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朝日は真実を告げる

「まったく・・・人が眠ろうとしている時に・・・そんなに私をいじめたいわけ!?」

声の主に文句を言いながら百合は渡廊下をらんぼうにかけぬけた。

「何ですか、父上!?」

スパーンと、父上の部屋の障子を開ける。


「何ですか、じゃないわああ! すなおに起きてこんかあ!」

「なによ! 私はねえ、これ以上おきていたら死んじゃうのよおお!」

この状態で百合が死ぬことはまずない。


一怒鳴りして体力を使いはたした百合はざぶとんにしかめっつらで座る。

父上も百合の向かいに腰をおろした。

「いいか、よく聞け。今日はなんと・・・」

父上が真顔で口をひらく。


「佐門様がいらっしゃるのだ!」

数泊の沈黙。

「ええ!? おじいちゃんが!?」

百合は目を見開いた。


と、いうものの百合は佐門の顔をおぼえていない。

何せ最後に会ったのが十二年も前のことだったからだ。


「とにかくだ百合」

父上が一つ咳払い。

「今日は佐門様のいらっしゃる大切な日! 何をしに来られるかは知らんが、

百合の、そのみずぼらしい服とバクハツしたゴミのような髪を直さなくてはならん!」

父上の言葉がグサグサと刃物のように百合の心の中に突き刺さる。


「みずぼらしいってねえ・・・」

百合が怒りのあまり拳をにぎりしめると、

「さあ、百合様これにおきがえください!」

どこからかお千が現れると、甘い声で微笑む。

お千が手にしている物を見て百合はトリハダが立った。

それは赤い布地に真っ黄色なひまわりの花と、むらさき色のスミレがついた、

なんとも悪趣味なデザインの着物。

(こいつらにはセンスというものがないのかっ!!)

百合は心の中で絶叫しまくった。

(ここにいたら殺される・・)

そう思った百合は、無意識のうちに障子をあけて部屋をとびだす。

「まっ・・・またんか百合!」


「ったく・・・あんな着物だれが着るもんですか!」

父上とお千の『大捜索』をのがれて、庭の塀の上によじのぼった百合は、ふうっとため息をついた。

ふと、頭上を見つめる。

「あ〜空は青いな〜」

上の空で歌を口ずさんでいると、

『ツルッ』

という高い音がした。

百合はや〜な予感がした。ぐらっと重心がかたむく。

この間わずか二秒。


『ヒユウウウ』

耳鳴りが聞こえる。

「こ〜れ〜はかくじつ〜におちてる〜♪」

作曲、作詞、百合。おちてるの歌。

『バキッ!』

塀の上から無残に落下・・・完全なるバカである。


「いたたた・・・」

百合はうめいたが、その下からも、

「ううう・・・」

といううめき声がした。

「!?」

百合はびっくりして飛びのいた。

するとそこには、

『光る頭』『しわくちゃの顔』『たぶん人間』

というものがあおむけにころがっている。

(だれ!?)

本日心の中で二回目の絶叫。


「おお、佐門様! これはどうしたことか!」

父上が渡り廊下を小走りでやって来た。


へ?ちょっとまって・・・今、佐門様って言ったよね・・・

じ、じゃあこのしわくちゃのバケモノが私のおじいちゃん・・・

百合の頭の中で、

『理想のおじいちゃん』

の図がむざんにもくずれおちたのだった。


ガックリと肩を落としていると、

「また百合がなにかしよったな!?」

父上がするどい目で百合を睨みつけた。

「いやいや、いいんじゃよ、ひさしぶりに百合に会えたんじゃから。」

佐門は弱しい声だ。

体調が悪いのかと勘違いした父上はお千を振り返る。

「お千、お通ししなさい。」

お千はニッコリと笑った。普段とは違う笑顔だ。

「さあさあ、佐門様、どうぞこちらに!」

声も、いつもとは違う猫なで声。


「・・・。」

百合はさっきから感心しまくりだ。

(お祖父ちゃん《さもん》はここまでお千や父上を変えることができるのか・・さすが老中。)

何か違う気がするが・・・


父上の部屋についた佐門はドサドサと荷物をおろしはじめた。

百合、父上、お千の三人は、静かに腰を下ろす。


「で、今日は何用でこちらにまいったのですか、佐門様。」

父上はおちついた声で問いかけた。佐門がポリポリと頭をかく。

「今日はじゃな・・・百合のことでまいったのじゃ。」

サッと家族中(といっても二人だけだけど)の視線が百合にあつまる。

「へ?私?」

百合は自分を指差した。何の用だろう。

「将軍様からのご命令でな。」

その一言で百合の心の中は花火大会になった。

(た、たまや~かぎや~!)

将軍様が百合に直接命令するなど今まで一度もなかったことだからだ。

「な、なんと・・」

それは、普段冷静な父上でも表情を変えたほど。


「将軍様の子供、綾尉様は今十七歳。百合は十六歳。」

佐門のしたたかな言葉に自然と百合達は首を縦にふった。

「そこで・・・」

父上とお千がゴクッとつばをを飲む。


「百合を綾尉様の正室にしろ。」

「・・・・・・は!?」


頭の中が真っ白になった。








プチ設定で、『佐門はドライアイ』というものがありました。

ぜんっぜん関係ありませんが・・・。

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