五、
雨が地面を濡らし温度を低くする。
月が雨を降らす雲で隠される。その下では小さな子どもがいる家族が明日のためにてるてる坊主を飾っている。着実とやってくる日曜日に雨が重なることがないように、と願っているようだ。
出雲桜は電球が照らす部屋で優しく微笑んでいた。
「明日も泊まっていきなよ。お父さんも歓迎だって言ってたしさ」
「本当にですか。良ければお言葉に甘えたいです」
桜は喜々として座っていたベッドから立ち上がった。それを見ていた双葉は貰い笑いで微笑んだ。
「お父さんにも言ってくるね!!」
桜は部屋から出て行く。
取り残された双葉はベッドに倒れ込んだ。柔らかい布団とぬいぐるみはのしかかる衝撃を吸収し、潰れていった。
片方の二の腕で蒼眼を隠す。刹那に暗くなる視界。作り出された暗闇が双葉の意識を別世界に移す。闇の中でもう一つの人格と鉢合わせになった。
手を垂直に、電球の方向に、真上に昇る月に向かって伸ばす。掌が開く。隠し続け、そのせいで目には見えなくなってしまった自分を掴もうと握る。しかし、何も掴むことは出来なかった。
もう一人のわたくしは本当の自分じゃない────
社会を憎み、乱暴で血の気が多い双葉。本当の自分を隠し続け、その自分が喪失した際に現れた人格。
けどわたくしも本当の自分じゃない────
物事を恐れ、丁寧で謙虚に振る舞う双葉。もう一つの人格。今もこびりついた苦しみから逃げ続けている。
消えた本物に会うためには茨の道を進まなければならない。しかし、二人ともその道に歩むことなく、目の前に映る景色で本物を探している。いや、無意識に本物を遠ざけているのかも知れない。
心の中で誰にも言えない本音を呟いた。
辛い。助けて────