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琥珀の月は闇夜に飲まれ

畑や田に囲まれて聳え立つ立派な屋敷。

その屋敷の頑丈そうな門に向かって大きく息を吸う。

三泊の間ののち、

「たのも―――っ!!」

百合の大声が辺りにエコーする。その大声は門をも突き抜け、屋敷の中の人々までもが反応した。

何かちがう、絶対何かちがう、と思いつつも護衛の男達は百合に声をかけた。

「百合様、我々がお供できるのもここまででございます。後は百合様の無事を祈ります。」

「え・・帰っちゃうの?何だかさびしいわね。」

内心、『早く別れてぇ!!』と思っていた護衛たちは顔の筋肉を無理やり引きつらせる。

「いえいえ。それでは、頑張ってください。」

護衛たちはなぜか猛スピードで帰っていく。いや、もはや逃げているといってもいいだろう。

「???」

猛スピードで帰っていく原因が自分にあるとも知らず、百合は首をかしげる。


そして、その直後のことだった。ゆっくりと屋敷の門が開いたのは。

『ギギギギィ・・・』という音をたて、門から現れたのは一人の若い男。綾尉と同年代ぐらいだろう。

一瞬、とまどったが、すぐにあいさつをする。

「こんにちは。私はここの屋敷の新しい女中、百合と申します。」

自分の中ではパーフェクトな笑顔だ。

すると、男はそれにつづいてニッコリと暖かい微笑を浮かべた。笑うとなかなかの顔立ちである。

「百合さんですね。こんにちは。僕はこの屋敷の主の息子、伺龍しりゅうです―――」

『ドッカーン!!!』

「!?」

次の瞬間、伺龍は門の段差につまづき、みごとに顔面から地面に落ちた。

(な、何かしらこの人・・初対面でいきなり地球と仲良くなったケド・・)

事態を飲み込めていない百合は、ゆっくりと立ち上がる伺龍をぼうぜんと見ている。

「あ・・・あの・・・大丈夫?」

「いえいえ、いつもからこんな調子なので・・・」


訳が分からない。『この屋敷の主の息子』ということは『藩主の息子』ということだろう。けれどなぜこんな人が門番になっていてあげくに地球と仲良くなっているのか。

「あ・・・あなたはお父様のそばで仕えているんじゃないの?何でこんな家臣みたいなことを・・」

その質問をきいた伺龍の顔が曇る。

「いいんですよ。お父様は兄上ばかり気にかけていて、僕のことはちっともなんですから。」

「兄上・・?」

「僕より五つ上のれん兄上のことです。」

この時百合の頭の中はフル回転中だった。伺龍の兄上が藩主に仕えているのなら、横流しにもその兄上が関わっているのだろうと。

(こんなにあっさり情報が入るとはね・・・)

気づかれないように拳を握りしめる。伺龍は何かを振り払うように顔を上げた。

「百合さん、まずは父上に挨拶に行きましょう。さあ、こちらへ。」

荷物を持ってくれる。百合がありがとうと言いかけた時、彼はまたしても段差につまずき、地球と仲良くなったのだった。




百合はまず城といい勝負ほどの長い渡り廊下を歩かされた。

ギシギシときしむ古びた廊下を踏みしめながら、藩主の元へ。

ちなみにこの廊下を渡っていた間に伺龍は23回もコケていた・・・

(伺龍のドジ度は底なしね・・)

あきれてそう心の中で呟いたと同時に、見るからに立派な障子の前に到着する。

「ここは客人などを通す部屋です。さあ、どうぞ。」

小声で呟き、伺龍は障子を開けた。

その途端、視界を煙が覆う。

煙の出所を目で追うと、藩主らしき男のパイプに。

(あああああきれたぁっ!何て奴なの、客人の前で平気で煙管を吸うなんてぇっ!)

怒りのこもった足をドォンと畳に叩きつけ、歩を進める。

そんな百合を見て、藩主の隣に正座している数人の女中がヒソヒソと話し始めた。

どうせ品がない、などという内容だろう。

さすがの藩主もピクッと太い眉を上げる。

「お初にお目にかかりますっ。百合と申しますっ!」

かなり乱暴に頭を下げた。藩主の後ろに座っていた青年が立ち上がる。

「おぬし、藩主である我が父上に向かってなんたる無礼な!」

しかし、怒られても冷静に百合は頭を働かせた。

(今あの人、藩主である我が父上にって言ったということは、あの人が伺龍の兄上の聯さんってことね。)

なるほどよく見れば伺龍と顔立ちがよく似ていて整っている。


ふいに、分析している百合に向かって藩主が声をかけた。

「百合とやら、自分の身分をわきまえろ。素直に私に頭を下げるのだ。」

その言葉を聞いた百合のこめかみに青筋が浮かんだ。グッと拳を握り締める。

「お言葉ながら、民一人さえ守れない藩主様にそう言われる筋合いはございません。」

その場の空気が凍った。伺龍は百合の後ろでオロオロする。

「・・・んだと」

その呟きは微かなものだったが、百合の耳にははっきりと届いた。

『バン!!』

急に藩主が扇を畳にたたきつけた。女中達がビクッと肩を震わせる。

「良いか、今日からお前は女子寮ではなく、男子寮で寝泊りしろ!伺龍、連れて行け。」

「は・・はいっ!」

一瞬にして笑いに包まれた部屋を、伺龍と百合は荒々しく出ていった。(とくに百合)



「あ~もぉ~ムカツクっ!!」

夜、布団をしきながら百合は叫んだ。隣にはもう一つ布団が。

「気をおとさずに・・・あれは父上の性格ですし・・・」

伺龍はニッコリと笑ったが、百合の怒りは収まらない。

「何が『男子寮で寝泊りしろ』よ!バカ藩主!!私は女よぉ―――っ!!!」

そう。藩主の言葉のせいで、百合は二人一部屋の男子寮で泊まることになってしまった。しかも相手はよりによって伺龍。

今にも炎を乱射しそうな百合に伺龍はなすすべもない。

「ちょっとそこらへんの石を壁にぶつけてくるわっ!」

仕返しが低レベルすぎるだろ。と思ったが伺龍は無言だった。

障子がものすごい勢いで閉まる。

百合はドタドタと暗い渡り廊下を駆け抜けた。両手にはたくさんの小石が・・・

「どこよ、藩主の部屋はっ!!」

捜索していると、一つだけ明かりの灯っている部屋が。百合は無意識にその部屋に接近する。

壁に耳をあてると、話し声がした。青年の声と、低い男の声。


「・・・これが今月の分でございます。」

「うむ。ご苦労だった。聯よ。」

チャリンと、何かが落ちる音。あの音は―――小判!

自然と百合の頬を汗がつたる。これは、もしや――

「外部の輩にバレないようにしろ。梔子藩主が横流しなど、一発で斬首だからな。」

「!!!」

綾尉の言う通り、横流しは本当に行われていた。

次の瞬間、百合は我を忘れ、夢中で闇夜の廊下を駆け抜ける。


月が雲に隠れ、闇はいっそう濃くなっていた。



このごろ綾尉たちの出番がめっきりありません。

何とかして出したいのですが・・・

もう佐門とかも扱いがひどくなってきています。

私自身、本気で「あれ、こんな奴いたっけ?」と思いました。

がんばれ佐門!生きろ佐門!

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