城の中で交差するキモチ
やっと百合が綾尉と会うことに・・・!
「百合様の、おなーりー!」
たくさんの人々が百合に向かっていっせいに頭を下げた。
「・・・・・・。」
こういう場合って一体どうしたらいいんでしょうか・・・
「百合様! なにをぼーっとしておられるのですか! はやくこっちへ!!」
一人の女中が厳しい目で百合を睨む。
まったく・・・これだから城は苦手だ・・・
女中に案内されてやってきたのは、城の中にある大広間だった。
たくさんの視線を感じながらも百合は大広間の中央に腰を下ろす。
「では、綾尉様のおなーりー!」
おっといけない。綾尉様との初対面なんだからもっとにこやかにしてないと・・・
やっぱ第一印象は大事よね!
百合はメチャクチャ無理やり笑顔を浮かべる。
顔の筋肉が痛い。
と、ムダな行為をしまくっていると、一人のハデな着物を着た男の人がやってきた。
(あれが綾尉様・・・)
綾尉がゆっくりとこちらを向く。
百合は目を見開いた。
(おおおおっ!な・・・なかなかの人じゃないの・・・!)
百合の頭の中に一輪の花が咲いた。
意志の強そうなキッとした目。ほっそりとした顔立ち。つややかな唇。
綾尉は今でいう『イケメン』だ。
(あ、でも城に行く途中に会った蒼様のほうが・・・)
思いかけて、百合はハッとした。
(いけないいけない、私は綾尉様の正室になるんだから!)
そう言って百合は首を横に振りまくる。他人から見るとかなり変な奴だろう。
その時だった。
「綾尉様につかえる蒼でございます・・・」
一人の青年がゆっくりと頭を下げる。
その青年を見て百合の目玉は三十センチ先まで飛び出した
(あ・・・蒼様・・・!!!)
そこにはまぎれもなく城に行く途中に出会った蒼がいた。
(綾尉様に仕えるんだ!やったー!)
そう思って百合はまた、
(いかんいかん・・私は綾尉様の妻・・)
と心の中で無理やり自分をおちつかせた。
そして、紹介は進む。
「私は百合様につかえる夢津美でございます。よろしくお願いします。」
百合のすぐそばで感じのよさそうな女中が頭を下げた。
(この人が私につかえるんだ・・・)
ふっくらとした体の夢津美はどことなくお千と似ている。
その夢津美を最後に、紹介は終了。
「では、紹介がすんだので私どもはこれで・・・」
蒼がそう言のを合図に、辺りにいた人々はぞろぞろと部屋を出て行く。
「あ・・・ちょっと・・・」
人々のどさくさにまぎれ百合は蒼に話かけた。
「なんですか?」
蒼は視線だけで百合を見る。
「あの・・・私のこと覚えてます!?」
百合は顔面真っ赤だ。
ところが、返ってきた返事は以外なものだった。
「?へんなこというんじゃありません、百合様に会ったのは初めてです。」
蒼はさっさ部屋を出て行ってしまう。
「・・・」
百合はその場に固まった。半分放心状態で。
「はじ・・・め・・・て・・・?」
見間違えるわけがない。あれはまぎれもなく蒼だったのに。
(ひょっとして、双子とか?)
そう考え、数秒後百合は気づいた。この部屋に綾尉がいたことを。
(・・・き・・・気まずい・・・)
その視線はたしかに百合をとらえていた。
(こ、ここは人間の基本、あいさつしかないっ!)
百合の瞳に炎がともる。
「あ・・・あの・・・綾尉様、これからよろしくおねがいします・・・」
とりあえず百合は頭を下げた。
だが、
「ヘッ、いいこぶってんじゃねえぞ!」
綾尉は顔に似つかず暴言をとばしまくる。
「・・・・・・。」
百合はなにが起こったのか分からなかった。
だが、すぐに正気に戻る。
「な・・・なんだとぉ!!!! てめぇそれでも将軍の息子かあぁ!! あん!?」
綾尉の数百倍ある声でどなりまくったのだった。
そして、その夜のこと。
「ねえ・・・あの新しく入った百合ってヤツむかつかない?」
「そうそう・・・綾尉様の正室のくせに蒼様になれなれしいし・・・」
数人の女中の影が不気味な月明かりに照らされて浮かび上がる。
「少し、痛い目にあわないとわからないようね・・・」
深い闇の中で、数人の女中がニヤッと笑った。