檜皮の乱 三
フ、フゥ~何とか書けました。
次の話でようやく乱は終わる予定です。
あと少しお付き合い願います・・・
百合と夢津美が戦闘態勢に入ってから数時間後――――。
辺りを走っていた女中の動きが慌しくなってきた。
「・・・これは、何かあったわね・・・」
百合は動き回る女中たちを険しい目つきで追いながらつぶやく。
すると、案の定女中の一人が泣きそうな顔をして飛び込んできた。
「ゆ、百合様!た、大変でございます!!」
「どうしたの、一体・・・」
百合は青い顔の女中をせかした。
「そ、それが、二の丸に火がぁっ!!」
「なんですってぇ!?」
通常の城の内郭というのは、『本丸』『二の丸』『三の丸』『西の丸』『北の丸』『吹上』
の六つから成っている。
『本丸』は政務や儀式を行う場所。そして、『二の丸』というのは将軍の側室などが
隠居生活を送っている場所である。
ちなみに、百合たちが今いるのは大御所や将軍の世継の居住空間
などが存在する『西の丸』にあたる。
「え、えぇっ、でも何で火が!?」
「それが、綾伽様の軍が炎のついた弓を射たご様子で・・!」
「中の人は無事なの!?」
「は、ハイ!全員避難したようで・・」
百合はそれを聞いてホッと胸をなでおろした。
しかし、おちついてはいられない。次期にここにも火が来るだろう。
「百合様!逃げてくだい!!」
夢津美もそれを察したようである。
「う、うんっ」
「私が何があっても百合様を守りますっ!」
「残念だけど、それはないよ。」
ふいにサラリと聞きなれた美しい声が響く。
驚いて振り向いた先には、蒼の姿があった。
「蒼っ!!何でココに?綾尉の所にいるんじゃ・・」
「そんなことより、今は逃げることが先です。さあ、私の後に。」
「で、でも夢津美が・・・」
「ああ。」
彼女なら心配ないよ。と蒼が後ろを指さす。
視線を向けるとそこには『一水入魂』と達筆な字で書かれたハチマキをした
夢津美がいた。
二の丸に向かって「ファイヤー!」と叫んでダッシュする。
どうやら消火活動をする気らしい・・・
「す、スゴイわね・・逆に火ぃあおりそう・・」
「さあ、百合様はやく。」
首をコクンとふると、蒼の後につづく。
渡り廊下に出て、外を見渡すともうすっかり日はかたむいていた。
そして何よりもいくつもの火が上がっている。綾伽軍がつけた火に違いない。
ため息を一つつくと、百合はハッとした。
(よ、よく考えたら今蒼と二人っきり・・・)
それは、非常に気まずい。
ここに佐門一人でもいれば、会話が和むのに・・
百合は生まれて初めて、佐門の存在のありがたみを感じた。
何か会話をしなくては・・・
そこで、百合は記憶をたどり、ずっと気になっていた『あること』を
思い切って聞くことにした。
「ね、ねぇ蒼・・・」
「何ですか」
「一つ聞いてもいい?」
「どうぞ。」
百合は拳を握りしめる。
「初めて私に会ったときのこと、覚えてる?」
「・・・。」
蒼は無言だ。
「たしか、城に来る途中の道で、崖から落ちた私を
助けてくれたのよね。」
蒼はじっとさぐるような目で百合を見つめている。
「で、あの後もう一回城で再開したとき、私は蒼にこう聞いた。
『あの・・私のことおぼえてます!?』って。」
百合の唇がわずかに震えた。
「でも、蒼は私の問いかけに『?へんなこというんじゃありません、
百合様に会ったのは初めてです。』って答えたわ。」
「・・・それが、何か?」
ギシギシと歩くたびに廊下の木の音が響く。
「その、知らないっていった理由を今、話してくれない?」
蒼が目を見開いた。同時に、歩みを止める。
「・・・初めて百合様に会ったときの私は、私ではなかったのです。」
「???」
百合の眉間にしわがよった。
「あの時、私は綾尉様ではなく別の人に仕えていました。
名前を『禮叉』と変えて。」
蒼が睫毛を伏せる。
「正確にいうと、私の本当の名前は『蒼』ではなく、『禮叉』です。」
「え・・・じゃあ何で名前を変えて・・・?」
蒼の目が開かれた。
「それは私が、綾尉様をさぐる隠密だからということを隠すため。」
「・・・え?」
「まだ分からないのですか?」
風が吹いた。蒼―――いや、禮叉の髪がなびく。
「私の主は綾尉ではない!綾伽様、ただ一人だ!!」
百合は状況を理解できなかった。
なぜ、彼はこんな恐ろしい目で睨んでいるのか。
いや、それよりも。
コノヒトハ、ダレ―――?
「今まで、お付き合いありがとう。少し無礼をお許しください。」
蒼が指をパチンと鳴らす。同時に、誰かが闇から現れた。
「あ・・・」
百合は、青い顔をおさえて二、三歩後ずさる。
「人質をやっと手にいれました。これで、勝利は我らの手に。綾伽様。」
何?今何がおこってるの・・・