檜皮の乱 一
なぜ、人々は繰り返すのか。
沢山の人が嘆き
沢山の人が泣き
沢山の人が死に
沢山の人が傷つく。
戦で富を得る物は誰もいない。
それを分かっていながらどうして・・・
頭の底で声がした。
「・・・百合・・・」
ゆっくりと瞼を開く。
「百合っ!」
視線いっぱいに綾尉の心配そうな顔がひろがった。
「・・・私・・・」
頭を抑えながら起き上がる。
「兄上の屋敷内で倒れていた。まったく、運ぶのに苦労したぞ。」
百合は頭を抑えていた手をはずすと、ゆっくりとそれを見つめる。
「ねぇ・・綾尉・・・」
「ん?」
「何で、人間は繰り返すのかしら・・」
綾尉は、予想しなかった質問に少し驚いた。
「・・・と、いうと?」
「・・・戦よ。誰も、何も富を得ることはない。それなのに、何でかなぁって。」
「・・・・。」
「・・・・。」
降り続く、雨音が聞こえる。
「・・・答えられぬ。だが・・・運命とでも言えばいいのか。」
綾尉は静かに立ち上がった。同時に障子が開く。
「失礼します。」
蒼が、正座した。
「ただ今、綾伽殿の軍が出発なさったという知らせが。至急、準備を。」
「・・・ああ、今行く。」
少しためらいがちに呟いた。
「ああ、そうだ百合。」
障子に手をかけたとき、綾尉は視線を百合にむける。
「・・・なに?」
綾尉は、かすかな微笑をうかべた。
「このゴタゴタが片付いたら、皆で花見をしよう。」
百合は少し驚く。だが、すぐに微笑んだ。
「ええ。楽しみにしているわ。」
かすかに百合に微笑みをかえした綾尉は、障子を閉める。
誰もいなくなった部屋で、百合は密かに声をあげて笑った。
「皆で花見か・・綾尉らしいわね・・」
この言葉こそが、綾尉にできる精一杯の口説き方だということも知らずに。
☆
広く長い渡り廊下。そこをゆっくりと歩く青年、蒼。
空を見るとパッとしない灰色をしており、相変わらず雨粒は降り注いでいた。
屋根からつたってきた水滴が蒼の髪を濡らす。
それを忌々しげに見つめると、ゆっくりと長い睫毛を伏せた。
「今の状況は?」
その言葉の三拍後に、庭園の方から雨に混じり低い声が響く。
「・・・現在、綾伽様は三百万人ほどの兵をつれ、城の近くまで接近中。」
蒼はわずかに眉間にしわをよせた。
「三百万?以外と少ないな。」
「少数ですが、どれも武術をかねそろえたつわもの。
下手な農民などより、よっぽどか腕がたちます。」
蒼は、降り注ぐ雨粒を見つめる。
わずかに口元を緩めた。
「それなら・・・まあよい。」
そして、ゆっくりと歩き出す。
「そなたも戦にそなえ準備をしておけ。甲賀忍者、准嗣よ。」
准嗣と呼ばれた男は、軽い返事をすると塀を飛び越え、遥かかなたへと消えた。
拳を握り締めた蒼は雨粒に向かって呟く。
「すべては、我が主、綾伽様のために―――――――。」
蒼が過ぎ去ると、物陰に隠れていた佐門は、密かに舌打ちをしたのだった。
な、なんかえらく暗くなってしまいました。
(これってたしかジャンルコメディーでしたよね!?)
でも、この乱が終わったら、もう少し明るくなる予定なので・・
しばしお付き合い願います。
次回、ついに乱の幕開け!さらに蒼にも異変が!?お楽しみに!!
と、勝手に盛り上がるアホな作者。ヒュルル~・・・