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伊豆の空と夜風と海

14話と15話の間がものすごく空いてしまいました。

すみません、すみません・・・(謝り中)

弥生――――。

「は?温泉旅行!?」

綾尉は目を白黒させて叫んだ。

その綾尉の視線の先には、百合の祖父にあたる老中・佐門の姿。

「そうじゃ。綾尉様は時期将軍候補にあたるお方。

たまには、のんびりとお休みになられたらいかがかと・・」

「で、でも、百合が・・・」

綾尉の言葉を待っていたかのように、佐門の顔がデレッとにやける。

「だ、か、ら、百合も誘っていくんじゃよ。それとお付きの女中も数人・・」

綾尉は佐門の頭の中が手に取るように分かった。

(まったく年がいのないじいさんだ・・)


「そうですよ、綾尉様。最近なにかと苦労がたえないご様子なので・・・」

その時、部屋の障子が開き、綾尉に仕える蒼が入ってくる。

「う、うむ・・・」

もう一押し。

「それにじゃ、綾尉様!」

佐門の顔がアップに。これはかなりイヤだ。

「この温泉旅行は、百合との関係を深める数少ないチャンスなのですぞ!」

「はい?」

「私も早く跡継ぎの顔が見たいのじゃ!」

綾尉の頬がわずかに赤面する。

「そ、そんなこと言っても・・なあ蒼!」

「ハイ。わたくしもぜひ綾尉様のお子様を早く見てみたいものです。」

「・・・・・・・。」

敗者、綾尉。

まったく・・こいつらには勝てん・・・


     ☆


伊豆。

「海〜!!」

百合は宿から見える景色に向かって、感嘆の声を上げた。

「百合様、あまり身を乗り出すと浜辺に落ちますよ。」

その百合の隣で、女中の夢津美が苦笑しつつ答える。

でも、たしかにいい景色だ。銀色に光る砂浜、浅葱色の海、白い雲。

百合たちが泊まっている旅籠は、まさに絶景の景色が丸見えだ。

「そういえば、百合様は海を見るのは初めてでしたっけ?」

「うん。城に行く途中に海は通ったけど、寝てたから見てないの。」

はずんだ声で答える百合。


ふと、夢津美は手を顎にあてた。

「それにしても、なんで綾尉様は突然こんな旅行に・・」

「さあ?息抜きじゃない? それより、下田といえばやっぱり温泉でしょ!」

百合はそう言うと、桶や手ぬぐいをつかんで部屋の障子を開ける。

「フフ、やっぱり百合様はああいう元気な姿が一番ね・・」



百合と夢津美は露天風呂につかる。

「あったかい〜!」

「ホント、いい湯ですね〜」

聞こえるのは波の音と、風呂の水滴が落ちるチャポンという音のみだ。

「空は青いですね〜♪」

「うん〜♪」

二人は早くものぼせてきている。

その時、百合の視界を何かが横切った。

「え・・・」

「どうしたんです?百合様。」

「い、今、人の形をしたものが横切ったような・・・」

「人の形?」

その時、そばに生えている茂みから何かが飛び出す。

「ハッロォ〜♪」

「・・・・・・。」

百合と夢津美は何が起こっているのかわからなかった。


・・・・そこには、佐門が立っていた。

次の瞬間、

「うっぎゃああああああああああああああああああ!!!」

百合は、そこらに散らばっているおけやたらいを力任せに佐門に向かって投げつけた。

「痛・・いたたた・・・百合、ストップ・・」

「何がストップよぉぉぉ!!この変体エロじじい!!」

スコーン、と佐門の脳天に百合のたらいが決まる。その場に崩れ落ちる佐門。

「百合様、いいんですか・・?佐門様が・・」

「いいのよ夢津美!こんな変体じじいは湯船にしずんでればいいんだから!」

百合はそう言うと、佐門の後頭部をひっつかんで湯船の奥深くに沈めた。

「夢津美、もうわたしは温泉出るわ!」

百合が去って言った後、夢津美は佐門に向かって静かに両手を合わせたのだった。

「・・・ご愁傷様です。」


     ☆



夢津美は温泉を出た後、しばらく一人で夜の下田を散歩していた。

海の塩の匂いが夜風によって運ばれてくる。

「こうして月を見ながら夜風にひたるのも悪くないですね〜」

空には無数の星がきらめき、ときおり夢津美のそばを立派な籠が横切る。

(それにしても、さっきからわたしの横を通っている籠はどこの籠ですかね〜?)

夢津美はいやに立派だった籠を思い出して腕くみをした。

(海の方へ行ったけれど、何かあるんでしょうか?)

夢津美はつられるように海へと向かう。

(何だかあそこの砂浜に立っている小屋に入っていくけど・・)


行灯を照らして夢津美は中を覗き込む。けして立派とはいえない小屋だ。

『!?』

そこには夢津美の予想のつかなかった光景が広がっていた。

中には、三人の武士らしき人がいる。だが、服装がいやに立派だ。お奉行様かなにかか?

そしてもう一人、背の高い金髪の男、目が藍色だ。どうやら異人らしい。

でも、何かが変だ。

異人が武士にキラキラ光る球体を差し出す。どうやらギヤマンと呼ばれるものらしいが。

武士が異人に金をわたした。それも、小判が二、三、四・・・

夢津美は頭の中をすばやく整理する。

人気のない小屋の中・・異人さん・・立派な武士たち・・交換された金とギヤマン・・・


えーと、これってぶっちゃけ密貿易ですか・・・?

そう感じたとたん、背後で『スラリ』というめちゃくちゃやばい音がした。

「!!」

体の中が熱い・・・そしてすさまじい痛み。

夢津美の意識はそこで途切れた。

最後に聞いたのは、刀をさやにおさめる『カチャリ』という音だけ・・・





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