赤い炎は陽炎のように揺れて
「こ・・・こんなことってあり!?」
暗闇の物音一つしない倉庫の中で百合はへなへなと地面に手をついた。
「そりゃ私、蒼様に話かけたけどそれだけで牢の中・・・」
やっぱ蒼様にかかわらないほうがよかったのかも・・・
百合はそう思ってハハハ・・・と笑った。
だれもいない倉庫の中で。
「って落ち込んでる場合じゃない!今はここからでなきゃ!!」
百合はそういって着物の腕を思いっきりまくしあげた。
でも。
この状態でどうしろというのか?
倉庫は丈夫そうだし窓なんておろか、暗闇でなにも見えない。
「・・・。」
理解に苦しむ百合。
だが、しばらくしていると遠くで声がした。百合はそれを捉える。
「・・・ここに・・・ま・・・き・・・を・・・」
誰かいる!よーし、息を吸って・・・
「助けて―――!!!」
百合の大声は暗い倉庫の中で反響した。
しかし、相手からの反応はない。
ん?ちょっとまてよ・・・
百合はその昔、佐門に言われたことを思い出す。
『よいか百合。ことをおこすときはまわりの人間が自分を信じているものか
たしかめてからやるのじゃ。もし、信じるものがおらぬそのときは
百合はあの世ゆきだぞ・・?心しておくのじゃ!!』
あの声の主が味方だとはかぎらない。
そうすると自分はどうなるのか?
百合の白い頬をツーと汗がつたる。
「ま・・まあ声の主が敵ってことはまずないでしょ!
きっと私をさがしにきてくれた人よ!」
どこまでもポジティブ思考な百合。現在十六歳。
でもひっかかるのは遠くから聞こえたあの言葉。
『・・・ここに・・・ま・・・き・・・を・・・』
まきをつかうってことは火を熾すということ。
でも、外で燃やすものなんてあったかな?
そう思って百合は気づいた。
辺りの気温が上昇していることを。
「ま、まさかとは思うけど・・・」
『ボッ!!!』
「キャ――――!!!」
隣の壁から赤い、恐ろしい炎が飛び出した。
外にいるお凛が火を放ったのだ。
煙が辺りを囲む。
「くさっ!!」
百合は目を細めて咳こんだ。
あわてるな自分!!たしか学校で避難訓練したし・・
(上の文はどう考えても作者の遊びです。本当にありがとうございました。)
頭をスーパーフル回転させる。
たしか煙は下に行くはず!!
ここで百合は人生最大の間違いをした。
そう。煙は上へ行くのだ!!!
でも百合はそんなことは知ったこっちゃない。
大きく背伸びをし、息をけんめいに止めて少しづつ前進する。
他人から見ればただのバカである。
数分後やっと異変に気づく。(遅い!)
「おかしい、上にいるはずなのになんだか気持悪い・・・」
もう一度言う。
煙は上に行くのだ!!
そしてとうとう百合はその体をゆっくりと傾け、床に倒れこんだ。
遠くから声がする。
「百合――っ!!!」
誰・・・?
百合は炎に飲み込まれていく。
気がつくと、あたりは真っ白だった。
空も海も森も林もなにもない。
そこに百合は一人立っている。
もしかして、ここが天国っていうところ?
私、死んだ!?
まだやり残したことがたくさんあるのに。
フッ・・・桜の花びらが散るころ、私もその命を共にし・・・
勝手に妄想していると、誰かに腕をつかまれた。
「え・・・」
目を開けると視界には綾尉。
バックは蝶の掛け軸がかかった百合の部屋。
そして百合は布団の上。
「私、死んでない!」
喜んだその時、
パッカーンと、綾尉に頭を叩かれた。
「何すんの・・・」
布団から起き上がると、綾尉はその小さい体を抱きしめた。
綾尉の髪が顔にかかる。
「!?」
百合の顔はたちまち真っ赤に。
「私がどれだけ心配したのかと思っているのだ!!」
「え・・・」
「燃える倉庫の中からそなたを助けたのは私なのだぞ!」
じゃあ最後に聞こえたあの声は綾尉・・・
(けっこういいとこあるんだ・・・)
百合は抱きしめられながらそう思った。
最初のあの性格が悪い綾尉とは別人だ。
「夢津美もそなたをたいそう心配しておったぞ。」
夢津美・・・助かったんだ!
「とにかく今回のことは私が片付けておく。」
綾尉は百合を静かに放す。
「百合・・・まずはゆっくり休め。城は色々あるからな。」
綾尉の微笑に、百合の心臓は音を立てたのだった。
「フフ・・・あの口説き下手な綾尉様にしてはなかなかやるじゃない。相当心配だったのね、百合様が・・・」
夢津美は障子の外でクスリと笑う。
それは、赤い夕日が城を照らす夕暮れの出来事。
百合と綾尉の距離が少しちぢまりました。
いやあめでたいめでたい!(のか?)
ん?まてよ、もうネタがない。
作者、チーン・・・ダメじゃん・・・