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出会いに心は揺らぐ

辺りは、一面の星空。

『すご・・・』

『ここは最近見つけた絶好のスポットなんだ!』

『最後に姉さんと見られてよかった・・・』

『バカ!男なら泣くな!』


「・・り・・」

誰・・・?

「・・・ゆ・・・・り・・」

誰!? 誰なの――!?


「百合様!!」

ハッ、として我に帰った。

さっきのは夢・・・?


「大事ありませんか!?うなされていましたけど・・・?」

「え、ええ・・・平気です・・・」

百合は籠の外から心配そうに覗くけむくじゃらの男(なにげに失礼)に告げた。


(そうだ・・今私は城に向かう途中・・)

辺りは山々に囲まれた道。鳥の鳴き声がはっきりと聞こえる。


そう思い、気がついた。目の下がうっすらと濡れているのを。

(私、もしかして泣いてた!?)

それに気づいた百合は自然と顔が赤くなる。

(こ・・・こんなのただのあくびで目がうるんだだけよ!)

百合はそう思い込み、自分をおちつかせた。

(でも・・・)

眉にしわをよせる。

(私はもう家に帰れないんだ・・・綾尉様の正室になるんだ・・・)

そう思うとなんだか目がしらが熱くなってくる。

「・・・っ!」


「百合様、見えましたよお城が!」

急に男が顔を出した。声がやたらとはずんでいる。


「わわわっ!」

涙はあっさり引っ込んだ・・・

「少し、休憩といたしましょうか?」

「は・・はい!」


百合はせまい籠の中から抜け出し、外の空気を胸いっぱいに吸い込む。

視界に入るのはのどかな森で、農民達がときおり通りかかる。

もう屋敷がある『松重』地方からはだいぶ離れたようだ。


「ふ〜やっぱり外は気持ちいな〜」

どっこらしょっと、百合はそばにある岩に腰をおろした。


そしてまたしても百合が鼻歌を歌っていると、

『ズルッ』

と、いう低い音が・・・

「ま・・・まさか・・・また・・・」

百合の予想は当たっていた。

上半身がかたむき、視界がぶれる。


「これはま〜た〜して〜もおちてる〜」

作曲、作詞、百合。またしてもおちてるの歌。

(今度こそ死ぬっ!!)

と、百合がかたく目を閉じた時だった。

何かが百合の体をやさしくつつみこむ。それは生まれた時から知っているような心地よさ。

「!?」

おそるおそる目を開けると・・・

「大丈夫?」

そこには一人の青年の顔があった。


「へ?」

百合は一瞬なにがおきたのか分からない。

目をパチパチさせる百合に、青年は微笑んだ。

「それにしてもびっくりした・・・なにげに空を見上げたら君があそこの高いガケから降ってきたから・・・」

(そ、そうか・・・私ガケからおっこちて・・・)


すべてを理解したら、改めて青年の顔をまじまじと見てみた。

青い瞳と、風になびく髪、すっきりした頬と、とがった鼻。

こんなに整った顔はほかに見たことがない。

ふとあることに百合は気がついた。

(ひょっとして私、今・・・抱きしめられてる!?)

それに気づいた百合は顔がみるみる真っ赤になった。自然と心拍数も上がる。


「ん、どうした。顔が赤いぞ?」

青年は笑いながらそう言うと、百合の体をポンと放した。笑顔も殺人的な美しさだ。


「百合様ー!?大丈夫ですかー!?」

途端に数人の護衛が走ってくる。それを横目で見た青年は踵を返す。

「じゃあ僕はいくよ、気をつけてね。」

彼はそう言い残すと歩き出した。


「あ・・・あのっ・・・あなたの名前は!?」

百合はうろたえながらも聞く。みごとにカミカミだ。

「僕?僕の名前はそう。」

蒼は少し不審そうに答えた。

「蒼・・・様・・・」

キュッと両手を握り締める。そんな百合に護衛達は声をかけた。

「百合様、心配したのですよ!?籠にもどりましょう!」

だが護衛達の声はとどいていない。

「蒼様・・・」

マンガなら百合の目はハート型になっているだろう。


そして籠に揺られている時も百合はずっと、

「蒼様・・・私の蒼様・・・!!」

と、呟いていた。


「ぐぶぶぶぶぶぶぶぶぶ・・・!」

「なあ・・・百合様大丈夫か・・・?」

「さあ・・・落ちたときに変なトコでもうったんじゃないか?」

外で籠を運ぶ護衛たちがささやく。


だが、百合がうかれていられるのもそこまでだ。

城は目と鼻の先。

目の前には鬼のように大きな城が、百合を飲み込もうとまちうけている。


「これが・・・城・・・」

表情を変えた百合は聞こえないような小声でそう呟く。


いよいよ――この時が来た。
















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