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トゥルーエイプリルフールの君へ

作者: 在原 功

修学旅行だった。程々の友人と談笑してそれなりに楽しかった、そんな2日目。

不意に送られてきた君の写真に会話が途切れて、頭の片隅で、ひどく狂う心音が隣の友人に聞こえてしまうのを恐れていた。

騙し騙してきた己を自覚したのは、それが初めだった。


友人としてはかなり仲良くやってきたつもりだったし、人として尊敬していた。これからも、友人として仲良くやっていくんだろうと思っていた。

まさか、俺の方からそれを破るだなんて。

初めからそうだったわけじゃない。だって君と俺はあまり話さなかった。何がいけなかったんだろうね、どこを違えたんだろう。


俺はいつの間にか、君を視線で追う理由を手探りで探し歩いていた。それらしいものが指に触れているけれど、これは違うな、と弾く。なんて、良い友達なんだろうと思って安心する。弾いたそれが何かの拍子にまた手の甲に触れて、払い除ける。尊敬している、崇拝している。そう戯けて、実は本気で思ってる。そして最後に、良い加減認めろと掌に収まった。だから、それでやっと認めるしかなかった。ごめんねやっぱり好きなんだ。認めると、甘いと言うにはあまりにしつこい熱が心臓を満たす。やってしまった、と思った。

友人はだめだ、と思っていた。友人だけは。これからの関係を崩したくない。こんなことで壊したら一生後悔する。友人として振る舞い友人としての愛を捧ぐべきだ。だから、分量を間違えちゃいけないと、そうずっと思ってきた。分量を測り違えたと気づいたとき、だからしまった、と思ったのだ。少しずつ傾いた柄杓が、かたん、と音を立てて地面を叩くように、それに落ちる音がした。


君は美しい太陽だから、君の月が現れていつかは俺を置いていくんだ。それで良いしそうなるべきだ。美しい輝く物語に翼を焼いた鳥は要らない。

太陽の光の為ならば、二枚の羽を焼いてもいい。この身を差し出す、それも結構。そしたら君の影の中で静かに俺は呼吸を殺そう。眩しいくらいの君の瞳に俺は映らなくていい。いや、一回くらいは映りたい、でも映らないままでいたい。


俺は中途半端に君に恋してた。本気で離れる覚悟もないのに、曖昧に君に近づいた。フリで誤魔化せると思っていた。3年待てば、全てなかったことになるから。

これは報復なのかもしれない。どうして君の幸せを齧り取ろうとするのかと、神の逆鱗に触れたのか。

やらかした、と思ったときにはもう遅かった。落下するような浮遊感、溺れるみたいな切迫感、沈んでいく心地よさ。

目を離せなかった。俺しか映さない君の瞳は、あまりに透き通った琥珀色をしていた。


間違いなく君を好きだった。だけど、だから、俺は何も言わないはずだった。これから毎朝一緒に歩いた時間も薄れて、会話も徐々に無くなって、君は月の候補を連れて街を歩くのだ。そいつは君の隣を幸せに自慢げに歩く。君はそいつを友人に紹介する。お似合いだね、などと言われて、俺も月のことを褒めて、君が幸せで良かったよどうか末長く、君のこと俺は応援しているよ、


だなんて、どうして言えるか、くそが。


どうしてそいつならいいんだ。なんで俺はだめなんだ。どうして俺は、どうして、答えは決まっている。

彼が月で、俺は鳥だからだ。


だけど、そいつは君を本当に好きなのか?本当に俺より君をすきなのか?恋人と呼ぶための代替品になんてしたら、それこそ死んでも呪ってやるけど、君のことだから、本気で素敵な人を見つけるんだってわかってるんだけど、どうしてもどうやっても考えないでいられない。

