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シュガーデイズ レインボーライフ  作者: ふるなる
二章 クレインズ・ガーデン
8/12

二、

 黒いカーテンの隙間から差し込む赤光(しゃっこう)と電球から放たれる眩い光が部屋を照らし出す。

 古びた椅子に座り、体を伸ばす。ラフな体勢で言葉を受け止めていく。

 部室に響く透の声。反省会が始まり、体験した不登校を題材としたイベントについて振り返っていく。行けなかった文香と翔也は透の声に耳を傾けた。

 透が話終えると今度はヨッシーが前に出る。

 ヨッシーは前置きなく唐突(とうとつ)に語り始めた。

「この体験で思いついたんだけど、ウチらで不登校対策のボランティアしない!?」

 それを聞いてひと握りは首を(ひね)る。一方でもうひと握りは「え?」とまじまじと顔を見る。不登校対策のボランティア、浮かぶのはヨッシーが力強く説明した"不登校の子どもと一緒に遊ぶボランティア"である。そして、その案は現実的に困難であると思われた。

「何をやるの? お姉ちゃん」

「うん。不登校の子どもと一緒に遊ぶボランティアをするの!」

 翔也はピンと来ず言った。「何それ」

「ウチらが不登校の子どもの所に行って一緒に遊ぶの!」

「何のために?」

「その子が学校に行けるようにするため! 家の外に出れるようになったら、自発的に学校に行きたいってなるかも知れないじゃん!?」

 翔也を説得させようとヨッシーは力を込めて話した。しかし、翔也は未だ納得した表情を浮かべていない。

 ヨッシーの前に三本の指が出された。

「色々と突っ込みたいけど、ひとまず三つ疑問がある」

 その言葉を聞いて(つば)を飲み込む。他のみんなは様子を(うかが)うように二人を見つめていた。

 三本の指が戻され、人差し指が立った。

「一つ、『遊ぶ』って何を遊ぶの。家に引きこもってる子どもは誰とも遊ぼうとしないと思うけど……」

 冷静な質問を受けて、少し熱の入った答えを返す。

「外で遊ぶのをメインで考えてる。かくれんぼとか大縄跳びとか。ウチらが楽しい(えさ)を差し出して来て貰えばいいって思う!」

 翔也は反論しようと口を開きかけたが、勢いよく突き進む様子を見て、諦めた。気を取り直して次の質問に移る。

「一つ、どうやってその不登校の子どもを見つけるの。もしボランティア願書(がんしょ)を提出しても、それが通るのは難しいと思う」

 翔也はクラボラ部のマネージャーを務める。願書の提出に詳しく、彼の判断が願書の選考の結果とリンクする。願書が通らないことは目に見えてしまった。

 逆風が吹き荒れる。

 激風にも負けずヨッシーは自信満々に答えていく。

「任せて! 一人、アテがあるの!!」

 周りから「アテ?」と疑問が溢れていく。何とも言えない空気に包まれる。ヨッシーは「だから任せて!」と念を押し、強引に二つ目の返答を終わらせた。

 一人だけ透はヨッシーの思考に(しこ)りがあった。何の前触れもなく不登校の子どもの所へと行き、急な説得を開始するヨッシーの姿を浮かばせる。すぐに首を横に振ってその想像を消した。まさかそんな無謀(むぼう)なことはしないだろう、と心の中で言い聞かせた。

 純粋無垢に見つめるヨッシーを見て、ため息が放たれた。

 三本の指を立てた直後に、指を戻される。

「最後の質問をしようと思ったけど……」

 ヨッシーは「けど?」と聞いた。

 翔也は半ば見下す視線でヨッシーを見た。

「多分その案は成功しないことが分かったからやめた。まず遊ぶことから無理だと思う」

 翔也の明快(めいかい)な意見が、周りを頷かせた。ただ、ヨッシーだけは納得出来ずに見つめ返す。

「やってみるまで分かんないよ! じゃあさ、もしウチが、不登校の子と遊べる段階まで進めたら、協力してくれる?」

 翔也は透の方を見た。判断を委ねられたのだ。

 他の観客は目を(つぶ)り頷く。そして、部長に意見を委ねた。

 透はその雰囲気に気圧され、仕方なく口を開いた。

「まあみんながいいなら、いいと思うよ」

 周りを見渡す。満場一致で賛同の頷きが返された。

 透はチャンスを与えた。希望を見出した彼女の顔を嬉しさが包んだ。

 陽炎(かげろう)と電球の二つの光が彼女の背中を優しく押したのだった。

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