あたたかさ
佳奈の心を揺るがす圭。
佳奈にとっての圭の存在は……………?
「1日だけ、俺の、彼女になってください。」
それを聞いたとき、私の頭の中が真っ白になった。
「っ!!はあああああーーーーー?!」
夜中なのにも関わらず、顔を歪めて叫んでしまう。
「佳奈さん、静かに!お隣さんに怒られる!」
その瞬間、私の後ろに置いてあるベッド側の壁からドンッ、と向こう側から蹴られる音がした。
「ほら!隣のおじさん、なにかとうるさいんだよ。とりあえず落ち着いて!」
「わっ、かっ、てる、わよ!圭くんが急に変なこと言い出すから……!何で私が彼女にならなくちゃならないの?!圭くんには彼女の1人や2人いるんでしょ!1週間、LINEもしてくれなかったのに……………!」
そこまで言って、はっとする。私、圭くんから1週間LINEが来なかったこと、そんなに気にしてるの……………?
「佳奈さん、その、LINEのことは……………」
「ごめん。なんでもない……………!」
恥ずかしくなって、顔を背けると、顔をむにっとつかまれ、必然的に圭くんと目があった。
「…………!?」
「LINE、1週間送れなかった理由は、えと、言い訳になっちゃうんですけど」
そこで言い淀んで、彼は顔を紅く染め、視線だけ逸らされた。
「…………佳奈さんを、どこに誘おうって、考えてて。決められなくて。色々、考え過ぎて、頭、爆発して。」
は、何を言ってるんだコイツ。と、私の悪魔が毒づいた。
「ごめんなさい、佳奈さんがそんなに俺のLINE、気にしてると思わなくて……!」
「はぁーーーっ!?き、気にしてないし!ただ……ただ来ないなーって思ってただけ!」
思わず、また大声を出してしまった。彼に口を手で覆われる。
「しーっ!しーってば!」
圭くんは焦ったように人差し指を口に当てていた。
「ご、ごめん。」
私は後退りし、頭を垂れて謝る。
「それに、俺、今まで誰とも付き合ったことないし。」
「そう、なんだ。」
こんなに優しいのだからもっとモテるのかと思っていたら、圭くんには自覚がなかったらしい。
「とりあえず、明日までに考えといてよ。日曜でも良いしさ。ベッド、整えておくから、お風呂入ってきなよー。」
「え、いい、そのまま寝る…………。」
男子が苦手な私が、男子と同じ家で寝ることすらもってのほかなのに、お風呂なんて………圭くんを信じていないわけではないが、なんか、恥ずかしい…………。
「もしかして、恥ずかしいとか、ある?それだったら、俺、外出てるし。ごめん、気になるよね。」
「う、うん。じゃ、そうしてもらおうかしら………?」
「りょーかい。お風呂沸かすわ。入浴剤、入れても大丈夫?」
あまりにも優しい彼に、少し、少しだけ惚れながら、コクコクと頷く。
彼とだったら、遊園地、行ってもいいのかな。
朝、日の光で目を覚ますだなんて、いつぶりだろう。久しぶりの爽やかさを体全体で感じながら、ナマケモノの速さでむくりと起き上がった。
耳を澄ますと、リビングでじゅーじゅーと音がする。こんなふうに、家に誰かがいて、ご飯を作ってくれるのも、何年かぶりの出来事。
1人暮らしって、毎日せわしないから気づかなかったけど、けっこう寂しいもんなんだな。
昨日、圭くんが貸してくれたパーカーと、ジャージ。変態かもしれないけど、いい匂いがして、心地よかった。だけど、私は女子でも小柄な方だから、服はだぼだぼ。これっていわゆる彼シャツ?
「……………いや、彼氏じゃないし。」
おかしくなった思考を振り切って、リビングへ向かう。
「おはよ……………。」
「お、佳奈さん、おはよー。今日の朝、食パンとご飯どっちがいい?」
「…………ぱん。」
「りょーかい。今、ベーコン焼いてる。ホットミルク飲むー?」
「………ん。」
寝起きの態度が悪い私は、そこまでしか答えたられない。朝起きたばっかりは、いくら気持ちよく起きれた日でも頭がボーっとする。
「どっちよ?」
「…………飲むぅ。……………んむ。」
「うわ、ソファーに突っ伏したよ。おーい、大丈夫?」
遠くから聞こえる声をものともせず、そのまま、まどろみに落ちる………というときに、「できましたよ、breakfast。」と、英語で言ってきたのに対し、過剰に敏感してしまった。
「ぷっ、なにそれ。」
「発音いーでしょ。」
なぜか自慢され、私はまた吹き出してしまった。テーブルに向かい合って座り、食卓を囲む。
「「いただきます。」」
こんな光景に、心が疼く。
一言で言うと、「あたたかい」。
木漏れ日を浴びて、まどろんで寝てしまうような、安心感と、幸福感。
彼の近くは、こんなにもあたたかい。
「そういえば、決まった?」
「え?」
「遊園地、俺と行ってくれる?」
彼の顔が少し強ばっている。緊張、してるのかしら?
自分の気持ちに気づくのが、怖くて、昨日は全然考えてなかったけど。
自分がどうしたいか、本能のままに動こう。
「はい。1日彼女、よろしくお願いします。」
そう言って、私は彼に右手を差し出した。
圭くんは、笑って、私の手を握ってくれた。
「よろしくな。」
そう、そう。その君の笑顔を、私の本能は欲しがってる。
ラベンダーのようなあなたの笑顔を。
「あ、でも、遊園地じゃなくて、水族館がいい!」
「え」
「いいじゃない。それとも、い・か・な・い?」
「行きます行きます!いやあ、楽しみだなあ。」
「……………なんか無理矢理ね。」
今回のタイトル、「あたたかさ」
あなたにとってのあたたかさは、どんなものでしょうか?最近寒いですしね。……おでん、でしょうか。私はこんにゃくと煮卵、染み大根が好きです!また、鍋やお雑煮、ですかねえ。
今回は温かみのあるほっこりした話でしたね。少しだけ心が浄化されたような気がします。みなさんにもそんな感情が伝わればいいな、なんて。
そして圭くん、かわいい。
佳奈ちゃんと圭くんの今後、見守っててください!
あなたと物語のつながりを。