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天は黒く染まる

「も、申しあげます!」

将軍様が亡くなって八日後。

青い顔をした家臣の一人が綾尉の部屋の障子を開け、正座した。

「どうした。」

「大変でございます!綾伽様が、家臣を集め戦をはじめそうな勢いのこと!」

「なにっ!?」

その場にいた佐門、蒼、綾尉の三人は氷ついた。

「やはりそう来たか・・・」

綾尉が腕をくむ。

「話し合いによる解決はできそうか?」

「と、とんでもない!今にも出発しそうな勢いでございます!」

「そうなると、やはり戦しかないか・・・」

綾尉がつぶやいたとき、

「ちょっとまったぁぁぁ!」

どこから聞いていたのか、いきなり百合が現れた。

三人は、今度は別の意味で氷つく。

「百合・・・?」

「綾尉!戦だけはぜったいダメ!!」

百合はやたらと綾尉に接近する。

「で、でもそれしか・・・」

「うるさぁぁい!とにかく戦はダメなの!」

子供みたいにダダをこねる百合に綾尉は困り果てた。

「静まらんか!」

佐門の声に、辺りが波うったかのように静かになる。

「百合!ワガママを言うのもいい加減にしろ!」

怒られた百合は反撃に出る。

「なによ!戦になったら大勢の人が困るってことがわかんないの!?このハゲジジイ!」

「なにぃぃぃ!?」

二人はゼイゼイと荒い息をはいた。

「私は、戦で大切な人を失うところをもう見たくないの!」

「だ、だが・・・」

「もういいわよ!私一人で綾伽様を説得に行く!」

そう言うなり、百合は障子を開けて外に飛び出した。

「い・・いかん!百合――――っ!!!」



     ☆



百合はそばにつないであった馬に飛び乗ると、一里ほど先の綾伽の屋敷をめざす。

だが、少しずつあやしくなっていく雲行きを見て、百合はさらに馬を急がせる。

(戦なんてぜったいさせないんだから!!)

そして以外とすぐに屋敷へ到着。

そばの木に馬をつなぎ、屋敷の中へ入る。幸い今は作戦中なのかだれもいない。

しのび足で廊下を歩いていると、向こうから物音が聞こえた。

(だ、だれ!?)

「そこでコソコソしているのはだれです!姿をみせなさい!」

りんとした声とともに現れたのは、綾伽の妻の沙絵。

「わ、私です!百合です!」

知っている人が現れ、ホッとする百合。

ところが沙絵は百合を冷たい眼差しで睨みつけた。

「去りなさい。」

「・・・え?」

「去りなさいと言っているのが聞こえないのですか!!」

百合はそのきつさに驚いた。小雨が辺りに降りはじめる。

「り・・綾伽様にあわせてください!」

「たとえ百合様でも今は敵どおし。分かったらはやく去りなさい!人を呼びますよ。」

「イヤです!」

百合は沙絵をつかんだ。

「さわるな!」

『パアン!!』

頬をたたかれる。百合は庭に突き飛ばされた。

「次このようなことがあったら、私はあなたを殺しますよ。」

そう言い残し、沙絵は奥へ消えた。

「・・・。」

百合は一人で雨にうたれ、しゃがみこんでいた。

「な・・んで・・」

大粒の涙がこぼれ、雨と混ざりながら頬をつたる。

「いやぁぁぁぁっ!!」

百合の叫びは、雨音にかき消され、誰にも届くことはなかった。

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