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星空の下で思いは結ばれ

「どどどどうううういいいいううううこここことととと!?」

百合は混乱しまくった。頭は花火大会を通り越してダイナマイト並だ。


「さっき言ったとおりじゃ。百合を将軍様の息子、綾尉様の妻にすると。」

佐門は、ハッハッハッと笑った。

「たのまれたのじゃよ。そちの身内に良いやつはおらぬかと、

将軍様にな。そしたらたまたま百合に行き着いたのじゃ。」

佐門は、たまたまというところをやけに強調した。

(たまたまですって!? そんなもんで私の人生くるわすんじゃないわよ!!)

泣きたい気分だ・・・


さらに、おいうちをかけるように父上が身を乗り出す。

「で・・・嫁入りの日はいつなのですか!?」

(父上までーっ!私、嫁入りするなんて一言も言ってないじゃない!)

百合は今、バクハツする気持ちをなんとかおさえつつ、ざぶとんの上に

座っている。


「嫁入りの日は・・・一ヶ月後じゃ!」

扇を振り回す佐門。コイツ大丈夫か?


だが、この一言がきめてとなり、

「あらあらまあまあ!すぐに嫁入りの準備をしなくては!」

「嫁入り道具の準備からだ!」

と、百合をほったらかしにして、父上とお千はあわただしく部屋を出て行ってしまう。

「ちよっ・・・私嫁入りなんてしない・・・」

百合は講義したが、父上に、

『んなもん知るか!おまえは嫁入りするんだ!いいか!?』

という目つきでにらまれ、何も言えなくなった。

一人残った佐門も、

「城でまっておるからな!」

と、言って百合の頭をなで、部屋を出て行った。

こうして百合は、自己中心的な家族におされ、

ムリヤリ嫁入りするハメになったのだ。


「・・・最悪」

誰もいない部屋で、百合はポツリとつぶやいた。




嫁入り前夜の日。

「どうした?暗い顔して」

一人の少年が家の門の前でうずくまっている百合に声をかける。

辺りは夕暮れ。烏の鳴き声が寂しげに聞こえる。

さん・・・」

撒と呼ばれた少年はにっこりと微笑んだ。顔立ちはまだ幼い。

ゆっくりと百合の隣に座る。

百合は口を開いた。

「私・・・将軍様の息子の綾尉様に嫁入りすることになったの・・・」

「へ・・・? へええええええええええっ!? ね・・姉さんが・・!?」

撒は、やたらめったら『え』を連発した。

「しーっ!大声ださないで!」

百合は撒の口をふさぐ。

「ご、ごめん姉さん・・・」


撒は百合より四つ下で侍と、けして高くない家柄の息子だった。

昔から気の合う百合の弟的存在で、撒は百合のことを

『姉さん』

と、呼んでしたい、尊敬している。


「じ、じゃあ姉さんこの土地をでてかなきゃいけないんじゃ・・・」

「そうよ。明日、この屋敷を出に別れを告げなきゃいけないの。」

そう言って百合は顔をふせた。

「・・・。」

それをだまって見つめている撒。


ふいに、撒は思い出したように手を打った。

「じゃあさ・・姉さん、ついてきて!」

立ち上がった撒は百合の手を強くぐいっとひっぱる。いつのまにこんな力強くなったんだろうか。

「?」

百合はぐいぐいひっぱられて、もうすっかり暗くなった森を歩いた。

夜風が頬をなで、消えていく。どこか不気味さを漂わせた。


「ち・・・ちょっと、屋敷からずいぶんはなれてるわよ!?」

「へーきへーき、もうすぐだ!」

葉っぱをおしのけて出た先は、屋敷から見える小高い丘のてっぺん。

「・・・・・・!!」

そこは一面の星空だった。

キラキラと光輝く宝石のような星が、空一面にちらばっている。

「すご・・・」

百合は星空を見上げてつぶやく。

「ここは最近見つけた絶好のスポットなんだ!」

撒はそういってニカッと笑った。

「最後に姉さんと見られてよかった・・・」

そう言う撒の目にはうっすらと涙がうかんでいる。

それに気づいた百合は、

「バカ!」

と、言って撒の頭をぽこっとなぐった。真剣な瞳だ。

「男なら泣くな!」

百合にそう言われた撒は、無理やりいつもの笑顔をうかべる。


だが、帰る途中、百合の頬をうっすらと涙がつたっていたのを、

撒はまったく気づいていなかった。



翌朝、百合をのせた小さなかごは、

ひっそりと家を出て行ったのである。






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