彼の優しさ
高校時代の美波との出来事を夢でみていた佳奈。「もうこの事件に関わらなくていい。」目覚めた後、言われた言葉。佳奈はどうするのか………。
目の前が、黒から純白に変わっていた。
ガバッと起き上がると、見慣れた警察署の1部屋で寝かされていた。小会議室の床に簡易的にひかれた布団はふわふわで気持ちよかった。
「起きたか」
「田中さん………。」
ちょうどその時きたのは缶コーヒーを2本持った、田中さん。
「ほい。飲め。」
田中さんが何もないようにコーヒーを差し出したが、私は事情が読み込めなかった。
「あの、私って………事件現場の廃ビルにいて……美波を、見て………」
そこからが全く覚えていない。
「そのまま気ぃ失って地面に頭ぶつけたんだよお前は。………頭、痛いとこないか?」
「あ、大丈夫です。……………迷惑かけて、すみませんでした。」
「いや、いいんだ。元気だったら、今日はもう帰れ。こんな状態で仕事には出せん。もうこの事件には関わらなくていい。………すまんな。初の仕事が知り合いが死んだ事件だなんて。」
たぶん、知り合いを失った私を考慮してだったのだろう。でも、私はそれに従うことは出来なかった。
「いえ。私、大丈夫です。むしろ、美波が死んだ真相を明らかにしたいです。あの子、いじめっ子だったけど、自殺するような子じゃないんです!何にでもポジティブで、私の、大切なひとなんです!どうか、私も、捜査チームにいれてください!迷惑かけないように頑張るのでっ!」
私が頭を下げてひしとお願いすると、
「わかった。だが、今日はもう18時でお前の勤務時間外だ。帰れ。」
「はい!明日から、よろしくお願いします!」
顔をあげると見えたのは、見たことのない優しい表情の田中さんだった。
怖い。助けて。
仕事帰りの人通りの少ない夜道。私はベロベロに酔った若者たちに絡まれていた。
「お嬢ちゃんかわいいねえ、これから一緒に飲まない?」
「すみません、急いでいるので。」
冷たい言葉で切り抜けようとしても、腕を掴まれ制御された。
「ケチケチ言わずに来いよ!」
その時までは冷静だった私も、腕に爪が食い込み、恐怖におののいた。
「や、やめてくださいっ!誰かっ、助けてっ!」
「うるせえ!黙れ!」
警察官なのに、抵抗できずに大声で助けを求めことしか出来ない自分が、恥ずかしかった。体に力が入らない。
でも、
「た、すけ、て」
力を振り絞って出した声は、小さなSOSだった。こんなんじゃ、誰にも届かないよ………。
その時、誰かが横から若者の腕を掴んだ。
「え、圭く…………!」
「……………何してんだよ。」
圭くんが、若者たちに言い放った言葉は、冷たく重かった。鉄の塊を落としたように。
「お前には関係ねえだろっ!」
若者たちが圭くんに掴みかかろうとした時、圭くんは構えた。
「佳奈は、俺の、彼女だ。」
その言葉に若者たちは冷や水を浴びたように固まった。
「彼氏いんのかよ、それなら早く言えばいいだろっ!!」
そう言って、彼らは走り去った。意外に執着しなくてよかった。
ひざから、崩れ落ちた。
「佳奈さん?」
圭くんが、振り返る。その顔を見れて、余計に安堵する。
「……………ふ、…………った。」
うつむいて、勝手に言葉が出る口をそのままにした。
「え?」
「…………こ、怖かったあ~!」
顔をパッと上げ、揺れる視界で見えたのは、びっくりした圭くんの顔。それもそのはず、私は恥ずかしげもなく、道の真ん中でひざを抱えて泣いていたのだ。
「佳奈さん、腕、見せて。」
力の入らない腕を圭くんがまじまじと見つめる。
「佳奈さん、俺んち近いから、けがの手当てしちゃお。ほら、立って。」
「う、うわあん~~!!」
「ちょ、佳奈さんっっ!?」
この辺から、また私は記憶がなくなっていた。それに気づいたのは、次の日の朝。
覚えているのは、温かい、安心できるものにしがみついていたことだけだった。
お久しぶりです!少し間か空いてしまいました…………\(_ _)
この小説はこの辺から本番ですね!頑張ります!
応援よろしくね!