狩り時は切なく
「う〜ん・・・」
百合は渡り廊下に立って大きく背伸びをした。
いよいよ城での生活、一日目の朝だ。
城の朝は気持ちがいい。まぶしく輝く朝日、キラキラと光る庭の池の水面。
そしてなにより父上の怒鳴り声を浴びなくてもいいからだ。
「あら、百合様もうお目覚めですか?」
振り返ると夢津美がいた。夢津美は百合に使える女中だ。
今日もあいかわらずニコニコと『平和オーラ』を出しまくっている。その両手には木箱を抱えていた。
「あれ?その大きな箱はなんですか?」
不思議に思った百合は、夢津美がかかえている木箱を指さした。
「この木箱でございますか? なんでもこの箱は女中のお凛様が百合様にわたすようにと・・・」
「ふーん・・・なんか妙ね、こんなでっかい箱に・・・」
そう言いながらも木箱を受け取る。
「一度あけてみてはいかがですか?」
夢津美がそういったので、百合は、
「そうね」
と言って木箱に手をかけた。
「あ・・・あけるわよ・・・!」
「よ・・・よろしいですよ・・・!」
自然と二人の言葉が震える。
「ええいっ!!」
百合は思い切って箱を開けてみた。
「え・・・」
そこに入っていたのはカラフルな料理。
「何これ・・鯛のおかしらつきに白はん、海老のてんぷらに野菜の煮物・・・」
「お凛様はなんのためにこれを送ってきたんでしょうね?」
不思議そうな顔の夢津美の隣で、豪華な料理を見てゴクッとつばを飲み込む。
「一個食べちゃえ!」
海老のてんぷらを口の中にほうりこんだ。
「!!!!」
その場にうずくまる百合。
「ど・・・どうされたのです!? 百合様!!」
夢津美はあわてて百合の顔を覗き込む。
「か、からーい!!!」
「・・・へ!?」
夢津美の目が点になった。
「いいからほら! 食べてみて!」
百合に差し出された料理を夢津美はぱくりとほうばる。
「!!!!」
「ね!? そうなるでしょ!?」
夢津美は深呼吸をし、おちついてから一怒鳴り。
「ゆるせませーん!! 百合様にこんな料理をおくりつけて!!!」
「私、お凛のところに行ってくるわ!」
百合は険しい目つきで渡廊下をらんぼうに走った。
「あ、まってください、百合様〜!」
「あら、なにか音がするわね・・・」
髪をとかしながらお凛が呟く。
「音?」
由紀は首をかしげた。髪に飾られた簪が揺れる。
「ホラ、聞こえるでしょう?渡り廊下から・・・」
二人は耳をかたむける。
『ドドドドドドド』
「本当ね・・」
『バンッ!』
由紀が呟くのと同時に障子が開いた。
「お凛殿!どういうつもり!?」
「こんな料理を百合様によこして・・・!」
箱をもった二人はお凛にくってかかった。
「フン、まんまとひっかかって、バカね・・・」
「え!?」
その時、なにかが百合の横を風のように通りぬけた。
「うっ・・・」
夢津美がドサリと床に倒れこむ。
「な、なんてことを!」
百合の横を通りぬけたのは由紀の握り拳だった。
「じゃまものは、始末するまでよ。」
にぶい音がした。お凛が刀をぬいたのだ。
「!!」
刀が百合に向かって振りおろされる。
百合が立っていた後ろの障子が破れた。
「仕留めたか?」
しかし、百合はその場にいない。
「ど、どこに消えた!?」
次の瞬間、フワッと百合が慌てるお凛の横に舞い降りた。
百合は宙を舞っていたのである。今まで撒とやっていた『戦ゴッコ』で身に着けた技だ。
「ここよ。」
そういうと百合はお凛の手をたたき、刀を床に落とす。
「くっ・・・!」
お凛はくやしさに満ち溢れた顔で後ろの戸を振り返った。
すると、数人の女中が出てきて百合をはがいじめにする。
「あ、あんたたちなにすんのよ!」
百合は必死に抵抗したが、腹にこぶしを入れられ意識を失ったのである。
「こ、ここはどこ!?」
目が覚めた時、百合はカビが生えたたうす暗い倉庫の中にいた。
かびくさい臭いが百合の鼻を包み込む。
「・・・っ!」
ふいに、お凛の声が響く。
「ここは今は使われていない倉庫よ。だれも助けになんかこないんだからね!」
「え・・・まさか私、とじこめられた!?」
百合はあせった。出口などどこにもない。
「さようなら、おろかな姫君さん!」
お凛はそう言うと、遠ざかっていってしまう。
「あ・・・ちょっ、ウソでしょ!?」
一人のこされた百合は思いっきり叫んだ。
「誰か助けて――っ!!」
しかし、その声はさびれた木にすいこまれ、外に聞こえることはない。
倉庫の中で、百合はガックリと膝をついた。
百合、いきなりピンチです。
若いのに大変だなぁ・・・(遠い目)