檜皮の乱 二
日が、遠い山のかなたに沈もうとしていた。
周りをオレンジ色に染めながら、ゆっくりと。
綾伽は、立ち上がると遠くに見える城を見つめた。
その瞳は憎悪にみちている。
「綾伽様。」
綾伽は振りかえらなかった。声の主は大体予想がつく。
「准嗣・・どうだ。敵陣の様子は。」
もう、綾尉は兄弟ではない。自分にはむかうただの敵陣にすぎなかった。
「はい。現在、城は混乱におちいり、準備がととのっていません。
攻め込むなら今しかないと思われます。」
綾伽は、小さくため息をこぼした。
「・・・変わったな。」
「・・と、おっしゃいますと?」
准嗣が首をかしげるのが見えたような気がした。
「私だ。綾尉のことは、本当に大好きだったのに、今は―――憎い。」
夕日が、さらに輝いた気がした。
「・・・なんて、今さら言ってもしょうがない事だがな。」
「・・・。」
彼は、今夕日をどんな気持ちで見つめているのだろうか。
准嗣はなにも言わず、無言でその背中に視線を向けた。
☆
「・・・まさか、この檜皮の地で争いが起こるとはな。」
昔、この地に降り立った一人の僧侶がいた。
その僧侶は身分にかかわらず、さまざまな人々に学問を教え、親しまれてきた。
だが、ある日別の僧侶が、彼に嫉妬し無実の罪で処刑した。
その時の僧侶を染めた血が、檜皮色に見えたことから
この地は『檜皮』と呼ばれるようになったのだ。
そんな昔話を思いだしながら、綾尉は顔を上げた。
「一度起こってしまったことは変えられません。」
蒼は綾尉に鎧兜を差し出す。
綾尉は鎧兜と手に取ると、ゆっくりと身につける。
「・・・そろそろ、行くか。」
「はい。」
綾尉が立ち上がった時、佐門が障子を開いた。
「綾尉殿、出陣でございます。」
カチャカチャと、鎧兜を鳴らしながら綾尉は部屋を出る。
そして、蒼もそれに続こうとした時。
「おい、蒼、おぬし・・・」
佐門が蒼を呼び止めた。
「・・・何か?」
苦虫を噛み潰した顔で蒼が振り返る。
「あ、いや、な、何でもないわい!」
不審そうな視線を佐門にむけ、彼は部屋を出た。
「ね~夢津美、これマジ重いんですけどぉ~」
百合は着慣れない鎧兜をいや~な目で見ながらそう言った。
「百合様っ!言葉使いがなってません!」
夢津美は赤いハチマキ(?)を頭に巻いている。気合マンマンだ。
「いいですか。これから大変な大騒ぎが起こるのです!
すぐに逃げられるようにこんな格好をしているのですからね!!」
ピシャリと言われシュンとなる百合。
「じ、じゃあ、なんで乱が起こってから逃げるのよ。
今すぐに逃げればいいじゃない・・・」
「今逃げれば、綾伽様の軍に捕らえられて即刻てうちですっ!
乱が起こった混乱に混じれて逃げるしかないんですよ!?」
「あ・・う・・ご、ごめん・・・」
百合は思わず謝った。辺りは女中が動き回る音で騒がしい。
(本当に、乱が始まってしまうのね・・)
百合はこの時、胸をしめつけられるような刹那さを初めて感じた。
かがり火が勢いよく燃える。その周りには弓を持った男達が並ぶ。
「準備は整った。あとは・・・」
綾伽はすぐ近くまで接近した城を睨み上げた。
「あいつは、どう動くか―――。」
踵を返すと、息をたっぷり吸う。
「みなの者、ぞんぶんに暴れるが良い!火をつけるのだ!!」
大勢の人々の団結の声が響く。
「見せてやろうぞ、この綾伽の力を―――」
炎のついた弓が城に向かって一斉に放たれた。
な、なんかえらく前置きが長くなってしまいました。
えーと今回は二十話目なので、記念(?)にキャラにインタビューを
しようと思います。
作者「百合、今の感想は?」
百合「私、今回出番少なっ!何とかしてよ!!」
綾尉「なあ、そういえばこの乱って何で起こったんだっけ?(普通にスルー)」
綾伽「・・・父様が死んだのが原因だろ。遺言残さずに逝っちゃって・・」
亡き将軍サマ「ワシのせいにするでない!こんの親不孝者めっ!!」
全員「え~でも、本当のコトだし・・・(小声で)」