5話 侵入者
「姉貴、もういいよ。俺が囮になるからその隙に全員で逃げろよ。この傷じゃもう助からない」
と大けがをしている、金髪の男が喋る。
「ジャックしっかりしなさい、貴方をこんなところで死なせたりしない」
んん?
なんかやばそうな雰囲気だぞ。
「そうだぞ、こんなとこで終わるわけねえだろ。パーティーを結成した時に約束したよな?」
「そうさ、俺達はまだ諦めてないぜ。どんな時も決してあきらめない、仲間を見捨てないって約束だろ?」
「ドク、クロム、頼むよ、姉貴をリリアンヌを助けてやってくれ。このままじゃ本当に全滅だ」
こいつらきっと良い奴らだ。
助けよう。
俺は外の様子を見てみる。
外には、野良のコボルトが30匹ほどいた。
しかも臭いをかいで徐々に近づいてくる。
『全員聞け!今からこの人間4人を助ける。一人は重傷を負っている。外には30匹ほどの野良のコボルトがいる。ダンジョン内に引き込んで全員、殺せ』
『はっ』
俺はホムンクルススケルトンメイジに擬態し、なけなしのDPを使い魔術師のローブと、魔術師の杖を武具生成で生み出し、フードを深く被り4人に近づく。
俺は少し離れた所で小声で声をかける。
「おい、お前たちこっちだ」
「誰だ!?」
「こんなとこに人が!?」
とドクと呼ばれた男と、リリアンヌと呼ばれた女が言う。
「コボルトの餌になりたくなければ着いてこい。それとその男の止血に使え」
と、俺は薬草と包帯を渡す。
「どうする!?」
「どちらにしろ、俺達に選択肢なんかねえついて行こう」
「ダメだ、その人まで巻き込んじまう」
「今更もう遅いわ。着いて行きましょ」
順に、クロム、ドク、ジャック、リリアンヌ。
4人は俺の後ろから警戒をしながら、それでもゆっくりと着いてくる。
そして2階層の階段の近くまで来た時だった。
コボルト達がダンジョン内に侵入してきた。
「ワォーン」
と鳴き声と共に見つかってしまった。
「ちっ見つかったか!? 全員かかれ!」
すると隠れていたダンジョンの配下達が現れてコボルト達と戦闘になる。
数的にも装備的にもこちらが有利。
スライムはいつもの戦法で顔に落下しその隙にゴブリン達がコボルトに止めを刺していく。
ホムンクルススケルトンメイジはその魔法の火力で一気に何匹も焼き尽くしていく。
ホムンクルススケルトンはその匠な剣技で野良のコボルトが持つこん棒ごと敵を切り裂いて行く。
勝負は一瞬だった。
『コボルトを討伐しました、750ポイントの獲得です』
『コボルトの魔石を吸収しますか?』
『コボルトの体を吸収しますか?』
無機質な声が頭の中でこだまする。
これでDPは1,285ポイント。
もちろん吸収する。
それを見ていた4人は、
「まさか!?」
「ここはダンジョンなのか!?」
「ほら見ろ、やっぱりあの時に俺を見捨てていれば……」
「ジャック!黙って!」
順にクロム、ドク、ジャック、リリアンヌ。
「落ち着け4人とも!全て私の配下だ。君たちを襲ったりはしない!」
リリアンヌがジャックを庇うように前に出る。
「配下ですって。そういうあなたも人間ではないのでしょう!?」
クロム、ドク、リリアンヌが臨戦態勢に入る。
「なあ、あんたの望みはなんだ?」
と、ジャック。
「俺の望みだと?」
「そうだ。顔を見せてくれ」
俺は、観念してフードを取る。
「やっぱり、アンデッドか。なら、必要な人間は俺だけにしてくれないか。あんたはわざわざ、俺に止血用に薬草と包帯をくれた。何かの実験か何か知らないが生きてる人間が必要なんだろ?」
どうする!?
完全に勘違いされてる。
助けたのに、真の悪者扱いだよ!
事情を知っている配下達はこの勘違いを見てクスクスと笑いをこらえている。
「なら私が代わりに実験台にでもなんにでもなるわ!女の方が都合がいいこともあるでしょ!」
「いいや、お前たち姉弟ではだめだ、ここはパーティーでもタンク役をしている俺の方が頑丈だ!」
「馬鹿言うよ、ここは死にかけの人間より、女より、ただの頑丈な男でも駄目だ。普通の健康な人間の方があんたもいいはずだ」
だから勘違いなのに!?
ついに笑いを堪えられなかった1体が笑いだすと、配下全員が笑いだす。
「ぷぷっ‼助けたのに、マスターが悪役になってるでゴブ」
「マスターいつからアンデッドになってしまったんですか?フフフ」
「いやいや、それよりマスター。人間の実験って何ゴブか?ぷぷぷ」
くそっ‼ 配下のくせに好き勝手言いやがって!
