赤ちゃんさんやマッチさんなら……千年たっても生きてるわ。

マッチ: でも千年たって、あの地球は残っているかしら、あんなになつかし色で……(赤ずきんと並んで地球を見つめる)

かぐや: ほほほ、それほどやわじゃございませんでしょ……たぶん、このかぐやも……あ、星の王子さまの宅配便……(トラックの接近音と停止とアイドリングの音)オーイ、星の王子さまあ! ほーら、お気づきになった。お二人は、星の王子さまのトラックにのせてもらって、おもどりなさいな。ね、王子さま、このお二人どうかよろしく。

赤ずきん: かぐや……

マッチ: かぐやさん。

かぐや: ほら、おいそぎになって、王子さまもおいそがしい方ですから(クラクション、かわいく鳴る)さ、早く。

二人: う、うん。


 下手に去る二人、続いてトラックの発進音。


二人:(声) かぐや、かぐやさ~ん!

かぐや: みなさんによろしくお伝えくださ~い。ごきげんよう……!


去りゆくトラックに手をふるかぐや。月の沙漠のオルゴールの音、かぐやの姿フェードアウト。ややあって赤ずきんあらわれる。

  

赤ずきん: あれから十年、あたしはファンタジーの国で老人介護の仕事をしてるんだよ。いま、こぶとりじいさんの世話をしてるんだ。出ぶしょうの運動不足で、すぐに太っちゃうので、大ぶとりじいさんになるなア! とハッパをかけてるんだ。マッチは、花火の職人さんになり、あちらこちらで大きな花火を打ち上げては、「かぐやさん、見えるかなあ……」と言ってる。昨日ひさびさに、天体望遠鏡で、月をのぞいてみたぞ。そしたら、かぐやの家のドアには……



かぐや(声): あと九百九十年眠ります。おこさないでくださいね。



赤ずきん: ……と、ふだがかかっていたぞ。そのドアの前では、オオカミ男さんからのプレゼントを届けにきた星の王子さまが伝票片手に「置き配はいやだしなあ……」と、小さくため息をついておりました。オオカミ男さんは、今日も月にむかって吠えておりました……とさ……



 オオカミ男の遠吠え、マッチの花火の音がして、オルゴールの音が重なる。赤ずきん、最初と同じようにクルクルと回り始める。顔が正面を向いたとき、バイバイと手をふりニッコリと笑う。その姿きわだつうちに幕。




※ 本作は無料上演である限り作者名「大橋むつお」を記していただければ自由に上演していただいてけっこうです。上演許可も取らなくてかまいません。チラシやパンフレット、中高生の場合はコンクール等で連盟に提出する書類等に作者名「大橋むつお」を明記してください。連盟から上演許可書を求められる場合は書類を返送用の封筒を同封のうえ送っていただければ必要事項を記入して返送いたします。

 大幅な脚色、たとえば、登場人物が増えるとか減るとか性別が変わるとか、劇中のエピソードや台詞が変わる時は脚色者を記していただければ幸いです。


 2024年4月 大橋むつお





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