俺は、どうして俺なんだろうと。


そんな馬鹿げた考えを捨てるまで何ヶ月もかかった。

君を笑顔で送り出せるようになるまで待った。長かった。

君が誰かと腕を組んで歩くのを、受け入れることくらいならできそうだった。そうなるまで待ったから。

少し疲れていた。何故だ、どうしてだと繰り返すことに疲れて、なんとか流し込めば飲み込めるようになった。

待ち受けた答えが注がれるのを、見るのは後の話のはずだった。


言うつもりはなかった。君を困らせるのは本意ではなし、君の時間を注いで俺に与えて欲しいなんて贅沢は言い出せるはずがない。もう、準備はできていたのだった。

そんな気になった理由は、多分気まぐれに似た嫉妬心。溶かしたはずの感情の一部がまだ残っていて、それが、囁くのだ。

一つくらい、欲張ってみないか、と。


君を奪えないなら、君のものを一つ貰いたかった。何もしないままでいられなかった。どう包み込んでも月を愛せなかった。お願いだから、記憶に残して欲しかった。


話を切り出すのは恐ろしく難しくて、不自然に沈黙を作って風で頰を冷やして、逃げ道さえ探した。

何を言うかなんて決めた日から何度も考えてきたのに一つもまともにいえなかった。もっと淡白に、もっと簡潔に、もっとクールに、君が同情しないで月に行けるように言うつもりだったんだよ、本当は。

情けなく吐き出した、でもそれが本当に俺だったんだ。

君のその反応だけで、初めてに数えてくれただけで、俺はもう十分すぎるくらい十分だった。思っていたより、俺は満足していて、ああ、なんとか君と月を見送るくらいならできそうだと思っていた。

視界の端に映る君の指先を綺麗だと思いながら見ていた。瞳を覗き込む勇気はなかった。つらつらと要らないことを喋っていた。執行猶予が欲しかった。言い切った脱力感。前よりずっと、君を美しいと思っていた。


付き合って欲しいとは思っていない。ただ、言わないと後悔しそうで、君のことを好きで、どうして欲しいでもなく、聞いて欲しかっただけだと、怖気付いて、忘れてくれとまで言ったのに、退路を断たないでよ。

やっぱ忘れていい訳がねぇよ、と思わず答えたけど、本当なら迷わず忘れて欲しいと言うべきだった。こんなところで俺はまだ断ち切れなくて。

いい訳がないけど、仕方ないだろって、どんだけ逃げるんだよ、俺はって。


だからさ、こんだけ言えばわかると思うんだよ。本気で君の言葉に、死んでもいいと思ったんだ。この瞬間に命を断てば、俺は世界一幸せに死ねるんだろうって。


前に好きな人はいたよ、確かに。それが間違いだったとも思わない。それでも声に出して言ったのは、君が初めてだ。何の後ろ盾も自信もないまま、ついでに言えば逃げ道もないまま伝えたのは君が最初ってこと。そのくらい、いい加減言い逃れできないくらい君に惚れ込んでる。


多分、今は片想いで。

名前を呼んでみたいとか、少しくらいなら触れてもいいかなとか。思ってることなら沢山ある。だけどそれと同じくらい、君の時間を機会を奪うこと、不安で仕方ない。


言われる言葉なら決まってると思ってたから、違う言葉の時を考えていなかった。

君にとって一番になれるなんてやっぱりそれは思い上がりだと思ってる。君の考えていることはわからないままだ。ごめんね、こんなこと言ったら君はきっと嫌がるだろうね。俺のこと嫌になるかな。


ちょっと前まで捨てるつもりだったのに、拾われちゃってざまぁないね、恋心。折角あるなら誠心誠意捧げさせてもらいたい。君に月ができたなら、手を引く覚悟はできているんだ。だけど、少し、ほんの少しだけ。


笑うときよく響く声が、舞うときの艶やかな表現が、描くとき繊細なその線が、何より愛おしい。

馬鹿みたいだよな、本当に。おかしいんだ。

誰がなんと言ったって俺が今世界一の幸せものだから、今こそその手で殺して欲しい。


なんてね、浮かれ過ぎてはいけないよね。

you drive meとはよく言ったもの。

まさにそんな気分だって。

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