「なっ!? モンスターが喋ってる!?」
「何なの!?」
「分けがわからん」
「どういう事だ!?」
ほら見ろ、4人とも啞然としているではないか。
「はあ、お前らの笑いのツボは分かったから。いい加減黙れ」
ピタっと笑いは止まった。
「4人とも、着いてこい。特に一番重症なお前、ジャックと呼ばれていたか。ちゃんとここで治療を受けろ。話しはそれからだ。誰か、不味い薬草茶でも4人に出してやれ。まずはこの4人が落ち着かんことには、話しもできん」
全く、恥ずかしすぎる。
やはり、人間には理解してもらいづらいな。
ジャックの治療がひと段落着いた所で、俺は4人が待つ2階層に向かう。
「4人とも落ち着けたか?」
「ええ、まだ少し頭が混乱してるけど」
と、マリアンヌ。
「まず、我々は人間と争うつもりない」
「しかし、貴方は、アンデットでは?」
「それは違う、話すのにこの姿が一番無難とおもったからだ」
「私の真の姿をみせよう」
そう言って、俺はダンジョンコアの姿になる。
「これが私の、まことの姿だ」
「ただの球体」
「これだと喋りづらかろう。だからあの姿になった」
そして俺は、もう一度ホムンクルススケルトンメイジの姿になった。
「ややこしい話しはもうなしだ、単刀直入にいうぞ、私は調味料が欲しい。できればそれ以外の具材もだ」
「「「「は」」」」
4人全員がハモった。
「おい例の物を食べさせてやれ」
4人ラッシュマッシュのこんがり焼いたものを食べさせる。
「これはラッシュマッシュ!?」
「うまい」
「これに塩をかけたら、もっとうまくなると思わないか?それに鍋にしても行けると思うんだ人間のお前たちならわかるだろ」
「閣下がそこまでこだわる理由はなんですか?」
「私も遥か昔は人間だったのだ。今はダンジョンコアとして生きているが、断じて悪党以外の人は殺めてはいない。それどころか、こうして人間と喋るなど、ダンジョンコアとしては初めてだ」
俺は熱く語り。
「これを配下達にも食べさせてやりたいのだ。まあ、しばらくここで休んでいけ。無理に動いてまたジャックの傷口が開いても困る」
「あなたを本当に信頼していいか迷っているわ。でも弟を助けてくれたことには感謝してるわ」
と、リリアンヌ。
「正直、俺も戸惑っているよ、まさかうまい飯が食いたいから人間と仲良くしようと考えてるモンスターがいるとは」
と、ジャック。
「そのおかげで命拾いしたろうが。少しは感謝して、早く傷を治して調味料を持ってこい」
「そのことだが、ここは辺境だ、俺達も依頼でたまたまここに来たんだ。そして、その依頼はまだ完遂してない」
と、クロム。
「ふむどんな依頼だ?」
「最近この辺境の地でモンスターが活発化してるんだ。それの調査だよ、そしたらあんたらに出会った」
と、ドク。
「ここいらは前からモンスターが多いのか?」
「いや、そうでもなかった、はずだ。あんたはここのマスターだろ?何か知らないか?」
「残念ながらわからないな、未だこの土地にきて二日だ」
「なっ!?2日でこれだけの勢力を持ち、しかも第2層まであるのか!?」
「そうだが?何かおかしいのか?」
「当り前だ!まず、ダンジョンとは必ず、ダンジョンマスターがいて、仕切っているし、ここのモンスターのように喋ったりしない。それに装備もここのモンスターは充実している。それだけでも、人間からしたら、脅威だ」
ふむ、もしかしたら近くにもう一つダンジョンがあるのかもしれんな。
それで敵側のモンスターがこちらに探りを入れているのかもしれんな。
こちらも行動に移すべきか。
「しかし、我々は外のモンスターを放ったりはしてないぞ。まだまだ軍団としては小規模なほうだ」
「あんたのダンジョンの話しは信じるよ。こうして助けてもらってるからな」
と、クロム。
今のDP1,285ポイント。
装備付きのモンスターを呼びだす召喚陣は確か500倍かかる、ホムンクルススケルトンは1体で50ポイント
、それの500倍だから25,000ポイント必要になる、1日のポイントが2,000ポイントだから最低でも2週間は数をそろえるの必要だ、欲を言えばホムンクルススケルトンメイジもいれて1カ月。
「4人に聞きたい、その依頼の期日は決まっているのか?」
「いえ、特に決まってないわ、こういう調査の依頼は時間がかかるから。それにジャックがこの調子ではあと1カ月から2カ月は必要ね」
と、リリアンヌ。
「そうか、では、こうしよう、その依頼を俺が代わりに受ける。ただしその期間中は、安全の為にもここにいてもらう。途中で町に帰り、物資を調達してくるんだ。その間にこちらは戦力を整えておく。2カ月も貰えるなら、何とかなるだろう」
「原因を見つけるだけでいいのよ、別に戦争をするわけじゃないわ」