二、
黒いカーテンの隙間から差し込む赤光と電球から放たれる眩い光が部屋を照らし出す。
古びた椅子に座り、体を伸ばす。ラフな体勢で言葉を受け止めていく。
部室に響く透の声。反省会が始まり、体験した不登校を題材としたイベントについて振り返っていく。行けなかった文香と翔也は透の声に耳を傾けた。
透が話終えると今度はヨッシーが前に出る。
ヨッシーは前置きなく唐突に語り始めた。
「この体験で思いついたんだけど、ウチらで不登校対策のボランティアしない!?」
それを聞いてひと握りは首を捻る。一方でもうひと握りは「え?」とまじまじと顔を見る。不登校対策のボランティア、浮かぶのはヨッシーが力強く説明した"不登校の子どもと一緒に遊ぶボランティア"である。そして、その案は現実的に困難であると思われた。
「何をやるの? お姉ちゃん」
「うん。不登校の子どもと一緒に遊ぶボランティアをするの!」
翔也はピンと来ず言った。「何それ」
「ウチらが不登校の子どもの所に行って一緒に遊ぶの!」
「何のために?」
「その子が学校に行けるようにするため! 家の外に出れるようになったら、自発的に学校に行きたいってなるかも知れないじゃん!?」
翔也を説得させようとヨッシーは力を込めて話した。しかし、翔也は未だ納得した表情を浮かべていない。
ヨッシーの前に三本の指が出された。
「色々と突っ込みたいけど、ひとまず三つ疑問がある」
その言葉を聞いて唾を飲み込む。他のみんなは様子を窺うように二人を見つめていた。
三本の指が戻され、人差し指が立った。
「一つ、『遊ぶ』って何を遊ぶの。家に引きこもってる子どもは誰とも遊ぼうとしないと思うけど……」
冷静な質問を受けて、少し熱の入った答えを返す。
「外で遊ぶのをメインで考えてる。かくれんぼとか大縄跳びとか。ウチらが楽しい餌を差し出して来て貰えばいいって思う!」
翔也は反論しようと口を開きかけたが、勢いよく突き進む様子を見て、諦めた。気を取り直して次の質問に移る。
「一つ、どうやってその不登校の子どもを見つけるの。もしボランティア願書を提出しても、それが通るのは難しいと思う」
翔也はクラボラ部のマネージャーを務める。願書の提出に詳しく、彼の判断が願書の選考の結果とリンクする。願書が通らないことは目に見えてしまった。
逆風が吹き荒れる。
激風にも負けずヨッシーは自信満々に答えていく。
「任せて! 一人、アテがあるの!!」
周りから「アテ?」と疑問が溢れていく。何とも言えない空気に包まれる。ヨッシーは「だから任せて!」と念を押し、強引に二つ目の返答を終わらせた。
一人だけ透はヨッシーの思考に凝りがあった。何の前触れもなく不登校の子どもの所へと行き、急な説得を開始するヨッシーの姿を浮かばせる。すぐに首を横に振ってその想像を消した。まさかそんな無謀なことはしないだろう、と心の中で言い聞かせた。
純粋無垢に見つめるヨッシーを見て、ため息が放たれた。
三本の指を立てた直後に、指を戻される。
「最後の質問をしようと思ったけど……」
ヨッシーは「けど?」と聞いた。
翔也は半ば見下す視線でヨッシーを見た。
「多分その案は成功しないことが分かったからやめた。まず遊ぶことから無理だと思う」
翔也の明快な意見が、周りを頷かせた。ただ、ヨッシーだけは納得出来ずに見つめ返す。
「やってみるまで分かんないよ! じゃあさ、もしウチが、不登校の子と遊べる段階まで進めたら、協力してくれる?」
翔也は透の方を見た。判断を委ねられたのだ。
他の観客は目を瞑り頷く。そして、部長に意見を委ねた。
透はその雰囲気に気圧され、仕方なく口を開いた。
「まあみんながいいなら、いいと思うよ」
周りを見渡す。満場一致で賛同の頷きが返された。
透はチャンスを与えた。希望を見出した彼女の顔を嬉しさが包んだ。
陽炎と電球の二つの光が彼女の背中を優しく押したのだった。