銀色の雨は心を濡らす
百合はすっかり小さくなった遠くの城を見つめ、呟いた。
「それにしても、どこまででかいのかしらね、この城は・・・」
さっきから百合は綾尉の兄の綾伽をさがすために、ひさびさに城内からぬけ出した。
だがかなりの時間歩いているのだが、いっこうに城の敷地内から出れないのだ。
それはよっぽどこの城が大きいことを物語らせる。
「ふう、休憩っと。」
百合は近くの石に腰をおろし、汗を拭った。
風が心地よい。
「ふ〜空は青いわねぇ〜 この分だとまず、雨は降らないでしょ・・・」
百合が空を見上げながら言った時だった。
はるかかなたから薄暗い雲が近づいてきたかと思うと、あっという間に空が黒い雲でおおいつくされる。
「こ、これは・・・」
百合の肩にしずくが落ちた。
『ポツ、ポツ』
空から雨粒が多数、降ってくる。
『ドザァ―――――――!!』
またたく間に雨は、土砂降りになった・・・。
「・・・・・・。」
百合はしばらく自分の運のなさに落ち込んでいたが、すぐに立ち直る。
「こうしちゃいられない! どこか雨宿りできるとこ――!」
手を頭の上にのせるという半分ムダな行為をしながらも、百合は小走りに急いだ。
と、しばらくするとなにやら前方に小屋が見えてくる。
「これは、馬小屋・・・?」
崩れかけてボロボロだが、形だけはしっかりしている。
「なんかアヤシイわね・・・まあいいか・・・」
おそるおそる馬小屋の扉を開け、中に入った。
『キィィ~』
「おじゃましま〜す・・・」
中は、一面が藁、藁、藁!
百合は自分が馬になった気分がし、情けなくなってくる。
と、いうか馬小屋に姫君がいること自体がミスマッチなのだ。
だが百合はとりあえず、腰をおろした。
辺りは雨粒が葉にあたっては落ちていく音だけが響いている。
百合はフゥ〜とため息をつく。
「それにしても、綾伽様はどこにいるのかね・・・」
「ここだよ。」
「!?」
ふいに、声のした方に視線をやる。
すると藁の中からもっそりと人が!
さすがの百合も、これにはド肝をぬいた。
「うっぎゃあああああああああああああああっ!!!」
「お、おちつけ・・」
「どっぎゃあああああああああああああああっ!!!」
百合は藁をつかみ、絶叫した。(変体)
「おちついてくださいまし!」
凛とした声で百合は我に返る。
振り返ったら、一人の女子と、男の人。
二人とも、服装がいやに立派だ。
その瞬間、百合はピンときた。
「もしかして、綾伽様!?」
男は偉そうに胸を張った。
「いかにも、私は綾尉だ。」
まじまじと見ると、イケメン。さすが綾尉様の兄上!
そしてその隣の女子は?
「あっ、もしかして綾伽様のすてきな奥様!?」
百合はあえて『すてきな』を入れる。
「気づくのがおそいようね。私は綾伽の奥方、娑荏。」
娑荏はそう言うと、フンと鼻をならした。
意志の強いその目は、百合とどことなく似た雰囲気を漂わせている。
「いや〜それにしても降ってきたね〜」
空気が読めていない綾伽は、ポリポリと頭をかいた。
「この分だと、しばらくやまないことよ。」
娑荏が腕をくむ。
「ハッそういえば・・・」
ふいに綾伽が百合を指さした。
「そなたはだれだ?そのみすぼらしい外見からすると・・農民か?」
「・・・・・・」
その時、百合は無事に城に帰れるかどうか心配になってきた。(無理もない)
だが、この直後に誰もが予想しない出来事がおこる。