松重の戦い 二
百合は信じられなかった。
小さいころからずっと一緒に遊んできた撒。
その撒が、戦場に行くなんて・・・
「撒!」
百合はガリガリに痩せている撒に声をかけた。
「ね・・・姉さん・・・?」
撒は弱々しく百合を見上げて呟く。
以前まではやる気に満ちあふれていた瞳は、その輝きを失っている。
「撒、どうして!? どうして戦場なんかにいくのよ!?」
百合は撒の肩をつかみながらわめく。
撒は顔をふせる。
「僕には、どうすることもできないんだよ・・・」
「・・・。」
突然おとずれる静寂。森の木々がサアッと音を立てた。
「もう、姉さんには関係のないことなんだ。ほっといてくれ・・」
ふいに、撒が百合の手を払いのける。
「そ、そんな・・・」
「集まれぇ――――!」
馬に乗った男の大声が響くと、撒は百合に見向きもせずに立ち去る。
「撒・・・なんで・・・」
残された百合は絶望的だった。
撒があんな態度をとるなんて。
戦争という者が、人の心をこんなに変えてしまうということがショックだった。
その場にしゃがみこむ。
「百合様、何をしているのです、着物が汚れますよ!」
すかさずお千の声がとぶ。
着物なんて、汚れたっていい。
「撒・・・」
溢れてくる涙。
「百合様!?」
お千が駆け寄ってきた。
慌てて涙をぬぐう。
「これから戦地に向かうもののそばにいては危険です。」
お千・・・もう、何も、何もわかってない。
だったら・・・だったらいっそ・・・
「お千!」
あまりの大声にお千が体を震わせる。
「な、なんです? 百合様・・・」
百合はキッと目をつり上げた。それは、決意を意味する。
「私も戦場にいくわ!」
「!!!」
一瞬、時が止まる。
「な、ならん! 百合!」
父上が飛び出す。
「どうしてよ!?」
「それだけはならんぞ!」
火花散る二人にお千はとまどう。
「いいか、百合。この世ではやっていいことといかんことがあるのだ。」
父上の迫力に押され、百合は黙り込んだ。
「とにかく家に入れ。」
百合は、しぶしぶ家の中に入った。
その夜。
父上とお千は、ぐっすりと眠っている。部屋の机には、和紙があった。
その和紙に書かれているのは、達筆な百合の字。
『撒に、会いにいきます。』
暗闇の山道を、一人の影が横切る。
時刻は、九ツ半。(午前一時)
夜なので、人の気配はまったくない。森は唸り声を上げていた。
「いたっ!」
百合は、石に足をとられて倒れこんだ。
そして、また起き上がる。
息が、とぎれとぎれになってくる。
それでも、百合は走り続けた。ある場所を頼りに。
そして、走り始めてしばらくたったころ。
遠くにぼんやりとした灯りが見えた。
大勢の人々が円になって座っているようだ。
その真ん中には炎。
進んでいるうちに目が慣れてきた。大将らしき人が、地図のような物を指さしている。
その中心に、百合はつっこんだ。
「まって!!」
たくさんの視線が百合に集まる。
ムリもない。戦の作戦中、少女が割り込んで来るなど前代未聞だ。
「な、なんだぁお前は!?」
地図を広げていた大男は立ち上がった。
「私も戦地につれていって!」
百合の言葉に、その場にいる人々は息をのんだ。
しばらくして、大男は馬鹿にしたような笑みをうかべた。
「へっ。悪ぃがよ、ここは女が来る場所じゃあねえんだよ!」
百合を思いっきり突き飛ばす。
「――っ!」
だが、百合はひるまなかった。
大男の肩をつかむ。
「お願い!」
「へっ・・・何度頼んでも同じ・・・」
大男の言葉が停止した。
百合はものすごい力で大男の肩をつかんでいる。
これも撒と遊んでいて身についた怪力だ。
「お・・・願い・・・!」
百合の爪が大男の肩にくいこむ。
「――――痛!」
大男は、百合を振り払う。
「勝手にしろ。」
百合の前に置かれる弓。
「!」
「ヘマはすんじゃねぇぞ。」
「は・・・はい!」
大男は、後ろを振り返った。
「皆の者いざ、出陣じゃあ!!」
人々は慌てて道具を背負うと歩きだした。戦地をただひたすらに目指して。
夜が明ける。
百合たちの軍は、山々に囲まれた戦場に到着していた。
そして、その軍の前方にはもう片方の敵の軍。
地を揺るがすような、陣太鼓の音が響き渡る。
「ゆけえ!!」
戦の幕開けだ。
百合は瞳をゆっくり閉じると、覚悟を決めた。
浅葱 ついに十話! 百合は城にはいないので 綾尉様にインタビューでーす!
綾尉様、なにか一言!
綾尉 あん? うっせえハゲ!
浅葱 ・・・・・・。