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波にのまれる悲痛な叫び

色とりどりの料理が並び、あたりをいい香りがつつむ。

「夕食、ごちそうね!!」

百合は箸を持ちながら歓声をあげた。

「ゆっくり食べるがいいぞ。のどに詰まらせたら大変だ。」

綾尉は苦笑しながら百合を眺めた。

ふと、百合は鯛のさしみを食べながら辺りをふりかえる。

「どうした、百合。」

声をかけたのは百合の祖父の佐門。

「そうえば・・・夢津美知らない?みないんだけど・・・」


しばしの沈黙。

「蒼、知らぬか?」

「綾尉様が知らないのに私が知るわけないじゃないですか。」

綾尉の側近の蒼は苦い顔でつぶやいた

「外に散歩にでも出たんじゃないのか?」

「ううん・・・夢津美は夕食までにはいつも必ずもどってきてるもの・・・」

綾尉の言葉に百合は目をふせた。

「・・・・じっとしてるのも何だし、探しにいきましすか?」

蒼が立ち上がった時。

『ヒュン!!!』

「わあっ!?」

百合は三メーター先までふっとんだ。

「何だ今のは!!」

「矢です、綾尉様!」

蒼が畳にささった矢をぬく。どうやら、先に紙がくくりつけられているようだ。

「それにしても、何で矢が?まさか夢津美がもどってこないのと関係があるんじゃ・・」

百合の言葉にうながされるように、蒼は矢についている紙をひろげた。


『そなたたちの仲間はあずかった。帰してほしくば、百両もって海にくるべし。』

「・・・・。」

「・・・・。」

「・・・・。」

「・・・・。」


「ええええええええ―――――!!!まさかの拉致られちゃった系!?」

「百合、下田にて『え』を八回と・・・」

「エロじじい、メモるな!」

「いいじゃあ~んわしが昔からつけている『百合成長日記』に加えるのじゃ~♪」

「いつのまにそんなものを・・・っていうより今は夢津美が先でしょ!」

百合は綾尉をふりかえった。

「綾尉!いますぐ百両を・・・っていってもそんな大金あるわけないか・・・」


「は?なにを言っているのだ。そんな金額などたやすいぞ。」

綾尉の懐からバラバラと小判がちらばる。

「ああああんた、どんだけポケットマネー持ってんの!?うわぁ・・重っ!」

「百両では重すぎます。なので、最初の一、二両は本物であとは偽モノにしましょう。」

蒼の言葉に反対するものはだれもいなかった。



       ☆



「いいんですか?」

「何がだ。」

「この女の始末ですよ。われわれの密貿易がバレたのに・・」

男はフン、と鼻をならして、倒れた夢津美を視線だけで見た。


「この女は敵をおびきよせるエサにすぎん。殺すのは後だ。」

もう一人が首をかしげる。

「と、おっしゃいますと?」

「ここには、時期将軍候補が旅行に来ているというウワサだ。そしてこの女の立派な服装・・」

「もしかして、この女はその将軍候補の仲間とでも?」

男は夢津美に顔を近づけた。

「ああ、その確率は高い。きっと女中かなにかだろう。」

ニンマリ笑う。

「でも、なぜ百両よこせと?」

「金で貿易をもっと発展させるためだ。その後に事故死にみせかけ、皆殺しにする。」

「さすがはお代官様ですね~♪」

ふいに、男は小屋にかかった西洋式の時計に目をやる。

「・・・いくぞ。」

「えっ・・どこにですか?」

「そろそろ哀れな将軍候補の到着する時間だ。」


男は、そう言って冷たい笑みをうかべた。






「ここが海ねっ・・!」

「おまえは危ないからくるなといっただろう、百合!」

「そんなこといったって・・私だって夢津美が心配だもん!」


百合は金がはいった箱をつんだ綾尉にたてつく。そのバックには、沈む夕日に鮮やかな伊豆の海。

「それにしてもこの砂浜!歩きづらいわね~」

「シッ!」

急に蒼が、ひとさし指を唇にあてる。小声で百合に耳打ちした。

「だれか向こうからやってきます。」

いわれて視線をうつすとたしかに人影が数人見える。

綾尉は箱をおろし、数メートル離れると大声で叫んだ。

「金はおいていく!夢津美を帰せ!」

人影がちかづく。だが、夕方のうえ逆行なので顔はよく見えないが。


「・・・たしかにうけとった。」

低い、冷たい声だった。

「だが・・・」

その瞬間、男は何かを手にした。キラリと光るあれは・・・刀!!

「おまえらには死んでもらう!」

「くっ・・!」

突進してくる男たちにためらうように、綾尉たちも刀をぬく。

「百合様は、あそこのしげみにかくれて!」

蒼に言われるまま、百合はしげみに体ごとつっこむ。

『キィン!』

刀と刀がぶつかりあう金属音を合図に、乱闘が始まった。

時々、金属音にまじり男たちの叫び声が轟いたが、それも長くはつづかず再び辺りに静寂がもどる。


「百合、もう出てきてよいぞ。今蒼が夢津美を助けに行った。」

綾尉に言われ、おそるおそるでてみるとたくさんの男が浜にちらばっていた。

「これで、あとは夢津美をまつだけね・・・」

その瞬間、まだ意識のあった男が立ち上がり、百合めがけてとっしんする。

「百合、危ない!!!」

『ザシュッ!!』

ポタポタと血がたれた。しかし、その血は百合のものではなく―――

「おじいちゃん!!!」

百合をかばって刺された佐門が、体を折って倒れる。

「グッ・・・!」

「佐門殿!!」

「おじいちゃん!」

百合は夢中で佐門を抱きしめた。

「おじいちゃん!」

「佐門殿!」

「ウッ・・百・・合・・」

「いやああああ!!おじいちゃん!!」

「佐門!!」

「死んじゃだめ!!死なないでええええ!!!」


「・・・あ~つかれた♪」

佐門はむくりとおき上がる。

「・・・は?」

「佐門殿・・刺されたのでは?」

佐門は頭をかいた。

「ん~でも、あんまり深い傷でもないし・・・」

「じゃあどうしてこんな演技を・・」

百合の問いかけに佐門がにやける。

「いいじゃ~ん♪いっぺん百合に抱かれてみたかったも~ん♪」

百合と綾尉の中で、何かが切れた。


「こ・・この変体エロジジイィィィィィィィィィ!!!!」

佐門は二人のパンチをくらって、再びくずれおちた。

「百合様!あら?佐門様はどうなさって・・?」

帰ってきた夢津美は佐門を不思議そうに見る。

「夢津美!」


伊豆に、百合たちの笑い声が戻った。

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