雨上がりは時に危険が潜む
いつまで何をチンタラ百合達はやっているんでしょうか。
書いてる作者さえ腹が立ちます・・・
「それにしてもおそいのぉ・・・百合は・・・」
綾尉はすっかり雨がやんだ、青々とした空を見つめて呟いた。
その細くて色白の指先には一つ、二つ、三つ、あふれんばかりのまんじゅうが、しっかりと握られている。
「あの、綾尉様、まずはまんじゅうをおいていただけませんか・・・?」
すかさず綾尉に仕えている蒼が皿を差し出す。
「・・・皿がよごれる。」
「・・・・・・」
蒼は皿を差し出した格好のまま、硬直した。
「ほれ」
「うひゃあ!」
その硬直した膝を、何者かがつん、とつつく。
「何するんですかぁ、佐門様! 今どきの年寄りが、膝かっくんなんてやることが暗すぎです!」
「だれが年寄りだと!?」
「あ、ハイ、すみません・・・」
だって、おまえ年寄りじゃん。という気持ちを必死におさえ、蒼は頭を下げた。
「で?何用でこちらに参った、佐門。」
綾尉がまんじゅうの粉がついた指先をなめる。
「あ、実はですのぉ・・・なにやら連続して人を殺めて、奉行所に引っ立てられたものが逃げ出し、この城付近をさまよっているらしいのじゃ。」
「ああ、最近さわがれている殺傷事件の下手人か。」
それがどうしたというように綾尉は青空を見つめる。
「で、百合が今、綾伽様をむかえにいっておるじゃろう、もし遭遇でもしたりしたら・・・」
「まさかぁ、そんな運の悪いこと、おこりませんって。」
蒼が笑う。
「それもそうじゃの。」
そう言って、男三人は笑った。平和だなぁ!
だが、三人とも百合が超不運の持ち主だということを知るのは、ずっと後になってからだった。
☆
雨がやんだ。
森に木漏れ日が降りそそぐ。
「どうやら、雨は上がったようね。」
百合は額に手をかざしながら空を見た。
「じゃあ早く出発しましょう。こんなところ、いつまでもいたくありませんわ。」
隣で仁王立ちしているのは、綾伽の妻、娑荏。
その娑荏をなだめるように、綾伽はニコリと微笑む。
「まあまあ、そうあせらず。この城の庭は広いから、ゆっくり行こう。」
「はい。綾伽様。」
でも綾伽の言うとおり、本当にこの庭は広い。見ると、はるか遠くに城が・・・
百合、ただいまのテンション2パーセント。
とりあえず、綾伽達とともに歩を進める。
しばらく歩いていると、急に視界が開けた。
見渡すような高原、ゆれる若葉、所々咲いている四季折々の花たち。
風が、吹いた。
百合の髪がなびく。
「す、すご・・・」
本当にここ、城の庭っスカ?
城すげぇな~財力あるな~
「綾伽様たち、見て・・・」
百合は後ろを振り返った。
だが、そこには綾伽たちの姿はなく、花が風になびくばかり。
「・・・・・・え?」
百合は、綾尉の言葉を思い出す。
『兄上はなあ、一秒でも目をはなすと視界から消えるのだ!!』
ザァ〜(血の気が抜ける音)
「し、しまったぁぁぁぁ!!!」
綾伽様ぁぁ!と、花をおしのける。
「ど、どこいっちゃったんだろ、ホントに・・・」
「綾伽様、これはもしや城の門では?」
娑荏は、目の前の鉄の扉を指差す。
「ん?そうだな。思ったよりも早く着いたな」
綾伽は、扉を開ける。
だが、その顔は曇っていた。
「あの、どうかなさったんですか?」
「い、いや、何か足りないな〜って」
「足りない?」
「や、気のせいか。荷物はあるし」
「そうですよ。」
綾伽は笑う。
バタン、と綾伽ご一行が中に入ると、城の扉が閉まった。
「ったくどこよ、綾伽様!」
息を切らす百合。
もうしばらくの間走っているが、人の気配はない。
「城に帰ったら、少しとっちめてやらなきゃ・・・」
すると、ふいに背後から物音がした。
綾伽様!?と、思い振り返る。
だがそこには・・・
「え・・・?」
やせこけた、一人の男が髪を振り乱して立っていた。
浪人?だろうか。身に着けているすべてのものがボロい。
「あ、あのぉ〜?あなたも迷子ですか?」
百合はおそるおそる声をかけてみた。
すると、相手は予想外の行動に出た。
『チャキ』
ん?なに今のニブイ音・・・
そしてその直後、なにかをこすり合わせるような音が、辺りを包む。
ま、まさかこれって・・・
一瞬、男に日がさした。
その懐には、キラリと光る・・・
「かたなぁぁぁぁぁぁ!?」
やっぱりじゃあさっきのは刀を抜く音・・・
と、百合が勝手に納得している間に、男はどんどん接近してくる。
「ちょ、まった、ザ、ストップ!!」
ぶっちゃけピンチなんじゃないかな?この状況。
えええい!とにかく逃げるっ!!
百合は猛ダッシュで走りだす。
だが、男は百合の後を巧みに追ってきていた。
(これは由々しき事態だな・・・)
そう察した百合は、近くの木に飛び乗る。葉がヒラリと舞った。
「ヘッ、ざまあみなさい!昔、寺子屋の先生から逃げまくっていた私には、
木に飛び乗るぐらいチョロイのよ!」
まったく自慢になっていない言葉を吐き捨てながら下を見下ろす。
見るとあの男はもういない。
「フン、どんなもんですか!」
そこまで言いかけて百合はハッとした。
なんか、後ろからミョ〜な気配が。
あわてて振り向くと、目の前が紅色にそまった。
同時に、焼けるような痛み。
「痛っ――!」
男の刀が百合の頬をかすったのだ。
ヤバい!早く逃げなきゃ!!
そう思ったが、百合は忘れていた。
ここは、木の上。
百合の上半身が傾く。
『!!!』
百合は、目を硬く閉じた。
(誰か――!)
☆
「まったく、やることが過激なんだよ、百合は。」
「だって、迎えに行けって言ったの、綾尉じゃん!」
百合は、綾尉のまんじゅうを奪い取った。
頬には、赤い傷。
「それにしても、百合を探して庭に出たら、いきなり木の上から降ってきたんだぞ!」
綾尉はしかめっ面でまんじゅうをほおばる。
「まあまあ、いいじゃないですか。百合様も無事に戻ってこられたし。」
夢津美が綾尉をなだめた。まるで子供のケンカに割って入った気分だ。
「まあ・・・な。おかげで噂の、殺傷事件の下手人も捕まったことだし。」
「でしょ!?大目に見なさいよ!!」
そこへ、障子を開けて入って来たのは、綾伽と娑荏。
「こら、綾尉、そこらで終わりにしておけ。」
「あ、兄上!」
娑荏も微笑む。
「そうですよ。もうすぐ桜の季節になりますから、ケンカはよして花見にでもいきましょうよ。」
「う、うむ・・・」
それを聞いた百合の目が輝く。
「お花見!?私、食べ物は三色団子がいいわ!!」
「まったく、食べ物のことしか考えてないヤツだな。」
呆れ顔をする綾尉。
城の中に笑い声が響く。
外では、桜の蕾が出番を待っているかのように開きかけていた。
やっと一段落つきました。(ホッ)