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松重の戦い  一

最近、夢津美とお千をよくまちがえます。

だって、似てるし・・・

正月気分もぬけたある日のこと

百合はめずらしく中庭で武道にはげんでいる。

霜が降りた中庭はやけに静かだった。


弓を持つ百合。

「うんぐっ・・・ぐぐぐぐ・・・」

だが、弓が引けていない・・・。

「ダメですよ! 百合様!」

百合に仕える女中、夢津美はパンっと手を鳴らした。

「そんなこと言ったって・・・弓が引けないんだもん!!」

「いざという時に武道は必要なのですよ!」

いつもはやさしい夢津美だが、武道のこととなると態度が一変するのだ。

恐るべき二重人格である。


「しょうがないな・・」

百合はしぶしぶ弓を引く。

「うううう!! あともう少し!これで手を放せば・・・」

と、その刹那――


「一大事じゃあ!!」

「わああっ!!」

きゅうに百合の祖父、佐門が飛び込んできたのだ。

放った弓は大きく的から外れ、塀の上を飛びこえてどこかへ消えた。

「何しにきたのよ、もお〜!!」

不機嫌だ。

そんな百合にかまわず佐門は青い口を開く。

「百合、よく聞け。おまえの実家がある松重まつがさね地方で戦がおこった!!」


「・・・え?」

百合は、しばらく佐門の言ったことが理解できなかった。

「そ・・・それどういうこと!?」

百合は我が耳を疑った。ウソでしょ?

「おまえの実家近くで大きな戦がおこったのじゃ!どうやら下級武士と領主軍との対決らしい。」

「なっ・・・」

百合の手から弓がすべり落ちる。

『カランと』音を立てて地面に落下。


――百合は、戦という言葉がこの世で一番きらいだった。

百合の母は、百合がまだ四つの時、戦によって命を落とした。

「じ・・・じゃあ父上は!? お千は!? 撒は!?」

佐門につかみかかる。

「お・・・おちつけ、百合・・・」

「どうなるのよおおおお!!!」

「・・・っ!」

佐門が、そっぽを向く。

「まだ、何とも言えんのじゃ・・・」

「そ、そんな!」

百合は弱々しく壁にもたれると、目をキッと見開いた。

「私、実家へ戻るわ!!」

「えっ・・・!」

夢津美が手を口にあてる。


「いかん、百合!!」

「だって・・父上や撒たちが危険な目にあってるのかもしれないのに・・・」

それに、撒の家は武士だ。いつ戦に巻き込まれてもおかしくない。

「ねえ、おねがい! 行かせてよぉぉぉ!!!」

絶叫する百合。

夢津美と佐門はその様子をだまって見つめた。


「しょうがない・・・」

佐門が口をひらく。

「命令だ、百合!ただちに松重へ参れ!!」

「!!」

百合はがばっと顔を上げる。

「行くがよい、百合。 自分の運命は、自分で決めるのじゃ。」

「は、はい!!」

佐門に敬語を使うなんて何年ぶりだろう。

「で、でもそれは危険・・・」

「護衛をつける。問題ない。」

佐門は夢津美にぴしゃりと言いはなった。

そして百合に向かって笑顔をつくる。

「参れ、百合。」



   ☆



籠にゆられながら百合は唖然とした。

以前、撒と小さいころよく遊んだ野原は戦地と化してしてる。

あるのはそこらじゅうに倒れている人と馬。

また、よく買い物に行かされていた市場は木の残骸が落ちているだけでなにもない。

「な・・・!」

そしてしばらくしたころ――

「百合!」

聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「父上!」

籠から降り、辺りを見渡す。

二人の人物が駆け寄ってくる。

「百合――!!」

「父上! お千!」

なつかしい顔だ。

「戻ってきたのか!」

父上は笑みを浮かべる。


それからしばらく、百合は父上とあれこれ話した。

城のこと、綾尉、夢津美、蒼たちのこと。


すると突然、

「とまれぇ―――!」

という大声が響いた。

前を見ると、たくさんの人。

みんな槍やら弓などの武器を持って。

「あれはいったい・・・?」

百合の問いかけにお千が耳打ちする。

「あれは、今から戦場へ行くものです・・・」

よく見ると、みんな痩せてる。 ろくに食べ物を口にしていないのだろう・・・

そう思って、百合は我が目を疑った。

その人々の中にいる、一きわ小さく、一きわ痩せた少年。

それは――。


「撒・・・!?」







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