年明け間近の判じ物
作者注)半分遊びで書き上げました。(おい)
「ありえん!」という場面もありますが、そこはスルーしてください。
あの蒼をめぐった事件から二ヶ月がすぎた。
今日は十二月三十一日。
いわゆる「大みそか」である。
そのため、城の中は外が雨降りなのもかまわず大忙しだった。
「お湮さん!障子をはずして!」
「はい!」
「多美さん!茶室のお掃除!」
「わかりました!」
女中たちがドタドタと走りまわり、あたりはよけいにホコリが舞っている。
そんな中、百合は畳にねっころがっていた。
「あ〜あ〜ひまねぇ・・・」
百合はそう言って頭をボリボリかく。
朝おきたばかりの百合の髪はボサボサだった。
この状況を見て姫君だと思う人はまずいない。
「夢津美は掃除してていそがしいし・・・」
百合はそう言ってピンときた。
「そうだ、城の中を探検してみよっかな〜夢津美もさそって・・・」
百合はまだ城の内部を全部を見たことはない。探索がわりにいってみるのも悪くないだろう。
「フンフフン、思いたったらすぐ実行!」
半分音がはずれた自作の歌を歌いながら障子を開ける。
夢津美の休憩している時間をねらって廊下を駆けた。
(決してストーカーとかではありません)
「夢津美〜!!」
廊下でぞうきんを絞っている夢津美に声をかける。
夢津美はすぐさま百合だと気づき、ハッと振り返った。
「なんです?百合様。」
百合はニヤッと笑う。
「城の中を探検しに行かない?」
「・・・へ?」
夢津美の目が点になる。
「だからあ・・・」
百合は上から目線でくわしく説明した。
「え・・・でもそんなことをしたら佐門様にしかられますよぉ〜?」
あきらかに行きたくないというのが見え見えだ。
夢津美は感情が言葉に出るタイプだな、とすかさずチェック。
「行きたい、行きたい、行きたい!!」
だが、百合はだだっこのように手足をばたつかせた。
「・・・・・・しょうがないですねえ・・・」
夢津美が頭に手をあてたのを見て百合はニマッと笑った。
「じゃあさっそく準備よ!」
廊下を駆けて行く百合を見て夢津美は思った。
(やれやれ・・・とんでもない姫君様ですね・・・)
☆
「・・・ってなんで天井裏なんです――!?」
「シィ―――ッ!気づかれるでしょ!」
城の暗い天井裏を横切る影が二つ。
夢津美はよつんばいになってハアハア言っている。
「いいじゃない!このほうが探検らしくて。」
百合は楽しそうにどんどん進んでいく。
「こ・・これじゃあ私たちドロボウですよ〜」
だが百合はおかまいなしに天井の板をはずして一つずつ、部屋をのぞいた。
政治をやっている部屋。
老中たちが一生懸命書き物をしている部屋。
女中が箒をもってあわただしく動いている部屋。
おいしそうな料理を煮込んでいる部屋。
百合はそのすべての様子を目をかがやかせて覗いた。
「私の見えないところでこんなことが行われてるんだ・・・」
さすが城ね!という百合を、夢津美は心配顔で覗き込んだ。
「そ・・・そろそろ帰りましょうよ・・・百合様のお着物が真っ黒に・・・」
「まって〜あとこの部屋だけ!!」
天井板をはずして百合は最後の部屋を覗いた。
だが、そこは真っ暗でなにも見えない。
「あれ?」
「ゆ、百合様〜」
夢津美は止めるが百合が聞くはずがない。
「たしかここにろうそくと火打石がっと・・・」
すぐさま夢津美をつれて部屋の中に飛び降りた。
これも撒と遊んでいた時に身に着けた技だ。
「な・・・何ここ・・・」
そこは、家具や置物がまったくない部屋だった。
ただ、真ん中にポツンと一つ箱があるだけだ。
「私もこんな部屋初めて見ました・・・」
ボヤッとした明かりの中、夢津美は呟く。
「真ん中にある箱を開けてみない?」
百合はそういって箱にかけよると、箱に手をかけた。
「!?」
そこには一枚の古ぼけた和紙があった。
すっかり茶色くなっていて、ボロボロだ。
「な・・・?」
紙を手に取る百合。
しばらくの間、百合は蝋燭を近づけ紙を読んでいる。
「あの・・・その紙にはなんと・・・?」
夢津美が問うと百合は、
「夢津美・・・!これ、判じ物だ――!!!」
と、叫んだ。はっきり言って煩い。
「え・・・!?」
「ほらこれ!」
百合が夢津美に見せた紙には、やたら達筆でこう書いてあった。
『えたいやいきけなとまほんえやよむゆれ
れよむよなうを。 一つ下』
「????」
「さっぱりだ・・・」
「この一つ下ってのはなんでしょう・・・?」
すぐさま二人は判じ物解読にかかる。
「あ・・・!」
数分後、夢津美が声を漏らした。
「分かったの!?」
「た・・・たぶんですけど・・・!」
夢津美は紙を手に取った。
「この一つ下っていうのがカギなんです。
この文を五十音順の一つ下の文字にずらすと・・・」
「たとえばこの最初のえの字は、しの字になるってこと?」
「そうです!そうやってこの文をよむと・・」
百合は頭をフル回転させて文字を読み取った。
すると・・・
『しょうぐんさまのへやにいこくからきたたからがねむる・・』
「将軍様の部屋に異国から来た宝が眠る!!」
百合と夢津美は仰天した。
「い・・・異国から来た宝―――!?」
「こうしちゃあいられない!」
百合と夢津美はすぐさま綾尉の部屋へと向かった。
『スパアアアン!!!』
百合はもんのすごい勢いで綾尉の部屋の障子を開ける。
「な・・・なんだ・・・!?」
驚く綾尉を無視して百合と夢津美は部屋の中をあさりまくった。
「あった! 木箱よ!」
そして百合はその箱を手にとると、ゆっくりと開けた。
だが・・・
「か、から!?」
ご丁寧に中はからっぽ。
「な―にをやっているのだ百合たちは・・・」
そして、百合と夢津美ははじめて綾尉がもっている物体に気がついた。
「な、なにそれ・・・?」
つやつやでプルプルした黄色いモノ。
そして上には茶色い液体がかかっている。こんなもの、見たことない。
「これか?なんでも佐門に聞いたところ、ぷりんという異国のものだそうだ。
その箱に入っていた。」
「え・・・ええええええええっ!?」
「せっかく判じ物を解いたのに――!!」
百合と夢津美はそう言うと、綾尉に向かってタックルをする。
「ぐえっ・・・ちょ、まった・・・」
綾尉は二人の育ち盛りな女に押しつぶされながらもがく。
ん?まてよ・・じゃああの判じ物を作ったのはもしかして・・
百合は遠くを見つめると、何か分かったように微笑む。
今年の正月は、楽しくすごせそうだ。